上 下
12 / 43

黄昏の大地

しおりを挟む
「大禍時…?」
聞き覚えのない言葉ばかりで、ユナは混乱し始めていました。

「簡単に言うとこの森に住まう風の精霊の力が強まりすぎて暴走してしまう刻があるんだ。それが禍時だ。それの最大級のが大禍時」
「えぇ!?それって大丈夫なんでさか!?」
「下手すりゃ、俺達守り人でもただじゃすまない。
ユナ、お前の仲間達と、一体どこではぐれたんだ?」

リーンゼィルはユナに問いますが、正直ここがどこかさえもわかりません。とりあえず分かる範囲で答えるしかありません。

「あ、……えっと、確か…光ってる大樹の湖の前です…
そこで、鈴の音に気を取られて坂から転がり落ちちゃって……」

「光る湖か……何ヵ所かあるな。しらみ潰しに行くしかないか。
しかし、鈴の音?
それに気を取られて転がり落ちたと??」

「そうです。
凄くリンリン鳴ってて…
でも、仲間達も誰も気がついてなくて、どうやら僕だけ聞こえていたみたいです。
それで、気がついたら、滑り落ちていました」

思い出しても恐ろしい。
あんな風に落ちるのはもう勘弁願いたい。

「滑り落ちた。
それにしては……、お前、怪我がほとんどないな」

リーンゼィルは、ユナの服を軽く捲って身体を再度確認しますが、擦り傷さえありません。

「あれ?そういえば……」

いや、確かアンジェに引き釣り回されて、もっとずたぼろだったのに……擦り傷も消えている。
どうして? 

「お前は運動神経良さそうにも見えないしな。
ふむ、しかし服は割りとボロボロだから……、落ちたのは間違いないとして。
運良く怪我しなかったとか?」

「え、いえ間違いなく怪我はしてました!って?!
あっ!!そう言えば、リーンゼィルさんに会う前に真っ白で綺麗な人に会いました。なんというんだろう、そう。まるで、妖精のような人でした!!」

まぁ、最初は確か火の玉っぽかったような気がする?
これは、言ったらややこしいかな?

「……白い人?
お前。髪色が白い人に会ったのか?」

リーンゼィルは少し神妙な顔で聞いてきました。

「えっと。はい。何か駄目でした?」

「いいや、お前は悪くないんだが、ユナ、お前は、この世界の成り立ちや人種を知っているか?」

ユナは首をふるふると子犬のように、横にふります。
それを確認すると、リーンゼィルはポーチから黒い黒鉛をだして、木のなるたけ平らなところに大きな三角を書き四つに分割しました。


「この世界、大地がこうやって四つの大地に別れているのは?」

ユナは首を横にふります。

「お前、本当に何も知らない…、というか、教えてもらえなかったのか?」

「はい。僕は…、この髪が赤く染まった日から村での役割は全て失いましたから」

「…、そうか…。なら御子様の場合、へたすれば俺もヤバいから、確認のために簡単に説明するな」

「はい。」

「この世界は四つの区分に別れていて、この光の都を中心に炎の里、氷の里、そしてこの大樹の里の四つで構成されている。
それぞれ、守護する山や、氷、そしてこの大樹があり世界を支えているんだ。」

「世界を、支えている?」

「あぁ、俺もじい様から聞いた話だしうろ覚えだが。
うんと昔。何万年も昔は、ここは、光のない闇の神の統べる大地だったそうだ。
いや。大地さえもなかった…、というのが正しかったかな。光の神は奪われたなにかを取り返すためにこの闇しかない世界にこの大地を開かれたんだ。
だから、光の神様がこの空の向こうにある世界から、この世界と繋ぐように大樹と氷と岩をもって大地をつくり、光を与えることで人が住めるようになり、この世界と向こうの世界を繋いだ。」

そう言って描いた大地をトントンと叩き、大地の周りを黒く塗りました。
そして、黒い部分を指差して

「闇の神は大層お怒りになられてな。
この世界を深淵に沈めようとしたんだそうだ。
それに光の神も勿論抵抗して戦ったんだと。
双子だからな。力は拮抗し、決着はつくことなく今の朝というものなければ昼も夜もない大地が黄昏の世界が、生まれたそうだ。」

「あさ、ひる、よる?ってなんですか?」

ユナは初めて聞く単語に疑問符を浮かべて聞いてきます。

「この世界の向こう側の世界では、朝はあの太陽が空に上り始める時間帯、昼は太陽が上りきり今度は下がり始める。
そして、夜は太陽は下って、月が支配する闇の時間帯だそうだ。」

「向こうの世界では、そんな事があるんですね。
だけども、僕は太陽も月もあそこから動いたのは見たことないです。」

「あぁ、俺もないよ。
まぁ、朝昼夜はそんな感じだ。」

「不思議ですね。」

「そうだな。
さて、少し脱線したが、光の神は、闇の神の侵食を押さえるために、この三つの柱を守護するものを作り出したんだ。」

リーンゼィルは各里ノの中心に円を描いていき、続けて彼は雑な棒人間たちを円を中心に蟻のようにバラバラと書き込んでいきました。


「 この柱が三本も折れてしまえば、この世界は崩壊し闇の世界に沈む。
だから森は侵入者は許さない。そして、俺達も許しはしない。


「それが、リーンゼィルさんの一族…」

「そうだ。まぁ、その辺りはお前の友達を見つけてから追々な。
それでだ。人種について軽く言うと
この里は、お前の知る通り多少の違いはあれども金髪碧眼だ」

「はい、皆そうです」
「だろう。
で、ここは、氷の里は碧色に青眼だ。
炎の里は黒もしくは茶髪に赤眼だ。

そしてお前が言っていた白だが、まぁ白銀の髪は、神の色にもっとも近しい色らしい。
だから、光の都は天界にもっとも近い場所と呼ばれている」
「そうなんですね、となると、あの人は光の都の人ってことでしょうか?」
「それはなんとも言いがたい。彼等は都から出ることは出来ないはずだ。」

「え?どうしてですか?」 

「詳しくはわからん。
また聞きだが、光の都を外から出ると死んでしまうそうだ。
だから、この大地で白髪の人間は会えるはずないんだが……」


「それじゃあ、あの人は…、幽霊…?」

「いや、幽霊でもないだろう?
後は光の王だが。女だったんだよな?」
「え?あっ、はい。」
「光の王は男だ。しかも、現在、王は病によって治療していると聞いている」

「ゆ、幽霊なんていないですもんね!?じゃあ、あの人は一体?」

「うーん、そうだな。残るは光の神子様くらいだな」

「光の神子……?」

「随分有名なお伽噺にいる存在なんだが、それも聞いたことないのか?」

「あっ、いえ、母が、お伽噺なら、いつも寝物語に語ってくれていました。
でも、眠ってしまって…、最後まで聞いたことがなくって。」


「そうか、あー、話してやってもいいが……あれも長いからなぁ」


どうやら御子様が一番確率が高いか。
面倒なことにならないように気をつけないとな。


「ひとまずお前の友達が先だな。

ユナ、何かその友達の匂いがわかるものはないか?」

「え、持ってな、……あっ!そう言えばこの帽子僕、友達にもらったんです。残っているかもしれません」

そう言って頭に被っていたパイロット帽子をリーンゼィルに差し出しました。

「OK、おいで!トール」

リーンゼィルが叫ぶとふわりと真っ白な鳥が肩に降りてきました。

「この匂いの奴等を探してくれ」

ピーっと可愛らしく鳴くと、トールはすぐさま飛び去ってしまいました。
それを見届けると

「光の神子が現れたのかもしれないか……なら、………かもしれない」

リーンゼィルが風に消えるくらい小さな声で、ポツリと漏らしました。

指笛を作ると、強く鳴らしました。


高い音色が森中に響き渡ります。


「さぁ、ユナ!もう一度空からいくぞ!」

「―――――――――――――!!!!!」

 そう言うと問答無用でユナを胸に抱え込んで大樹の枝から跳び降りました。

本日二度目の浮遊感にユナは最早悲鳴も出ませんでした。


しおりを挟む

処理中です...