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一度きりのさよなら

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ぼくがこの世に生まれたのは、北の大地の奥深い森だった。

大きな木の一部だったころ、ぼくは風の音や鳥のさえずりを毎日聞いていた。雨粒が枝を伝って落ちる音が好きだったし、雪が積もって森全体が静かになる冬も、悪くなかった。

ある日、誰かの手で切られ、運ばれ、削られ、機械に挟まれ、熱で乾かされて、気がつけば「割り箸」になっていた。

――使い捨て。
それがぼくに与えられた運命。

箱に詰められ、店へ運ばれ、棚に並べられたぼくたちは、まるで消耗品。誰かに選ばれるのをじっと待つ。

でも、ぼくは知っている。
ぼくらの一生は**たった一度の「割られる瞬間」**で決まるということを。



その日、ぼくはある弁当屋のカウンターで、少年に選ばれた。

夏の終わり。彼は部活帰りのようで、汗だくでお腹を空かせていた。

ベンチに腰かけ、彼はぼくを手に取る。
一瞬、じっと見つめる。目に映るのは、ただの木の棒だろう。だけど、ぼくにとっては、これが人生のクライマックスなんだ。

「いただきます」

彼の手が、ぼくの真ん中を割る。
パキッ。

――痛みなんて、ない。
それよりも、ぼくは誇らしかった。

おにぎりをつかむとき、少しだけ彼の指がぼくを強く握る。唐揚げに喜び、玉子焼きで笑い、味噌汁のカップを片手にぼくを置いたその表情が、とても満たされていた。

ぼくの人生は、一食分。
でも、その短さを悔しいとは思わない。

だって、誰かの「おいしい」の一部になれたから。



やがて彼は食べ終え、ぼくは弁当の空箱の上に横たえられる。

「ごちそうさま」

その言葉を聞いたとき、ぼくの芯まで温かくなった。
たった一度でも、誰かの役に立てたこと。
それが、ぼくのすべてだった。

風が吹いて、袋の端がカサカサ鳴る。

夕暮れの光が、ぼくをやさしく包む。

「さよなら」は、一度きりでいい。

それがぼくの、誇りだから。
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