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序章 = 終 =
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ステラと別れ、リーゼ達は他の村人達と共に一行は結界の楔へと急ぎます。
楔ではユナの父、スティーブが結界の守り人としての役割を果たしているはずです。そこには、村人は災害や非常時の為の保存食等も備蓄しています。それに、何よりもスティーブの結界の力があれば、炎も防げるのです。
「かあさ……」
リーゼに背負われユナは悲しそうに後ろを見つめていました。離れた母が、恋しいのです。それに気付いたリノは、なんとか慰めようと必死です。
「ユナ!俺がだっこしようか?」
ユナの緑色の大きな瞳に目線を合わせて、言いますがユナはプイっとそっぽ向いてしまいました。
「いや、俺が抱えるよ。リノ」
「待ってよ!アタシが」
間に、割って入ろうとしたアンジェでしたが、
「お前は、大事な戦力だ」
「そうだぜ!」
「うぅ………」
兄弟二人からこのように言われ、アンジェは静かに引き下がりました。
そんなかわった争いをしだした三人と、それと母と別れてしまったことに、ついに我慢が出来なくなったユナが、泣き出してしまいました。
「うわーん!わーん!」
「お前ら!少し静かにしろ、ユナ、かあ様は強いから大丈夫だ。遅れて必ず追い付いてくるよ」
リーゼがユナを慰めます。
「そうそう。大丈夫だ、ユナ 」
(本当に?そうなのか?そんな話聞いたこともない )
「確かに、ステラおばさん強いもんな」
(おれもないけど、ともかく話し合わせとけ)
目と目で兄弟は通じあっていました。
「うぅ、ううーかあさ、強くないもん!アンジェとちがうもん!!」
耳の鼓膜が割けんばかりにユナは叫ぶと、するりと、身軽にリーゼの背から抜け出してしまいます。
「わっ、こら!ユナ!」
ユナは小さな体ですので、歩幅の大きな少年らにはあっという間に追い付かれてしまいます。
「ほら、戻っておいで、かあ様の迷惑になるぞ」
「やー」
威嚇するように、イーっと歯茎を見せていますが、可愛らしいもので、全くの威嚇になっておりません。
「ユナ、みんなといないと母さまが心配するだろう?」
「やぁっ!!」
優しくリーゼ達が呼び掛けますが、ユナは言うことを聞かずに小さな足で懸命に逃げ出しました。
「ユナ!」
あまりにも懸命に走っていたせいで、普段なら気がつく不穏な音にユナは気がつきもしませんでした。
「にゃ!」
突然ロープがちいさな体にからみつきあっという間に、ユナはロープで引かれ馬にのった男が、があっという間にユナを浚ってしまいました。
「ユナ!」
「まて!その子を返せ!」
リーゼは手持ちの弓を構えて狙いを定めますが、ユナにあたる可能性があり、結局矢を放てませんでした。
「っ!シン!お前たちは、先にこの先にいるスティーブさんの所にいけ!恐らく元々の狙いがユナだったんだ。じゃなければ俺達も狙うはずだ」
「リーゼはどうすんだよ!」
「俺はユナを奪い返してくる!」
「リーゼ!俺たちもユナを助けにいく!」
「いいや、お前たちにしか頼めん。この先の楔の場所を知っているのはおまえらだけだ。
この人達を安全な場所に導いてほしいんだ」
「でも!」
「お前ら兄弟にしか頼めないんだ、たのむ」
みどりの瞳が真っ直ぐに二人を見つめます。
その真剣な眼差しに二人は大人しく引き下がりました。
「……わかったよ」
「よし!いい子達だ!皆を頼むぞ」
「代わりに、必ずユナを連れかえってこいよな!」
「当然だ!」
彼らはそこで、二手にわかれることとなったのでした。
「おい、捕まえたのか?」
「あぁ、このガキだろ?噂で一番ちっちぇガキが次期当主様ってな。
どう見てもこいつだろ?」
「ふーん、こいつがねぇ。
結界の一族、リドリーの一族次期頭主様ねぇ。
そんなことより、この先にあるんだろうな?お宝は」
「あぁ、この間商人から聞いたんだけど、この先の断崖絶壁に一つを祠があるんだそうだ。
その下には大樹の守人モルバダイン一族から預かった宝物を隠しているらしいぜ」
「モルバダインか。あの伝説の巨人の一族様ねぇ」
「あぁ!大樹にはそうそう近づけやしねぇが、あの程度の村なら余裕だぜ。それに今回の狙いはこいつだけだからな。
村を軽くあぶりゃ出てくるとおもってたぜ」
「そうだな!こいつの親父はもう始末したしな、後は皆殺しだ」
「けけ、まぁ、それは後の楽しみにしようぜ、
それよりほら、早く祠へ向かおうぜ」
馬に運ばれ着いた先には、血を流してもう、息のない男が一人で巨大な水晶を血に染めていました。
「ほら、お父さんとの感動の対面だ」
ユナの頭を掴み、もう動かない父の頭を掴むと男はユナに父の顔を見せつけます。
「よかったなぁ。ぼうず。お父さんと再開だぁ」
ユナは恐怖で最早声がでず、ただ、呆然と青白い顔の父を見ていました。
「さぁて、感動の再開はここまでだ。
俺がわざわざ、お前をここに連れてきたのには理由がある。
それは、お前の父親が守ってきたこの結界の解除だ」
それに、周りの男達は驚きの表情をみせました。
「え?結界? なにいってんです?ボス?お宝は?」
「そうそう、結界なんて金にならないじゃないっすか」
「やかましい!だまってろ!」
男達は不満をボスに伝えますが、目付きのおかしなボスの一括に大人しく引き下がり黙りました。
男の淀んだ瞳と酒と何か腐ったような臭いの口元を寄せながら、男は顔と顔がくっつくほどにユナの顔を寄せ目と目を合わせます。
「いいかぁ、お前はただ俺に言われるままにこの結界の解除をするんだ。わかるかぁ?」
ユナは分からずに、首を横に振りました。
「…………」
「ちっ、まだガキ過ぎてわからねぇか?
聞いてる限りではお前が歴代でも最高の力を持ってると聞いている。
お前なら結界の解除も出来るはずだ」
「………いーや!」
ユナは怯え、男たちの言うことを聞くべきだと、そう直感しているのに、小さな震える声でユナは男に答えます。
それでも、足りないだろうと小さな両手を広げてはっきりと否を伝えました。
男は逆上してユナを殴ろうと大きく腕を振りあげました。ぎゅっとユナは目を閉じ殴られると、構えます。
腕が振りおろされた音が聞こえた気がしました。男の拳は大きくユナが殴られればひとたまりもないでしょう。
しかし、衝撃をまてども痛みはきません。
「そうだ、ユナ、かしこいぞ」
聞き知った声の方をが聞こえ、ユナは目をあけました。
目の前でユナを殴ろうとした男の手は矢で射ぬかれていたのです。
「がぁ!、いてぇ!いてぇえよぉ」
「ボス!大丈夫ですか!!」
「大丈夫なわけあるか!!」
「へっへっ、はぁ、兄ちゃん。ひでぇことしやがるな」
「随分俺の甥っ子を可愛がってくれたじゃないか。
しっかりと落とし前をつけさせてもらう」
「はっ!たった一人でなにができる?この人数相手にどうするんだ?」
「ふん!お前らごときなら俺一人で十分だ。」
(なんて、正直どうしたものかな?この人数だと分がわるいし、何より、ユナだけでも安全な場所に連れてかないと)
そっと、リーゼはユナに耳打ちします。
「ユナ、俺の合図でここから離脱するぞ」
「う、うー」
「大丈夫だ。俺にまかせておけ」
そう言って優しくユナの頭をなでました。
「さぁ、どいつからでもかかってこいよ」
リーゼは挑発するように、手招きをします。
「はっ、おい!てめぇらコイツを生け捕りにしろ!
顔は悪くねぇからな。盗賊団の恐ろしさを体に叩き込んでやる」
「へぇ、そうかい!」
ぞわっとリーゼの背筋に寒気が走りますが、顔には出さずにこらえました。
彼は、腰の玉を一つはずすと地面に叩きつけました。すると、大量の煙がぶわっと辺りを包み込みます。
「ユナ、こんな所とっとと逃げるぞ!」
(しかし、皆は別ルートにいるしどこにユナを避難させるには行きたくはないがあそこしかないか)
リーゼは、ユナを抱えると即座に黒煙の森へと走り出しました。
ひとまず身を隠す場所を求めてのことでした。
そこは、別名が帰らずの森、
一度入れば出ることは慣れた人間でも難しい森です。
「さぁ、てと、どこに隠れるかな?」
───こっちにこい
「え?ユナ?なにかいったか?」
「んーん?」
ユナは首をふります。不思議そうにリーゼをみあげました。
「気のせいか?」
───こっちにこい
また、低い男性の声が聞こえます。
「やっぱり聞こえる!っておい、なんだ?」
ユナたちの乗った馬が狂ったように走り出しました。
「うわぁっ!落ち着けよ!」
何度も何度も宥めようしますが、馬は言うことを聞くことなく森の奥へと走っていきます。
「エリー、落ち着け!大丈夫だ」
そう言っても馬は止まることなく森の最奥へとたどり着いてしまいました。ここは、自警団でも入らない場所です。
小さな水場からさらさらと、水が絶界へと向かって小さな川を作ってながれていきます。
その中心には闇色の剣。
中心には真っ赤な宝石が怪しく輝いています。
「なんだ?この剣……」
リーゼは、ユナを抱えたまま呆然と剣を見ていました。
そうこうしているうちにたくさんの馬の走る音が聞こえてきました。
「おい!見つけたぞ!」
「ガキどもいたぞ!ははっ!!」
「こいつを捕まえればボスは分け前を分けてくれるぞ」
「どうやってここまで、普段ならこんなに真っ直ぐに入ることなんて」
リーゼはじりじりと剣の方に下がります。
「へへ、お前は後でボスがたっぷりと可愛がってくださるそうだ」
「へぇ、それはご遠慮願いたいね。俺、彼女がいるんで」
「ケケケ、なら逆らわずにそのガキを渡しな。優しくしてもらえるかもしれないぜ」
じりじりとリーゼは後ろへと下がり続け黒剣まで、後数十センチ程の距離です。リーゼは、黒剣の柄にに手を伸ばし掛けていましたが、後少しでその手を止めました。
ユナの声が聞こえたのです。
「リーゼ、それさわるのだめ」
「ユナ?」
小さな体が、リーゼの体を突飛ばします。
「あぁ?なにやってんだ?」
「おい!見ろよ!スッゴい剣があるぜ」
「本当だ!宝はこれじゃねぇか?」
「おう、さっさと抜いてコイツらで試し切りでもしようぜ」
男達は我先にと剣に手を伸ばしました。
ですが、男の手に柄が触れたとたんに異変が起こりました。
「あっ!なんだこりゃ」
「おい、なにやってんだ?貸してみろよ」
男の手を離して剣を掴むも手が取れなくなったのです。
しかも、なにやらベッチョりとした感触。
「ぎゃああああぁぁぁ、俺の手が俺の手がぁ!!」
「おい!どうなってんだ!皮がねぇぞ!」
「はぁ?って、げぇっ、俺の腕が溶けてる!なんだよ!これ!」
「おい、とりあえずその手を離せ!」
「やってるけど!とれねぇんだよ!!」
「おい!こいつを引っ張れ!」
「お、おう!」
嘘だろ!取れないし、体が溶けてく!
いやだ!こんな死に方したくない!
ぎゃあああ!
男達の悲鳴が響き渡りました。
その光景を二人は少し離れた場所から見ていました。
「なんてことだ。あいつら、体が溶けて消えた……だと。」
(まるで姉さんの魔法みたいだ…)
「リーゼ、こわい」
「あぁ、だが、お前の言うとおりあの剣には近付かない方がいいな。
仕方ないが結界の方まで戻るとしよう」
───逃がさない
「え?」
───お前らは、あの女の気配がする。あのクソいまいましい女神の。
「ぐっ、引き寄せられる………」
(なんて、力だ。くそ、あんな風に消えてしまうのはごめんだぞ!)
ズルズルと、リーゼとユナは剣な引き寄せられていきます。拒むように足を踏ん張るリーゼのブーツが地面を抉っていきますが、徐々に剣へと引き寄せられていきます。
「ユナ、俺がなんとかしてやるからな、そうだ、帰ったら誕生日会を始めよう。お前のために俺、プレゼント持ってきたんだぞ」
怖くて顔色を青くし震えるユナを抱き抱え、リーゼは明るく、振る舞いユナに励まします。
「リーゼ!!うしろ」
「え?」
リーゼの胸に黒い何かが突き刺さるのが見えました。
────死ね。
「は…は……、もう少…しで………結婚式だったのに、残念だ」
リーゼは、そっと、剣へと触れました。その指先が溶けて消えていきます。
「ゆな、ごめんな、俺に出来るのは此くらいだけだ」
────っ!?
お前は、……………欠片を持ってるのか、ならお前は
ズルリと剣が抜けていきます。
「今度は俺が逃がさない」
────貴様!何をする!!
「あぁ、ようやく見えた。お前が女神が忌むもの。
そうだ。俺は………あんたの嫌いな女神の一族の下僕だ」
───やめろ!欠片を持っているのならお前は
「ユナ怖い思いさせてごめんな。」
「リーゼ!!!!!」
そう言ってリーゼは、ユナに笑うと辺り一体が見えなくなるほどの閃光を放って剣ごと消えてしまいました。
後に残ったのは、蜂蜜色だった髪の色を血のように真っ赤に染めて気を失ってしまったユナだけでした。
その日の事を、僕は思い出せない。
ただ、解るのは、彼の温かなだった腕の感触と、
戻った世界が百八十度変わってしまったことだ。
楔ではユナの父、スティーブが結界の守り人としての役割を果たしているはずです。そこには、村人は災害や非常時の為の保存食等も備蓄しています。それに、何よりもスティーブの結界の力があれば、炎も防げるのです。
「かあさ……」
リーゼに背負われユナは悲しそうに後ろを見つめていました。離れた母が、恋しいのです。それに気付いたリノは、なんとか慰めようと必死です。
「ユナ!俺がだっこしようか?」
ユナの緑色の大きな瞳に目線を合わせて、言いますがユナはプイっとそっぽ向いてしまいました。
「いや、俺が抱えるよ。リノ」
「待ってよ!アタシが」
間に、割って入ろうとしたアンジェでしたが、
「お前は、大事な戦力だ」
「そうだぜ!」
「うぅ………」
兄弟二人からこのように言われ、アンジェは静かに引き下がりました。
そんなかわった争いをしだした三人と、それと母と別れてしまったことに、ついに我慢が出来なくなったユナが、泣き出してしまいました。
「うわーん!わーん!」
「お前ら!少し静かにしろ、ユナ、かあ様は強いから大丈夫だ。遅れて必ず追い付いてくるよ」
リーゼがユナを慰めます。
「そうそう。大丈夫だ、ユナ 」
(本当に?そうなのか?そんな話聞いたこともない )
「確かに、ステラおばさん強いもんな」
(おれもないけど、ともかく話し合わせとけ)
目と目で兄弟は通じあっていました。
「うぅ、ううーかあさ、強くないもん!アンジェとちがうもん!!」
耳の鼓膜が割けんばかりにユナは叫ぶと、するりと、身軽にリーゼの背から抜け出してしまいます。
「わっ、こら!ユナ!」
ユナは小さな体ですので、歩幅の大きな少年らにはあっという間に追い付かれてしまいます。
「ほら、戻っておいで、かあ様の迷惑になるぞ」
「やー」
威嚇するように、イーっと歯茎を見せていますが、可愛らしいもので、全くの威嚇になっておりません。
「ユナ、みんなといないと母さまが心配するだろう?」
「やぁっ!!」
優しくリーゼ達が呼び掛けますが、ユナは言うことを聞かずに小さな足で懸命に逃げ出しました。
「ユナ!」
あまりにも懸命に走っていたせいで、普段なら気がつく不穏な音にユナは気がつきもしませんでした。
「にゃ!」
突然ロープがちいさな体にからみつきあっという間に、ユナはロープで引かれ馬にのった男が、があっという間にユナを浚ってしまいました。
「ユナ!」
「まて!その子を返せ!」
リーゼは手持ちの弓を構えて狙いを定めますが、ユナにあたる可能性があり、結局矢を放てませんでした。
「っ!シン!お前たちは、先にこの先にいるスティーブさんの所にいけ!恐らく元々の狙いがユナだったんだ。じゃなければ俺達も狙うはずだ」
「リーゼはどうすんだよ!」
「俺はユナを奪い返してくる!」
「リーゼ!俺たちもユナを助けにいく!」
「いいや、お前たちにしか頼めん。この先の楔の場所を知っているのはおまえらだけだ。
この人達を安全な場所に導いてほしいんだ」
「でも!」
「お前ら兄弟にしか頼めないんだ、たのむ」
みどりの瞳が真っ直ぐに二人を見つめます。
その真剣な眼差しに二人は大人しく引き下がりました。
「……わかったよ」
「よし!いい子達だ!皆を頼むぞ」
「代わりに、必ずユナを連れかえってこいよな!」
「当然だ!」
彼らはそこで、二手にわかれることとなったのでした。
「おい、捕まえたのか?」
「あぁ、このガキだろ?噂で一番ちっちぇガキが次期当主様ってな。
どう見てもこいつだろ?」
「ふーん、こいつがねぇ。
結界の一族、リドリーの一族次期頭主様ねぇ。
そんなことより、この先にあるんだろうな?お宝は」
「あぁ、この間商人から聞いたんだけど、この先の断崖絶壁に一つを祠があるんだそうだ。
その下には大樹の守人モルバダイン一族から預かった宝物を隠しているらしいぜ」
「モルバダインか。あの伝説の巨人の一族様ねぇ」
「あぁ!大樹にはそうそう近づけやしねぇが、あの程度の村なら余裕だぜ。それに今回の狙いはこいつだけだからな。
村を軽くあぶりゃ出てくるとおもってたぜ」
「そうだな!こいつの親父はもう始末したしな、後は皆殺しだ」
「けけ、まぁ、それは後の楽しみにしようぜ、
それよりほら、早く祠へ向かおうぜ」
馬に運ばれ着いた先には、血を流してもう、息のない男が一人で巨大な水晶を血に染めていました。
「ほら、お父さんとの感動の対面だ」
ユナの頭を掴み、もう動かない父の頭を掴むと男はユナに父の顔を見せつけます。
「よかったなぁ。ぼうず。お父さんと再開だぁ」
ユナは恐怖で最早声がでず、ただ、呆然と青白い顔の父を見ていました。
「さぁて、感動の再開はここまでだ。
俺がわざわざ、お前をここに連れてきたのには理由がある。
それは、お前の父親が守ってきたこの結界の解除だ」
それに、周りの男達は驚きの表情をみせました。
「え?結界? なにいってんです?ボス?お宝は?」
「そうそう、結界なんて金にならないじゃないっすか」
「やかましい!だまってろ!」
男達は不満をボスに伝えますが、目付きのおかしなボスの一括に大人しく引き下がり黙りました。
男の淀んだ瞳と酒と何か腐ったような臭いの口元を寄せながら、男は顔と顔がくっつくほどにユナの顔を寄せ目と目を合わせます。
「いいかぁ、お前はただ俺に言われるままにこの結界の解除をするんだ。わかるかぁ?」
ユナは分からずに、首を横に振りました。
「…………」
「ちっ、まだガキ過ぎてわからねぇか?
聞いてる限りではお前が歴代でも最高の力を持ってると聞いている。
お前なら結界の解除も出来るはずだ」
「………いーや!」
ユナは怯え、男たちの言うことを聞くべきだと、そう直感しているのに、小さな震える声でユナは男に答えます。
それでも、足りないだろうと小さな両手を広げてはっきりと否を伝えました。
男は逆上してユナを殴ろうと大きく腕を振りあげました。ぎゅっとユナは目を閉じ殴られると、構えます。
腕が振りおろされた音が聞こえた気がしました。男の拳は大きくユナが殴られればひとたまりもないでしょう。
しかし、衝撃をまてども痛みはきません。
「そうだ、ユナ、かしこいぞ」
聞き知った声の方をが聞こえ、ユナは目をあけました。
目の前でユナを殴ろうとした男の手は矢で射ぬかれていたのです。
「がぁ!、いてぇ!いてぇえよぉ」
「ボス!大丈夫ですか!!」
「大丈夫なわけあるか!!」
「へっへっ、はぁ、兄ちゃん。ひでぇことしやがるな」
「随分俺の甥っ子を可愛がってくれたじゃないか。
しっかりと落とし前をつけさせてもらう」
「はっ!たった一人でなにができる?この人数相手にどうするんだ?」
「ふん!お前らごときなら俺一人で十分だ。」
(なんて、正直どうしたものかな?この人数だと分がわるいし、何より、ユナだけでも安全な場所に連れてかないと)
そっと、リーゼはユナに耳打ちします。
「ユナ、俺の合図でここから離脱するぞ」
「う、うー」
「大丈夫だ。俺にまかせておけ」
そう言って優しくユナの頭をなでました。
「さぁ、どいつからでもかかってこいよ」
リーゼは挑発するように、手招きをします。
「はっ、おい!てめぇらコイツを生け捕りにしろ!
顔は悪くねぇからな。盗賊団の恐ろしさを体に叩き込んでやる」
「へぇ、そうかい!」
ぞわっとリーゼの背筋に寒気が走りますが、顔には出さずにこらえました。
彼は、腰の玉を一つはずすと地面に叩きつけました。すると、大量の煙がぶわっと辺りを包み込みます。
「ユナ、こんな所とっとと逃げるぞ!」
(しかし、皆は別ルートにいるしどこにユナを避難させるには行きたくはないがあそこしかないか)
リーゼは、ユナを抱えると即座に黒煙の森へと走り出しました。
ひとまず身を隠す場所を求めてのことでした。
そこは、別名が帰らずの森、
一度入れば出ることは慣れた人間でも難しい森です。
「さぁ、てと、どこに隠れるかな?」
───こっちにこい
「え?ユナ?なにかいったか?」
「んーん?」
ユナは首をふります。不思議そうにリーゼをみあげました。
「気のせいか?」
───こっちにこい
また、低い男性の声が聞こえます。
「やっぱり聞こえる!っておい、なんだ?」
ユナたちの乗った馬が狂ったように走り出しました。
「うわぁっ!落ち着けよ!」
何度も何度も宥めようしますが、馬は言うことを聞くことなく森の奥へと走っていきます。
「エリー、落ち着け!大丈夫だ」
そう言っても馬は止まることなく森の最奥へとたどり着いてしまいました。ここは、自警団でも入らない場所です。
小さな水場からさらさらと、水が絶界へと向かって小さな川を作ってながれていきます。
その中心には闇色の剣。
中心には真っ赤な宝石が怪しく輝いています。
「なんだ?この剣……」
リーゼは、ユナを抱えたまま呆然と剣を見ていました。
そうこうしているうちにたくさんの馬の走る音が聞こえてきました。
「おい!見つけたぞ!」
「ガキどもいたぞ!ははっ!!」
「こいつを捕まえればボスは分け前を分けてくれるぞ」
「どうやってここまで、普段ならこんなに真っ直ぐに入ることなんて」
リーゼはじりじりと剣の方に下がります。
「へへ、お前は後でボスがたっぷりと可愛がってくださるそうだ」
「へぇ、それはご遠慮願いたいね。俺、彼女がいるんで」
「ケケケ、なら逆らわずにそのガキを渡しな。優しくしてもらえるかもしれないぜ」
じりじりとリーゼは後ろへと下がり続け黒剣まで、後数十センチ程の距離です。リーゼは、黒剣の柄にに手を伸ばし掛けていましたが、後少しでその手を止めました。
ユナの声が聞こえたのです。
「リーゼ、それさわるのだめ」
「ユナ?」
小さな体が、リーゼの体を突飛ばします。
「あぁ?なにやってんだ?」
「おい!見ろよ!スッゴい剣があるぜ」
「本当だ!宝はこれじゃねぇか?」
「おう、さっさと抜いてコイツらで試し切りでもしようぜ」
男達は我先にと剣に手を伸ばしました。
ですが、男の手に柄が触れたとたんに異変が起こりました。
「あっ!なんだこりゃ」
「おい、なにやってんだ?貸してみろよ」
男の手を離して剣を掴むも手が取れなくなったのです。
しかも、なにやらベッチョりとした感触。
「ぎゃああああぁぁぁ、俺の手が俺の手がぁ!!」
「おい!どうなってんだ!皮がねぇぞ!」
「はぁ?って、げぇっ、俺の腕が溶けてる!なんだよ!これ!」
「おい、とりあえずその手を離せ!」
「やってるけど!とれねぇんだよ!!」
「おい!こいつを引っ張れ!」
「お、おう!」
嘘だろ!取れないし、体が溶けてく!
いやだ!こんな死に方したくない!
ぎゃあああ!
男達の悲鳴が響き渡りました。
その光景を二人は少し離れた場所から見ていました。
「なんてことだ。あいつら、体が溶けて消えた……だと。」
(まるで姉さんの魔法みたいだ…)
「リーゼ、こわい」
「あぁ、だが、お前の言うとおりあの剣には近付かない方がいいな。
仕方ないが結界の方まで戻るとしよう」
───逃がさない
「え?」
───お前らは、あの女の気配がする。あのクソいまいましい女神の。
「ぐっ、引き寄せられる………」
(なんて、力だ。くそ、あんな風に消えてしまうのはごめんだぞ!)
ズルズルと、リーゼとユナは剣な引き寄せられていきます。拒むように足を踏ん張るリーゼのブーツが地面を抉っていきますが、徐々に剣へと引き寄せられていきます。
「ユナ、俺がなんとかしてやるからな、そうだ、帰ったら誕生日会を始めよう。お前のために俺、プレゼント持ってきたんだぞ」
怖くて顔色を青くし震えるユナを抱き抱え、リーゼは明るく、振る舞いユナに励まします。
「リーゼ!!うしろ」
「え?」
リーゼの胸に黒い何かが突き刺さるのが見えました。
────死ね。
「は…は……、もう少…しで………結婚式だったのに、残念だ」
リーゼは、そっと、剣へと触れました。その指先が溶けて消えていきます。
「ゆな、ごめんな、俺に出来るのは此くらいだけだ」
────っ!?
お前は、……………欠片を持ってるのか、ならお前は
ズルリと剣が抜けていきます。
「今度は俺が逃がさない」
────貴様!何をする!!
「あぁ、ようやく見えた。お前が女神が忌むもの。
そうだ。俺は………あんたの嫌いな女神の一族の下僕だ」
───やめろ!欠片を持っているのならお前は
「ユナ怖い思いさせてごめんな。」
「リーゼ!!!!!」
そう言ってリーゼは、ユナに笑うと辺り一体が見えなくなるほどの閃光を放って剣ごと消えてしまいました。
後に残ったのは、蜂蜜色だった髪の色を血のように真っ赤に染めて気を失ってしまったユナだけでした。
その日の事を、僕は思い出せない。
ただ、解るのは、彼の温かなだった腕の感触と、
戻った世界が百八十度変わってしまったことだ。
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貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
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※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
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カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
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*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
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