枯れ落ちる花

塚口悠良

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本音と建前

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 いつも通り、また二人でベッドに入って、いつもの流れ。そっと触れてこようとした優菜の手を掴んで声を掛ける。

「ねえ、ちょっと真面目な話」
「ん、なに?」

 私の言葉にこてんと首を傾げてこちらを向く優菜の目を見て、しっかりと伝える。

「優菜はさ、この関係続けてて、いいの?」
「え? あー……彼氏できただろってこと?」

 バツが悪そうに頬をかく優菜に軽くため息をつく。今日、会ってすぐ伝えられたのは「彼氏ができた」という報告だった。だから、こういうことはしないんじゃないかと思ってた。だからこそ、いつも通り触れてきた優菜の真意を確かめる必要がある。

「彼氏がいるから、っていうのはまあ、私にも言えることだけど」
「んー……付き合ってから一週間、家に居てもなんにもしてこないしなー。正直きもちいことは嫌いじゃないし、別にいっかなって思ってるよ。女の子同士ならノーカンみたいなもんでしょ」

 なんとも楽観的で、一般的ではない言葉に思わず眉を顰める。言いたいことも分かるし、その感覚は私にだってないものじゃない。でも、優菜にとっては私はいつまでも友達。女同士で、ノーカンな相手。そこが揺らぐことがないっていう自信がある。でも、私は。

 私にも、その自信があればよかったのに。

「心は、彼氏に。身体は、私にってこと?」
「んー……そうじゃなくて。心は美咲にもあげたい。バランス取ってたいって感じかな。でもまあ、彼氏がなにもしないなら、別れたときのためにも何も起こさずこのままでいたらいいかなって思ってるよ。美咲とはそういうこと出来るわけだし?」

 だったら、両方兼ねられる私にすればいいじゃん。そんな言葉は、すんでのところで飲み込んだ。これをぶちまける勇気は私にはない。

「まあ、アンタがいいならいいか。私はもうすぐ分かれるつもりだし」
「あー……決めちゃったか」
「決めちゃった。でも、ちょっとタイミングみてる。……ねえ、もし優菜も別れたら、いっそ私たちで付き合っちゃう?」

 ぎりぎり、これが限界。真剣に伝えることなんて、できやしない。関係を壊すのが一番怖い。そしてなにより、自分自身がこの感情に名前を付けあぐねているのだから、本気の言葉なんて出せるわけがなかった。

「えー……それは、どうかな~?」
「どうかなってなに? はっきりしなよ。アリ? ナシ?」
「え~? んー……いやー……」
「ナシって言えよ。バカだなぁ。そんなんだから私に流されるんじゃん」
「あはは。まあ、そうなんだけどね」

 笑ってごまかす優菜に少し苛立つけど、これは仕方がない。冗談に本気で返すバカがいるわけないんだから。それに多分、彼女は本当にそうなってみないとわからない人間だと思う。今だって、たまたま大丈夫だったって感じだ。多分、倫理観に好奇心が勝ったから。でもね、優菜。好奇心は猫をも殺すって、言うんだよ。そんなありきたりな忠告の言葉は音にならずに空気に溶ける。どこまでも愚かで、だからこそ心地の良いこのふれあいをなくすきっかけを自分から作りにいけるほど、私は強い人間ではない。
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