君とボクの交われない交差点 ~始まりを求める僕と終わりを求める君~

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序章 = 二 =

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長老は、老人らしからぬ素早さで去っていき、残された少年達は唖然としていました。

「やっぱり、あのじぃーさんすげぇよな」
「あぁ、そうだな。 ユナ、リノ。一先ず、館にもどろうか」
「おう!それにしてもせっかくの誕生日なのに、運がわりぃなユナ」
「全くだ。可哀想に。この騒ぎが終わったら、パーティーしような」
「うんわるい、よくないこと??」

悲しそうにユナが小首をかしげます。

「いいや、気にするなよ。そんときは俺らが助けてやるよ」
「そうそう」

二人してユナの頭をワシワシと撫で回しました。
そこに、女の子の高いソプラノの声が聞こえてきました。

「あ~!見つけた!リノ!シン!ユナぁ!」

「げぇ!アンジェ!それに、リーゼ!」

「よぉ、少年たち。ユナのお散歩ご苦労様。
早速だがお前たちに報告がある」

そうリーゼは切り出したものの

「リーゼ!」

幼い少年の声に反応し、続きを話す前にリーゼの視線はユナへと向けられ、途中で途切れてしまいました。それに喜んでユナがシンから飛び降りて、リーゼへと飛びつきました。

「お~ユナ!可愛い甥っ子よぉ」

飛び付いてきた甥っ子に、リーゼは頬擦りします。剃りそこねの髭がユナの柔らかな頬に、あたり痛がるにも構わずにリーゼはユナのふわふわの頬に頬擦りを繰り返していました。若干ユナが嫌そうに顔をしかめます。

「リーゼいたい」
「リーゼ!ユナが痛がってる!めっ!」

アンジェが可愛らしく、パシパシとリーゼを叩きます。

「あ~ごめんごめん!」
「ごめんは一回!」
「ごめんなさい」

ほのぼのとした光景に、シンとリノは呆れたように頭をかきました。

「俺らは何を見せられてんだ?」

「さぁ?」

兄弟は困惑していました。

「もう!リーゼは め!!ほら、ユナおいで」
「うん、アンジェ」

ジャンの腕からユナはアンジェに乗り換えました。

「おい、アンジェ!ユナには!間違っても力加減間違えんなよ!」
「本当だ、ユナはか弱いんだからな!」

少し離れて兄弟は揶揄します。

「おいおい、女の子相手になにいってんだよお前らは
~失礼だろ?」

呆れたようにリーゼは笑っていました。

「リーゼは、あれをみたことないから」

シン、死んだ魚のような目で空を見ました。

「なら、見せてやろうぜ!俺りんごもってる」
「ん!なら、まかせろ。ほら、アンジェ、リンゴパース」

リノはそっとアンジェに向かってリンゴを投げつけました。

「こら!シン!危ないだろ!」

リーゼは咎めて、リンゴを捕ろうとしましたが、

「ふん!」

アンジェは振り替えることもなく、手刀できれいに真っ二つにしました。

「ほら、ユナ、半分あげるわね」
「ありがと~」
真っ二つにされたリンゴをしゃりしゃしと食べる二人を見つめリーゼは硬直し、眺めていました。

「ほらな、見事な手刀だろリーゼ」

はははと、笑い合う兄弟をスルーして、リーゼはアンジェに真剣な顔で彼女の手を握りこういいました。

「アンジェ……自警団に入らないか?」

あまりの真面目な言葉に二人は、どうしよう?、っと目と目で語り合います。
いち早く正気になったシンは

「リーゼ!混乱してる場合じゃないよ!なんか焦げ臭いよ」

と、言って彼を揺さぶりました。
その間にも、警鐘はカンカンなっています。

「ほら、何かあったんでしょ?
鐘の音だよ!しっかりしてー」

「おう!そうだな!
いかんいかん!実はな、さっき連絡が入ったんだが、野盗が村を襲ってるみたいなんだよ!ここらは。奥地だからまだ大丈夫だが、ここもすぐにまずくなる。
団長命令で俺はお前らをつれて避難することになった」

そう言ってユナを肩車すると、アンジェとシンの手を握りました。

「シン、リノを俺の背中に乗せてくれ」

「えっ!」

「いいよ、俺!走れるよ!」

「いいから、早く」

ただならぬ空気を感じてリノは仕方なくリーゼの背中に背負われます。
それを確認するとリーゼは、腰に着けていた玉を地面に叩きつけ、手をつないでいた二人も抱き上げると、軽々と地面を蹴り浮き上がりした。
そしてそのまま険しい山道を登っていきます。

「リーゼ!凄い!!」

「すっげぇ!本で見た風の精霊みたいだぁ!!」

「黙ってろ!舌かむぞ!!」
 
あまりの早さに少年少女らは、おおはしゃぎです。
岩を飛び乗って進む様は最早人間ではありません。
上に上がると既にユナの母、ステラ達は着の身着のままで、山の上の避難所に来ていました。


「ふぃー、疲れた」

四人を下ろすとリーゼは疲れたのか座り込んでしまいました。

「お疲れ~!ねぇ、リーゼ!あれってどうやったの??なんか玉をたたきつけてたじゃん!」
「あ~あれな、後で教えてやるよ」
「けち~」

リーゼが話す前にステラが走ってきて、ユナを抱き締めます。

「リーゼ!ありがとう!ユナよく無事で」
「かあさ!」

ぎゅっと親子は抱き合います。


「俺のおかげってより、風の精霊様のお力ですよ。
とはいっても俺じゃあ、山を登るときくらいにしか使えないんですけどね」
「いいえ、とても助かったわ、子供達は皆無事?怪我はない?」
 「うん!」
「元気だよ!」

「おい!下見ろよ!村が燃えてる!!それになんか見たこともねぇ奴等が暴れまわってるぞ」
「……っ!あいつらなんとかして早く火を消しにいかねぇと!!」

騒ぐ兄弟をリーゼは手で制しました。

「二人とも、駄目だからな。俺達はこのまま結界の楔に向かうぞ。
あそこは村人しか入れないからな」

「なんで!今走ってた奴等でしょ!あいつら倒さないのかよ!」
「自警団なんだろ?やっつけてよ!」

兄弟二人がリーゼに詰め寄ります。

「あのなぁ!俺の役割は、お前らの避難最優先って言われてるの!」

「リーゼならあんな奴ら簡単に倒せるだろ!」

「おい、あまり戦いを舐めるなよ!!それに俺が戦うためにも、お前らを安全な場所に避難させるんだっての!ほら行くぞ」

そう言ってふてくされているリノの頬をつつきます。
銘々なかなか言うことを聞かない少年達に向かってステラは手を鳴らしました。

「ほら!みんな、いいこと。
ここから先はリーゼの言うことをしっかりお聞きなさい」

「「はーい」」

「くっ、おまえらは!だが、流石ステラ姉さん!」

「リーゼもしっかりなさい。
ユナ、良いこと。母様の言うことを絶対に守ってね。
ほら、この頭巾を被りなさい」

「あい」

普段の穏やかな雰囲気とは異なる母の強い語調に押され、ユナは大人しく頷きました。母に手を引かれて歩きながら村を見下ろせば、あちこちが焼け、地獄のように変わりはじめていました。

「みんな!これから楔へと一度避難する!自警団のみんなが戦って時間を稼いでくれている!急いで避難してくれ!」
呆然と焼かれる村を眺めていた人々も彼の声に銘々慌てて動きだしました。しかし、アンジェだけが下を向いて俯いていました。

「アンジェ?」
「どうした?気分でも悪いのか?」

「私、避難所に行かない」
「どうしての?アンジェちゃん」

「お父さんがいないもの、探しにいかないと」

「アンジェちゃん。
ジェフさんは、逃げ遅れた人を救出にむかっているんだ」

「やだ!!
やだやだ!お父さんのところにいく!私も!戦う!!」

アンジェは何度も何度も足を叩きつけて駄々をこねはじめました。

「アンジェちゃん……」

リーゼは困り果て 彼女を宥めていた。
しかし、それから、すぐにパンっ、という軽い音がして、アンジェの頬に痛みが走りました。

「え、!ステラ姉さん!」

あっという間の出来事にリーゼが驚いている間にすぐに、柔らかな手が、アンジェの頬を包みます。

「アンジェちゃん、落ち着いて。
お父さんは、今あなたを守るために戦っているの。
でも、まだ小さな貴方が行くとお父さんの邪魔になってしまうわ」

「ステラおばちゃん……だって」

アンジェの大きな瞳の端に大粒の涙がたまっています。

「貴方が強いのは私も知ってるわ。でも、今回は武器をもっているのよ。貴方よりずっと強い敵もいるわ。
その時にお父さんの邪魔してしちゃったらきっと、アンジェちゃんは後悔するわ」

「アンジェちゃんはもっと強くなれるわ。ね?」

「おばちゃん………うん、うん」

ぐずぐずとなきながアンジェはステラに手を引かれます。

「あんじぇ」
「ユナ?」
「だーじょーぶ」

舌ったらずな励ましにアンジェは驚いて、それからのポロポロと涙を溢すと、ユナの頭を撫でました。

「うん、大丈夫だよ」

「おい!早くこっちへ、ステラおばちゃんも早く!」

「リノ!シン!」

「さぁ、追っ手が来る前に急ごう」
「ええ」




++++++++++++ 


物が焼ける嫌な薫りが立ち上る中、彼らは結界の楔と呼ばれるところへ向かっていました。
楔の側には、絶界と呼ばれる断崖絶壁の崖の前にあります。
その横にはハゾナ川という川が流れており、流れが早く落ちてしまえばあっという間に絶界に落とされてしまう、とても危険な川です。
それ故、結界の主、そして自警団以外は非常時を除き近づくことを禁じていました。
その流れにそって彼らは安全地帯を求めて歩き続けていました。

「村には家財も全て置いてきたぞ!なぁ!リーゼ奴等は追ってこんよな?わざわざ結界までいかんでもええんじゃあないか?」

「いいえ、だめです。団長のジェフの命令です」

「そういうが、ワシャ足が追い付かん。先に行ってくれ」


「シャジールさん、ダメですよ!ほら、歩いてください」

リーゼは促しますが、シャジールはついに座り込んで動かなくなりました。

「いいから、先にはいけ、ワシは少しだけ休んだら追いかけるわい」
「もう!非常時なんですよ!」
「大丈夫じゃ、何かあればすぐに物陰に隠れれるようにする、じゃからほれ、はよいけ」

「もう、本当にすぐ来てくださいよ」

「あぁ、ほれ、はよいけ」

しかたなさそうにリーゼは肩を落としました。

「シャジールさん、どうしたの?」

「足がいたいらしく、休みたいので先に行けって。何かあったら隠れるからって」

「そう、まぁ、シャジールなら大丈夫でしょう」

「どうせ盗賊たちの狙いは村にある家財やお金、食料目当てでしょう?
追ってこないならあの人の好きにさせておきなさいな。
早く私達は楔に向かいましょう」

シャジールの奥さん、マールが笑います。

「は、はい」
──一線を引いた身とはいえ、シャジールさん、どうしたんだ?

引っ掛かりを覚えながリーゼは皆を誘導していきます。
仕方なく皆はシャジールだけをおいて皆と進みました。






「シャジールさん大丈夫かな?」

「大丈夫よ、あの人は。風の精霊様がお守りくださるわ」

「マールさん」

「リーゼ。今は先にみんなを楔に送らないとでしょう?ほら、子供たちも何も言わずにちゃんとついてきているでしょ?」
「はい」


「かあさ、お馬のおとがする」

「馬のおと?」 


「おい!いたぞ!!村の奴らだ!子供もいるぞ!!」

シャジールがいた方向とは別方向から、複数の馬がすごい勢いで走って追いかけてきます。


「みんな急げ!!」


空から幾数の矢の雨が空から降ってきました。
リーゼはそれをたった一人で振り払いながら村人達を急かします。

それでも、あまり進行は遅く、リーゼは焦りを感じていました。 
その肩をポンと触れる柔らかな感触。

「リーゼ、先にお行きなさい」

「ステラ姉さん!!何してるんだ!」

怒鳴るリーゼを見て、子ども達にも緊張が走りました。

「ステラおばちゃん!早く!」
「ステラさん!」

そんな子ども達に優しく微笑むと、ステラは全員の頭を撫でました。

「リーゼ。貴方は先に子どもたちを。私がこの場を抑えます」

「しかし、姉さん」

「いいから。私を信じなさい」

「………」

静かにリーゼは、うつむきます。その肩をステラは、優しく撫でて微笑みました。

「ユナを暫く頼みますね」

どこに持っていたかわからない細長い剣を、いつの間にか彼女は帯刀していました。

「姉さん!ですが!」

「リーゼ、私はあなたよりも強いわ。
あなたならわかるでしょ。
さぁ、早くお行きなさい」

緑色の強い瞳に睨まれてリーゼは、頷きました。

「みんな行くぞ!ステラ姉さんなら大丈夫だ!!」

そう言って、リーゼはステラに背を向けて子どもたちの手をひきます。

「なんで!おばさん戦ったことなんてないだろ!なんでだよ!」

「いいから!姉さんは俺より強いんだよ!!」

「置いてけぼりにしなくたっていいだろ!リーゼ!」
「俺の言うことをきけ、ねぇさんの力に巻き込まれる」

「母さーー!」

ユナは一人リーゼの手から抜け出しましたが、すぐに捕まってしまいます。


「ユナ!お前の母さまは絶対に大丈夫だ!だから、今だけ言うことをきいてくれ!」

リーゼはユナをぎゅっと抱き締めました。

「さぁ!お行きなさい!!」

どうしようと、その場をなかなか離れなかった彼らでしたが、ステラの、その一喝で彼らは走り出しました。
賊はもうすぐそばに来ていました。




「さぁ、どなたから私と剣を交えてくださいますか?」

すらりとした長剣を軽々とステラは振るいます。

「へへ、あんた、そんな生意気いってっとあの世で後悔するぜぇ」
「そうそう、たった一人で何が出来るんだか」
「おい、だれか逃げたガキを追え。こんな女相手にしている時間がもったいない」
「おう!じゃあ、俺が先にいくぜ」

馬に跨がっている髭面の男が、先を行く村人たちの後を追おうとします。

「させません」

しかし、後を追おうとした男の首を彼女はあっさりと切断してしまいました。みるみる間に大地が血で汚れていきます。


「は?」


ステラの頭に被っていたが頭巾が外れ、ふわりと髪が溢れ金色の髪が端から白く変わっていきます。それは、この辺りには見かけることのない真っ白な髪。

「しろ?
白の髪……そんなはずは………、お前森の民ではないのか??
いや
光の民は此の地には降りれないはずなのに!なぜ」

「さぁて、なぜでしょうね?」

鋭い剣が男の頬を掠めます。

「女一人だ!囲んで殺せ!!」

「あら?遅いわよ」

彼女は指の皮膚を噛みきると、血が辺りに飛び散り男達に振りかかります。

「なにやってんだ、このアマ」

「殺されそうになって気が触れたか?」

「いいえ。終わりです。
さぁ、塵は塵へと帰りなさいな」

彼女の言葉に男達の血がついた箇所からじゅっと音を立てて溶けていき、あっという間に灰になってくだけ散りました。

「おい!うそだろ!!なんであいつらが?!おい!はやくその女を殺せ!」

「ばかやろう!
そんな真似できるか!光の一族に手をだしゃ、さっきみたいに灰にされちまうよ!俺は一抜けだ!」

「俺もだ!」 
「俺も!」
「ぐっぅ、覚えてやがれ!!」

男達はあっという間に散り散りに逃げ去ろうとしました。
それにステラは冷たい声を投げつけます。

「いいえ、貴方達は、もう終わっています。
古の女神よ。彼らの魂をあなた様に捧げます。
レクイエム エーテルナム!!」

彼女が叫ぶと、逃げ出そうとしていた男達は、すぐに光に包まれ一瞬で消えてしまいました。


「…………消えた?
あらやだ、ただの人だったのね。
てっきりお告げのものかと思っていたのに。
では、お告げの女神様の恐れている赤き悪魔とは一体?……」

ステラは考え事をポツポツ呟いていましたが、唐突に彼女の口からとぽとぽと血が溢れてきました。
口から溢れた命の水が溢れては流れていき血は、大地へ流れ落ちて大地に吸い込まれることなく、空へと帰っていきます。

「女神様の力を使うには、私の身体はいささか脆弱のようですね」

少し困ったようにタメ息をつくと、彼女の髪はふわりと元の金色に戻りました。



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