声に恋する君に恋した

塚口悠良

文字の大きさ
18 / 29
4.運命力とかそういうもの

4-2.オタクのたしなみ

しおりを挟む
 スマホで表示させたサイトを橘に見せながら口を開く。
「俺さ、このサイトで記事書いてんだよね」
「これ……え、書いてるの北見!?」
 表示したサイトは毎クールのアニメを一話ごとに感想・考察として記事にしているもの。自分で言うのもなんだが、かなり閲覧数は回っている。恐らく、橘も見たことがあったのだろう。目の前でスマホの画面と俺の顔を交互に見て口をパクパクさせる橘に耐えきれず大笑いしてしまった。
「ちょ、笑うことないだろ。びっくりしたんだから……。そっか。北見だったのか」
 驚きを通り過ぎたらしい橘はぼそりと呟き微笑んだ。
「『アイドルスタート』第一期第七話、『夢の先を見つめて』の記事。俺の大好きなカナメが、人生で初めて仲間の存在を肯定できた、大切な話だ。その記事で、アイドルに対して、『アイスタ』に対して、よく知らないなりに受け取った熱意と覚悟を言語化して伝えてくれたのが、めちゃくちゃ嬉しかった」
 橘の言葉に、今度は俺が驚くことになる。その記事は、俺にとっても印象深いものとなっていた。アニメの感想記事なんて、コメントがつくこと自体がそう多くない。ついたとしても、自分なりの解釈を展開したり、認識の甘い部分を指摘するようなものが多いし、そういう場であると認識している。けれど、あの記事には、今までになかった感謝と俺の記事に対する感想が長く綴られたコメントがついた。自分の考えがファンの方の心に残ったことが嬉しくて、自分の文章を肯定されたのが嬉しくて、しばらくスクショを取って眺めていたのだ。
「違ったら、悪いんだけど。結構長めにコメントくれた?」
「……うん。迷惑かなって思いながら、感謝を伝えたくて書いた」
「長文のコメント、感謝ベースで書かれることってマジでなくて。……すげー嬉しかったし、励みになったんだよ」
 もともとアニメが好きで、だから見てるし、自分の記録として書いてるだけの記事たちだけど、やっぱりネットにあげるという行為を行っている分、反応があれば嬉しいものだ。あのころはちょうどサイトが閲覧数を増やしていたタイミングでもあったから、噛みつかれることも多かった。そんな中でもらったコメントだったから、本当に心を救われていたところがある。恥ずかしそうに頬を染めて俯いた橘の頭に触れる。救われたって言ってるんだから、胸張って欲しいところだけどな。
「お互い、出会う前から感謝し合ってたとか、運命力高めだな」
「……北見」
 消え入りそうな声で名前を呼ばれる。橘が吐く息が震えていて、髪から覗く耳が赤い。小さく息を吸ったあと、何かを呟いたみたいだったけれど、それが俺の耳に届くことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

王弟の恋

結衣可
BL
「狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない」のスピンオフ・ストーリー。 戦時中、アルデンティア王国の王弟レイヴィスは、王直属の黒衣の騎士リアンと共にただ戦の夜に寄り添うことで孤独を癒やしていたが、一度だけ一線を越えてしまう。 しかし、戦が終わり、レイヴィスは国境の共生都市ルーヴェンの領主に任じられる。リアンとはそれきり疎遠になり、外交と再建に明け暮れる日々の中で、彼を思い出すことも減っていった。 そして、3年後――王の密命を帯びて、リアンがルーヴェンを訪れる。 再会の夜、レイヴィスは封じていた想いを揺さぶられ、リアンもまた「任務と心」の狭間で揺れていた。 ――立場に縛られた二人の恋の行方は・・・

何度でも君と

星川過世
BL
同窓会で再会した初恋の人。雰囲気の変わった彼は当時は興味を示さなかった俺に絡んできて......。 あの頃が忘れられない二人の物語。 完結保証。他サイト様にも掲載。

僕を守るのは、イケメン先輩!?

BL
 僕は、なぜか男からモテる。僕は嫌なのに、しつこい男たちから、守ってくれるのは一つ上の先輩。最初怖いと思っていたが、守られているうち先輩に、惹かれていってしまう。僕は、いったいどうしちゃったんだろう?

嫌いなあいつが気になって

水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!? なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。 目に入るだけでムカつくあいつ。 そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。 同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。 正反対な二人の初めての恋愛。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...