ショートストーリー

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風の吹く先

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わたしはこの家に来て、もうすぐ5年になる。
ピンクゴールドのゴージャスなボディは相変わらず美しい。けど5年も経つと持ち手のラバー部分が少し汚れてきた。
それでも、まだ風は、ちゃんと出る。
温かく、やさしい風が。

 

わたしが動くのは、たいてい夜だ。
お風呂あがりに、彼女がわたしを手に取る。

「ふぅ……今日も疲れた」

その独り言を聞くのが、わたしの一日の中でいちばん好きな時間。
わたしは、彼女の髪をゆっくり乾かす。
根元から毛先まで、優しくなでるように。

風は目に見えない。
でも、たしかにそこにある。
あたたかく、頼りなく、それでいて、何かを包み込むような存在。

それは、少しだけ、わたしと似ている気がする。

 

ときどき、彼女は泣いていることがある。
鏡の前で、何も言わずに。
けれど手は止めない。
わたしのスイッチを入れ、風が耳元をすりぬけていく。

そのとき、わたしはいつも迷う。
もっと強い風を送るべきか、そっと寄り添うように弱くするべきか。

でも、結局は、いつもと同じように風を送るだけ。
それしか、できないから。

 

ある日、彼女の声が弾んでいた。
新しい仕事が決まったらしい。
乾かす髪の向こうに、明るい笑顔が見えた。

その日、わたしの中を通る風も、なんだか軽やかだった。
まるで、わたしまで少し浮かれてしまったかのように。

こういう日が、もっと増えるといい。
そう願いながら、今日もわたしは包み込むように風を送る。

 
最近、洗面台の隅に、見慣れない箱が置いてある。
中身は、新しいドライヤー。
スタイリッシュで、風量もある、きっと性能もいい。

わたしより、ずっといい。

彼女はまだ、わたしを使ってくれている。
けれど、いつまでだろう?

わかってる。
いずれ壊れて、忘れられて、処分される。そんな日が来ることを・・・


だけど、最後の日が来るまで。
わたしは、包み込むような暖かい風を送りつづけたい。

あなたの髪が乾くまで、
あなたの心が少しでも軽くなるようにー
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