君と見る雨垂れ

塚口悠良

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3. やりたいことノート

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 帰宅部の体験入部からは岩本とよく話すようになった。結局岩本は帰宅部が一番楽しかったとか言って無所属のままだ。なりゆきで一緒に帰ることが増え、いろいろな話をした。その中で、岩本は一冊のノートを取り出したことがある。そこには”やりたいことノート”と書かれており、大小様々な叶えたい夢が書かれていた。そこには「部活全制覇!」や「帰宅途中に買い食いする!」など、もう既に達成したであろうものもあり、それには花丸マークがつけられていた。

・コロッケを手作りする!
・楽器を始める!
・好きな花を家の周りで見つける!
・オリジナルレシピを作る!
・友だちと文通する!
・バッティングセンターに行く!
・テーマパークで遊ぶ!

 見せてくれたノートにはこのような夢が沢山綴られていた。見開きのページに所狭しと書かれていて、次のページにもどうやら何かを書いてあることが分かりめくる。すると、そこにはたった一行だけ書かれていた。

 自由でいたい

 その言葉が目に飛び込んできた瞬間、手元のノートが取り上げられる。いつもと変わらない笑顔で見つめてくる岩本にノートを見せてくれた礼を伝えて、世間話を装った探りを入れる。こうまでやりたいことを詰め込んでいるのはどうしてなのか。最後の一行は、どういう意味なのか。しかし、明確な答えは返ってこなかった。にっこりと笑った岩本は、ひとりでは叶えられない夢が沢山あるから、付き合って欲しいと言い始める。どうして俺なのだろう。疑問が浮かぶけれど、俺自身も知りたいことが出来てしまった。だからこれは、岩本が思っているような一方的なわがままではない。しかし、それを本人に伝えることは俺には出来なかった。

 それからは、放課後に先生から許可を貰って特別教室を借り、作ってみたかったというコロッケを作ったり、三駅先の楽器屋まで自転車を走らせたり、というなんとも忙しい日々を送っていた。何をするにも目を輝かせて楽しむ岩本は無垢な子どものようだった。
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