君と見る雨垂れ

塚口悠良

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5. 最後の夢

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 普段通り、岩本の目標に付き合う日々がまた始まった。その、最後の日。明日には海外へと行ってしまう岩本に最後に何がしたいかを聞く。最後、という言葉を口にする度に胸が締め付けられて息がしづらくなる。嫌だ。いなくならないでほしい。子どもみたいな駄々が頭を過ぎるけれど、それを実際口にできるほどに俺は子どもではいられなくて。ゆっくり息を吸って、吐いて。岩本の言葉を待った。
「……全部、叶ったよ。キミのおかげで」
 そう、言われて。優しく微笑まれてしまったから。それが事実だったとしても、受け入れられなかった。「自由でいたい」と書かれていたのを知っている。親の事情に巻き込まれ続けた結果友人もろくにできない生活であることを知っている。夢が叶ったと子どもみたいにはしゃぐ姿を知っている。だから、その諦めたような笑みが岩本の「本当」じゃないことくらい、俺は知ってる。岩本の言葉をじっと待つ。そんな上辺の感謝じゃない。本気の言葉が聞きたい。綺麗な幕引きなんて、俺達には必要ない。
「……一緒に、いたい」
 ぽつりとこぼされた言葉は、今まで聞いたどんな言葉よりも震えて、かすれて、音になりきっていないほどだった。でも、ちゃんと聞こえたから。叶えるよ。だから、泣かないでほしい。

 二人で見上げた夜空はどうしようもなく綺麗で、滅多に見えやしない星たちがチラホラと煌めいていた。公園のベンチに二人で座って、言葉を交わす。その全部を忘れてしまわないように、しっかり記憶に刻んだ。海外での生活は初めてじゃないから、不安はそこまで大きくないらしい。なら、良かった。と思うけれど、やっぱりいなくならないでほしいと願ってしまう。ひとつ息をついたとき、岩本が自分の腿をぱしんと叩いた。音に驚いて顔を向けると、水の膜を張った瞳を大きく見開いてじっと覗き込んできた。
「叫んでいい?」
 なにを、とか。あんま目立つと補導されるぞ、とか。まあ言いたいことはあったが、ひとまず頷いてやることにした。好きにしろ。生きたいように生きろ。
「……いきたくなーい!! 木南くんとまだ遊びたいーーー!!」
 思ったより素直に吐き出された感情に思わず吹き出す。やっぱり、岩本はこうでなきゃ。笑ったことで大袈裟に文句を言われるが、それもまた腹筋に追い打ちをかける。
「住所、教えて。手紙送るから」
 スマホでやりとりをするだけじゃ嫌だという岩本に住所を教えてやる。国際料金になるからこちらからは送ってこなくていいなんて言いやがるから軽く額をはたく。同じだけの温度感を期待しろよ。俺は今日が地球最後の日だってお前と一緒にいるつもりなのに。その言葉は胸にしまって、また他愛もない会話を始める。真っ暗だった空がかすかに白む。すこし緩んだ滑舌と回らない頭が眠気を訴えてくる。まだ、一緒にいたい。俺が、もっと大人なら、岩本を引き止められたんだろうか。そんな不毛な思考が脳内を覆う。最後に、きちんと伝えないといけない。いつも、全部言わせてばかりだから。最後くらい、ちゃんと。
「……岩本。お前の隣の席が俺で、良かった。お前のおかげでめちゃくちゃ楽しい時間を過ごせた。ほんとはもっと、一緒にバカやってたかったけど、日本に帰ってきたらまた、絶対遊ぼうな。やりたいこと、俺も考えとく。お前と叶えたいこと、考えとくから」
「うん。ありがとう。木南くんに出会えて良かった」
 日の出の光が岩本を照らす。まるで後光が差したかのようなその姿はどんな絵画よりも美しかった。こうして岩本は海外へ旅立って行った。岩本がいなくなってしばらくは無気力に過ごしていたけれど、アイツに約束してしまったからには、叶えたい夢を探すしかない。岩本のおかげで毎日を目標達成に向けて歩むことができるようになった。次に岩本と会うときに驚かせてやれるような成果を残しておこうと心に誓って生活をしていくのだった。
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