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森人
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男性の怒鳴り声の方を向けば、長い黄金色の髪。
大樹の里の人間ならばよく在る髪色の男の人でした。
異なるとすれば、彼は村の人よりも背丈が大きく、耳流くて尖っていることくらいでしょう。
獣を警戒していたユナは一気に力が抜けてその場で腰をぬかしてしまいましたが、ここは侵入禁止区域。こんなところで見つかってしまったならば、もしかしたら殺されるかもしれません。良くても森の外の世界に連れていかれて売られる可能性だって否定出来ないのです。
嫌だ。と、ともかく逃げないと!
思考の狭間を揺蕩う間に、ユナの頬を霞め真横に矢が木に突き刺さりました。
「ひっ!」
頬を掠めたせいでたらりと血が流れます。
どうしよう‥‥‥ 殺される!!
ユナはきつく目を閉じます。
身体が死への恐怖でガタガタ震え、衣服を強く握りしめてユナはその場から動けなくなってしまいました。
それから、少しすると硬いブーツの先でコンコンと肩を蹴られます。
「此方を向け」
低い男性の声にゆっくりとユナは言われたように面を上げました。
見上げた先には、村の誰よりも濃い緑色の、まるで深い森のような瞳。それが鋭くユナを見下ろしています。
端正な顔立ちの青年の瞳は冷たく、ユナを見下ろす目は、まるで石ころでも見ているかのようです、だというのに、何故かユナはほんの少しだけ彼に既視感を感じていました。
しかし、その青年の手には大きな弓と矢がを見てそれが、打ち砕かれます。此方を向いて矢尻が鈍い光を放ちスーっと血の気が引いて脈が酷く乱れ手に力が入りません。
「‥‥‥‥‥‥‥立て」
矢を向けたまま形のいい唇が、ユナに命令を下します。
「おまえは何者だ?」
低く鋭い声にユナは、恐ろしくて仕方がなく、あふれでた言葉は
「っ!ぁ、ご、ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいいいい!!!!! 」
もはやユナの口からはそんな言葉しかでません。
身体を丸めて頭を隠すようにユナは体を必死で守ろうと丸まりながら、ただただ素知らぬ人に謝罪を繰り返しました。
「おい」
―――殺される!!
そう思って身を更に丸めます。
しかし、いつまでたってもユナが予想していた衝撃はいつまでも経ってもきません。
「っお前………赤髪………」
青年は目を大きく開いて驚いているようでしたが、ユナはそれどころではありません。見上げることもできず、ただただ謝罪の言葉を吐き続けていました。その謝罪が止まったのは青年に腕を引かれて無理矢理起き上がらせられたからです。
「おい、お前‥‥‥怪我はないか?」
「ごめんなさい!って‥‥‥っえ?え?」
驚きのあまりにユナの大きな金色の瞳が大きく開かれ青年を下から上まで眺めています。先程の冷たい瞳ではなく困ったような表情でした。
「すまん。頭とか打ったりしてないか?
あ‥‥‥頬は俺だな‥‥‥すまなかった。
治療するから付いてこい」
そう言ってユナを小脇に軽々と抱えてしまいます。
「!?っ!?!‼️!!」
バタバタとユナはもがきますが、赤子と大人のようでまるで歯が立っていません。
「落ち着け、治療するだけだ」
ユナの手を掴んで青年はさっさと森の出口らしき方向へ進んで行きます。木漏れ日が僅かに入る程度の暗い道を青年をなんなくユナの抱えて歩いていきますが、ユナにとっては、まるで見えない暗い道でも青年は何の迷いもなく進んで行くのです。
どこに連れていかれるのかわからないユナにとっては、とてもとても心細い道。
進んで行く度にユナの心臓は潰れてしまう程に音をたてていました。
ガサガサと草の根を掻き分ける音だってユナを怯えさせるには充分です。
そんなことなど構わず青年は先へ先へと進んでいきます。
アンジェよりは遥かに優しい導きですが、全く知らない他人という事だけで、ユナにとっては恐怖でしかありません。
そうしてびくつきながら連れられた場所は、先程よりも開けた平地でした。
少しほっとして肩を下ろしたユナを尻目に、青年は唐突に首にぶら下げていた白い鳥を象った小さな何かを掴み、口に咥えて強く吹きます。
音は‥‥‥ユナの耳には聞こえず、不思議そうに青年を見上げていました。が、すぐに何が起きたのかわかりました。
大きな羽根音が聞こえるのです。
かなり離れている筈なのに、それでも明らかに鳥の形がはっきりとわかりました。近づいて来るほどに、その大きさにユナは今度は別の意味で震えました。
小鳥なんて大きさのものじゃありません。
「なに…あれぇ……」
声が震えます。
隣の青年よりも更に何倍もの大きさの鳥が此方に向かって猛スピードで飛んで来るのです。
「鳥だ。」
にべもなくそう答えると、ユナを抱え直します。
向かってくる大きな鳥への恐も合わさって彼の喉はヒッっとか細く鳴り、本能的に逃げようとしますが、がっちり掴んでくる青年の腕のせいで動けません。
あわあわとただ、猛禽類が近づいて来るのをただ見ているしかないのです。
た、食べられる!!やっぱり禁忌の場所に来たのが悪かったんだぁ…お母さんごめんなさい。
恐怖で怯えるユナに対して青年は手を大きく振って、まるでこっちこっちと友達に手を振って合図をしているかのように笑って手を振っています。
鳥も勢いを更につけて此方に向かってきました。
あまりにも早く飛んでくる鳥にユナは食べられる!っと反射的に目を強く瞑って丸くなりましたが、鋭い爪が来ることはありませんでした。
近くで大きな羽根音が羽ばたいている音、そしてその強い風圧は凄まじく、軽いユナは青年の腕に抱え込まれているので飛ばされませんでしたが、そうでなければ恐らくは風に飛ばされて木に叩きつけられるか、崖から落ちていたことでしょう。
頭上すぐに現れた巨大な鳥と呼ぶべきでしょうか?──ユナにとっては怪鳥です。
しかし、その姿は美しく長い尾羽根がとても神々しい姿にユナの心はあっという間に奪われてしまいました。
大樹の里の人間ならばよく在る髪色の男の人でした。
異なるとすれば、彼は村の人よりも背丈が大きく、耳流くて尖っていることくらいでしょう。
獣を警戒していたユナは一気に力が抜けてその場で腰をぬかしてしまいましたが、ここは侵入禁止区域。こんなところで見つかってしまったならば、もしかしたら殺されるかもしれません。良くても森の外の世界に連れていかれて売られる可能性だって否定出来ないのです。
嫌だ。と、ともかく逃げないと!
思考の狭間を揺蕩う間に、ユナの頬を霞め真横に矢が木に突き刺さりました。
「ひっ!」
頬を掠めたせいでたらりと血が流れます。
どうしよう‥‥‥ 殺される!!
ユナはきつく目を閉じます。
身体が死への恐怖でガタガタ震え、衣服を強く握りしめてユナはその場から動けなくなってしまいました。
それから、少しすると硬いブーツの先でコンコンと肩を蹴られます。
「此方を向け」
低い男性の声にゆっくりとユナは言われたように面を上げました。
見上げた先には、村の誰よりも濃い緑色の、まるで深い森のような瞳。それが鋭くユナを見下ろしています。
端正な顔立ちの青年の瞳は冷たく、ユナを見下ろす目は、まるで石ころでも見ているかのようです、だというのに、何故かユナはほんの少しだけ彼に既視感を感じていました。
しかし、その青年の手には大きな弓と矢がを見てそれが、打ち砕かれます。此方を向いて矢尻が鈍い光を放ちスーっと血の気が引いて脈が酷く乱れ手に力が入りません。
「‥‥‥‥‥‥‥立て」
矢を向けたまま形のいい唇が、ユナに命令を下します。
「おまえは何者だ?」
低く鋭い声にユナは、恐ろしくて仕方がなく、あふれでた言葉は
「っ!ぁ、ご、ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいいいい!!!!! 」
もはやユナの口からはそんな言葉しかでません。
身体を丸めて頭を隠すようにユナは体を必死で守ろうと丸まりながら、ただただ素知らぬ人に謝罪を繰り返しました。
「おい」
―――殺される!!
そう思って身を更に丸めます。
しかし、いつまでたってもユナが予想していた衝撃はいつまでも経ってもきません。
「っお前………赤髪………」
青年は目を大きく開いて驚いているようでしたが、ユナはそれどころではありません。見上げることもできず、ただただ謝罪の言葉を吐き続けていました。その謝罪が止まったのは青年に腕を引かれて無理矢理起き上がらせられたからです。
「おい、お前‥‥‥怪我はないか?」
「ごめんなさい!って‥‥‥っえ?え?」
驚きのあまりにユナの大きな金色の瞳が大きく開かれ青年を下から上まで眺めています。先程の冷たい瞳ではなく困ったような表情でした。
「すまん。頭とか打ったりしてないか?
あ‥‥‥頬は俺だな‥‥‥すまなかった。
治療するから付いてこい」
そう言ってユナを小脇に軽々と抱えてしまいます。
「!?っ!?!‼️!!」
バタバタとユナはもがきますが、赤子と大人のようでまるで歯が立っていません。
「落ち着け、治療するだけだ」
ユナの手を掴んで青年はさっさと森の出口らしき方向へ進んで行きます。木漏れ日が僅かに入る程度の暗い道を青年をなんなくユナの抱えて歩いていきますが、ユナにとっては、まるで見えない暗い道でも青年は何の迷いもなく進んで行くのです。
どこに連れていかれるのかわからないユナにとっては、とてもとても心細い道。
進んで行く度にユナの心臓は潰れてしまう程に音をたてていました。
ガサガサと草の根を掻き分ける音だってユナを怯えさせるには充分です。
そんなことなど構わず青年は先へ先へと進んでいきます。
アンジェよりは遥かに優しい導きですが、全く知らない他人という事だけで、ユナにとっては恐怖でしかありません。
そうしてびくつきながら連れられた場所は、先程よりも開けた平地でした。
少しほっとして肩を下ろしたユナを尻目に、青年は唐突に首にぶら下げていた白い鳥を象った小さな何かを掴み、口に咥えて強く吹きます。
音は‥‥‥ユナの耳には聞こえず、不思議そうに青年を見上げていました。が、すぐに何が起きたのかわかりました。
大きな羽根音が聞こえるのです。
かなり離れている筈なのに、それでも明らかに鳥の形がはっきりとわかりました。近づいて来るほどに、その大きさにユナは今度は別の意味で震えました。
小鳥なんて大きさのものじゃありません。
「なに…あれぇ……」
声が震えます。
隣の青年よりも更に何倍もの大きさの鳥が此方に向かって猛スピードで飛んで来るのです。
「鳥だ。」
にべもなくそう答えると、ユナを抱え直します。
向かってくる大きな鳥への恐も合わさって彼の喉はヒッっとか細く鳴り、本能的に逃げようとしますが、がっちり掴んでくる青年の腕のせいで動けません。
あわあわとただ、猛禽類が近づいて来るのをただ見ているしかないのです。
た、食べられる!!やっぱり禁忌の場所に来たのが悪かったんだぁ…お母さんごめんなさい。
恐怖で怯えるユナに対して青年は手を大きく振って、まるでこっちこっちと友達に手を振って合図をしているかのように笑って手を振っています。
鳥も勢いを更につけて此方に向かってきました。
あまりにも早く飛んでくる鳥にユナは食べられる!っと反射的に目を強く瞑って丸くなりましたが、鋭い爪が来ることはありませんでした。
近くで大きな羽根音が羽ばたいている音、そしてその強い風圧は凄まじく、軽いユナは青年の腕に抱え込まれているので飛ばされませんでしたが、そうでなければ恐らくは風に飛ばされて木に叩きつけられるか、崖から落ちていたことでしょう。
頭上すぐに現れた巨大な鳥と呼ぶべきでしょうか?──ユナにとっては怪鳥です。
しかし、その姿は美しく長い尾羽根がとても神々しい姿にユナの心はあっという間に奪われてしまいました。
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