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塚口悠良

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#9. おそろい

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 たまたま、クラスで席が隣になった。
 たまたま、あの子が持ってたペンケースが同じブランドのものだった。
 たったそれだけだけど、クラスメイトに話しかけるにはまあ十分すぎるくらいの口実だ。だから、それを利用した。そしたらなんか、思ってたよりおっきい反応が返ってきて、みるみるうちに仲良くなった。お揃いはペンケースだけじゃなくて、好きな食べ物、嫌いな授業、面白いと思う芸人、よく読む漫画。おかしいくらいお揃いで、それがなんだかすごく嬉しかった。休み時間とか放課後とか、話せる時間はずっと話をした。クラスのやつらに冷やかされることもあったけどお互いそういうのはどうでもいいと思ってて反応しなかったらすぐに無くなった。やっぱりああいうのは反応したら負けだ。この関係を壊されたらと思うと気が気じゃなかったし、勝てて良かったと思う。
 今日も今日とていろんな話をする。昨日見たアニメの話、Twitterで見た面白いライフハック。今日の授業の愚痴。何時間話したって話の種はそこら中に散らばっていて話題に困ることなんて全然無かった。なのに時間だけがいつも足りない。下校時間になって悔しいって思ってたら、そっと袖口を引かれる。
「ねえ、今晩ヒマ?」
「あ、うん。まあ」
「じゃ、じゃあさ! 電話、しない? 話し足りなくて」
「いいよ。何時くらい?」
「えっと……八、いや九時!」
「オッケー。いつでも掛けてきていいから」
 そう言って今日は解散した。俺、大丈夫だっただろうか。笑ってしまうくらい浮かれた。いつもはしない約束をできた。いつも早く明日になれって願ってたけど、今日は家に帰ってもあの子の声が聞ける。嬉しい。嬉しい! 顔がにやけてどうしようもない。今俺どんな顔してるんだろう。
 
 晩ご飯を食い終わって、風呂に入って、時刻は八時半。あの子からの電話までまだ三十分もある。でも、そわそわしちゃってなんもする気が起きない。ため息をついてベッドに倒れ込んだそのとき、スマホが呼び出し音を鳴らした。びっくりしすぎて思わず変な声が出たけど急いで表示を確認した。そこにはあの子の名前。慌てて応答すると電話口から申し訳なさそうな声がした。
「ご、ごめんね。早かった……よね?」
「え、いや、全然ヘーキ! 全然、別に部屋いたし」
「そ? なら、良かった。早く支度が終わっちゃってね、待ちきれなくて。出なかったらそれでもいいやって、掛けちゃいました」
 恥ずかしそうな言葉が俺をものすごく舞い上がらせる。こんなん、浮かれるだろ。俺だけじゃ、ないんだ。楽しみにしてて、ソワソワしてて、待ちきれないの。俺だけじゃない。
 そこからは俺もあの子も普通にいつもの通りいろんな話をした。夢中で話していたら一つあくびが聞こえる。我に返って時計を見ると、いつの間にか日付が変わってしまっていた。
「もう眠い?」
「全然! って言いたいけど……ちょっと」
「じゃあもう寝よ。明日も、すればいいし」
「……いいの?」
 こうして俺たちは夜の通話が日課になった。
 
 夜に電話をし始めて何日か経ったある日、切る直前にあの子が何かを呟くようになった。最初はなんて言っているのか分からなかったけど、なんとなくなにを言ってるのか訊けなくて。なぜかそれを訊いてしまうと終わってしまう気がして。毎回、毎回。気になって、耳を澄ませた。そしたら何回か聞いてるうちに聞き取れるようになった。言葉が聞き取れた瞬間叫び出さなかったのを褒めて欲しい。マジで。でも、あんまり聞こえないように言ってるってことは、隠しとくつもり、ってことなんだろう。いいよ。だったら聞こえなかったふりするよ。それからも何度もあの子の秘密の言葉を聞いた。ずっと、ずっと、このままでもいいのかなって思ってた。だけど、なんだか急にさみしくなった。こんな気持ちまでお揃いなのに、なんで俺たちはこんなちゅうぶらりんなまま過ごしてるんだろう。俺の気持ち、本当に伝わってないのかな。そう思うとなんかちょっと腹まで立ってきて。今日の通話で秘密の言葉を終わりにする覚悟を決めた。たくさん話して、たくさん笑って。おやすみなさいって言って電話を切る、その直前。
「大好きだよ」
 そのまま通話は切れたけど、すぐにもう一回かかってくる。それを俺は心底浮かれた気持ちで取った。
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