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君から始まるぼくの朝
しおりを挟む朝、ぼくは静かに棚の中で目を覚ます。
暗い棚の奥にいる時間は、正直退屈だ。けれど、ドアが開く音が聞こえると、心が跳ねる。今日もきっと、あの人がぼくを選んでくれる気がするから。
ガチャ。
「……おはよう。」
眠たげな声。いつもの君だ。少しボサボサの髪。片手でぼくを取り、もう片方でコーヒー豆の袋を握る。その動作にはなんの特別さもない。けれど、ぼくにとっては一日の中で一番尊い時間。
ドリップの音、香ばしい香り。ぼくの中に熱い命が注がれるたび、「今日も君の朝を支えてるんだ」って誇らしい気持ちになるんだ。
君は時々、ぼくを両手で包み込む。冷えた指先をあたためるように。ぼくの陶器の体は、そのときだけヒーターみたいに感じるんだよ。
でも、最近は違う子が使われることが増えた。新しい白くてスマートなやつ。取っ手がスタイリッシュで、まるで都会育ちのモデルみたい。
「こっちの方が大きくて便利だし、保温も長くもつんだよね」
そう言って、君はぼくを棚の奥へ戻す。まるで…もう必要ないっていうように。
わかってる。ぼくはちょっと小さくて、重たいし、もう少し欠けてるところもある。でも、君の初めてのひとり暮らしのとき、あの雑貨屋で「これ、かわいい!」って言って選んでくれたのは、ぼくだった。
あの冬の夜、君が泣きながらぼくを抱えてベランダに出たことも覚えてる。泣き声と、ココアの甘い香りと、少しの雪。ぼくは、ただそこにいるだけだったけど、君の手の中で、君と一緒に冬を越えたんだ。
⸻
今日もまた、棚の奥に日が差す。
君の手が、久しぶりにぼくを探し当てる。
「……なんか、久しぶりに使いたくなっちゃった」
君の笑顔。ちょっとだけ大人っぽくなった君が、ぼくを見つめるその目に、あの頃の温かさがまだ残ってる。
コーヒーが注がれる音。ぼくの中に、また君の朝が流れ込んでくる。
ああ、やっぱり。ぼくの朝は、君から始まるんだ。
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