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鈴の音

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チリン  チリン

遠くで鈴のような音色が聞こえた気がしました。

「ね、ねぇ、」

ユナは、鈴の音を不思議に思い、アンジェ達に声を掛けようにも、先程のアンジェによる森中引き回し刑のダメージが大きく、ユナは何故か声がでません。その上、風の音が小さなユナの声を浚って呑み込んでしまうのです。


―――みんな気づいてないし気のせいかな?



気のせいにしよう。聞かなかったことにしようとユナは幻聴とみなそうとしました。ですが、

リンリ ンリン


「また聞こえた」

やはり後ろから、と、振り替えろうとすると

「え??あっ」

軽い身体は草を手放した瞬間に風に吹かれて容易くバランスを崩して下り坂を転がってしまいました。リノ達は不思議とユナが転がっていっているのにも気がついていません。彼は一人寂しく斜面をひたすら滑り降ちてしまいました。

  

  そのままゴロゴロと転がり降りて最後にはなんとか平たい野原に止まります。木に叩きつけられなかったのはせめてもの幸運でした。
勢いよく落ちたので、木や岩に等ぶつかっていてはユナのか細い身体では骨等が折れてしまっていたでしょう。


「いてて…っ」

ゆっくりと起き上がると随分と転がり落ちてしまっていました。
みんなの姿が見えません。

「どうしよう、随分落ちてしまったみたい………」

不安気に辺りを見回しても薄暗くてよく見えません。
ユナは、不安で心が押し潰されそうになっていました。
なのに、


リンリンリンリン!!

鈴の音色はユナの心臓を容赦なく揺さぶります。


「!?」

―――そうだ!この音だ。一体なんだろう??

キョロキョロと辺りを見渡しますが何もいません。

「気のせい……?そんな分けないよね?」

ユナは、小首を傾げ立ち尽くしていました。


──ねぇ、そんな所で何してるの?──


 耳元で不思議な声と涼やかな鈴の音が一際強く聞こえ、ユナはゆっくりと振り返ります。そこには15cm程の光の玉がフワフワと浮いていました。 
火の玉にも見えるそれと、誰もいないのに聞こえる声にユナの心臓は破裂しそうな程激しく脈動し、彼の恐怖の臨界点を越えてしまいました。


「─────────────!!!???」


 声にならない悲鳴をあげて、ユナの後ろに跳び跳ねると、次いで、どうすれば良いのか解らずにその場を訳も解らずに、ぐるぐると走り回りアワアワしてしまい、そのうちに泥濘で、滑って転んで後ろにグルンと勢いよくひっくり返ってしまい、ついには最がわからないほど混乱して叫んでいました。

「あぁぁあああああ!!!!!!」

――――火の玉だぁ!!妖魔の住む巣にきっと落ちてしまったんだぁ!!

 最早叫ぶしか無くなったユナは壊れたように光を指差して叫び続けています。


「っ!?もう‥‥‥そんなくらいで大きな声出さないでよ」

光はふわふわと浮きながら呆れています。

「あああああ」

「まぁ、いいけどさ。それにしても君、大丈夫?派手に転がってきたけど」

 光の玉はくるくるとユナの廻りを飛び回りました。


「あっ!あっ!あぁぁあああああ!!!!!!ああっ!あぁぁあああああ!アアアアアアアアアアアア!!」


 ユナは少しでも光から離れようと後ろに後ろに腰が抜けてしまった身体をひきずって。なんとか後ろへと下がろうとします。
しかし、更にすっころんでしまいました。
その顔はまるで獣に追われて一貫の終わりのような顔で、声が掠れても未だに彼は叫びつづけています。

 そんなユナに光の玉は至極、冷静な声で話しかけました。


「んーとねぇ、その、あーあーいうのとりあえず止めてもらえる?」


 光は、やれやれと溜め息までついています。


「うう!! ううううううううううううつううううううう!!! ううううううううううううううううううううううううううううう!!」


「え…いや‥‥‥別に「う」に変えろって意味じゃないよ」

「%;-ー☆〉!&['!^;[<[$>>#%`:?」


「んー、言葉にもならないんだね、うんうん、わかったよ仕方のない子だなぁ‥‥‥ほら」

 光は15cm程の大きさから一気人間程のサイズに膨らみ、人の姿を形を取って、姿は真っ白な髪の美しい人になりました。

 年の頃は十代の半ばと言った所でしょう。
肩ぐらいの長さの真っ白な白銀色の髪がフワフワと揺れています。


「ねぇ?これなら大丈夫?」

そっと、その人は屈んでユナに目線を合わせて微笑みました。


「光!? 光が?! 光が人!! 人にいいい!!??やっぱり妖魔だぁ」


 叫び過ぎて過呼吸になったのか、ユナはそのまま白目を向き泡を吹いて倒れてしまいました。


「え?妖魔?はぁ!?」


 白い麗人は大きな瞳を更に大きく見開いて驚き口を押さえます。


「え?そんな!?  うそ! 
こんなに脆弱なメンタルで大丈夫なの!
 いや、それ以上に大丈夫!!! おーい!! 坊や!! 起きてぇ!!」


 耳元で叫びますが、まるで反応がありません。
ひっくり返った衝撃で帽子が外れて真っ赤な肩ほどの髪が出てきています。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥え――――」



 困惑したまま白い人は深く深くため息をつきます。


「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「ねぇ、本当にこの子なの?」

『…………』

「君は相変わらずいい加減だ。前の子の時だってそうだったでしょ?」

『…………』

「結局あの子も………
だからさ、もう✕✕✕してしまった方がよくない?
いや、そんな事いってないでさ。
え?そうなの?ふーん。まぁいいけど」

『………』

彼女の指輪が光ると、キンっとハープのような弦の高い音色が響いて、ユナの傷が一瞬で癒えました。


「うぅ」

「……大丈夫?」

 白き人は、少しユナから距離を取って話しかけます。
また発狂されては堪らないとおもったのでしょう。


ぼんやりとした瞳で

「っ、あ、帽子……」

ユナは慌てて頭を隠すように被りました。
あまりの焦りに裏表が逆さで、ともかく髪を隠そうと必死です。
そんな小さな少年に白き麗人は困ったような複雑な顔で微笑を浮かべました。

「大丈夫だよ。女神様は赤髪を嫌ってるけどさ。
僕は髪の毛が赤いくらいで何かをしたりなんかしないさ
それに、ほら僕だって真っ白だよ。この森なら異端でしょ?」


そう言ってその人はくるりとまわって優しくユナに微笑みます。


「え・・・あっ・・・でも・・怖くない?」


長い髪をいじいじしながらユナは上目遣いで見上げます。

「こわい? どこが? こんなに小さいのに・・」

クスクスとその人は綺麗に笑うのでユナは、見とれてしまいました。

「ふふ、そんなに見つめても何も出ないよ」

「あっご・・ごめんなさい・・すごく綺麗だから」

「‥‥‥そうかな?僕は君の髪の方が綺麗だと思うけれど・・・」



「………」


ユナは苦々しそうに髪を握りしました。

「今はそんなことより、怪我はどうだい?」


「あっ・・・えっと・・・はい、なんとか‥‥‥」

「そっか、それならよかった
ねぇ、君、一人なの? 
ここは、子どもが入っていいような場所じゃないよね?」

「あ‥‥‥あの、僕は‥‥‥その‥‥‥‥」

「ん?」

「友達と‥‥‥その‥‥‥っ‥‥‥」


…ボク、皆とはぐれたんだ!
‥‥‥どうしよう‥‥‥イイ人っぽいけど怖いから逃げたい。
でも、さっきバタバタ走り回ったせいでどこから落ちたかわからない!!??どうしよう!この人なら、もしかしたら、戻りかたなんてわかるかな?


「友達?今この場には君しか居ないみたいだけど‥‥‥?」

きょろきょろと白き人は辺りを見渡します。
ユナはこの人なら、もしかしたら道がわかるのかもしれないと期待を込めて声をかけようと勇気を振り絞ります。

「あのっ!」

しかし、声を掛けたのに彼女の姿は闇に掻き消えてしまいました。


「え?!」

キョロキョロと回りを見渡しても誰もいません。
それから、すぐにガサガサと何かが近づいてきます。
ユナは狼かもしれないと、慌てて隠れようとしてスッ転んで無様に転がってしまいました。


「あららっ」

どこか遠くで彼女の声が聞こえた気がしましたが、それどころではなく
近くでガサッと葉音が鳴ります。

 心臓が死ぬほど縮こまってユナは帽子を抑えて思い切り伏せました。
まぁ、まるで隠れられていません。
頭どころか全身見えたままでは、まるで意味がないです。


「お前!そこで何している!!」

 
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