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光の湖

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リーンゼィルの指笛に呼ばれた豪奢な紅に、金色の尾を引く大鳥が現れ落ちていくリーンゼィルの肩を掴むとあっという間に空へと舞い上がります。
リーンゼィルは、「光苔の湖へ」そういうと最初の鳥よりも更に早いスピードで枝を容易く避けながら飛んでいきます。
ユナは、声をあげる余裕もなく白目を剥いています。

気がつく頃には、黄昏の光を受けてキラキラと光る黄金尾を見れたのは一瞬で、あっという間に光る湖面が見えたかと思ったら

「おい、ちょっとまてって!!?」

リーンゼィルが焦っている声が聞こえたかと思うと、重力に引かれる感覚と、ついで派手な水音が森に響きました。
湖に落ちた衝撃でユナは呼吸ができず、そのまま意識を手放してしまいました。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――







湖から、金色の髪が出て来てます。リーンゼィルは自力で湖に浮かび上がりました。

「ぷはっ、レイ!!
誰が湖に投げ込めって言ったよ!」

空中に滞空する赤い色の鳥は、困ったようにリーンゼィルに鳴きます。

「ギャーギャー」

「え?いつも湖に行くときは投げていいって言ってたって?」

「ギャー」

「そういや、言ってたな…、いや、言ってたけど一人連れてただろ?」

「?ギャ?」

「え、そんなのいないって?」

自分の腕を見ますが、ユナがいません。

「あれ?いない?あっ」

衝撃でうっかりユナを離してしまった。
呼び掛けたら浮いてくるかな?

「おーい、ユナーーー?
早く浮いてこいよーーー」

湖に向かって呼び掛けてはみたものの、いつまで経っても赤髪の少年は浮かんできません。

「?」

うーん、あいつ泳げないとか? 
はは、女神の忌子が泳げないとか、あり得ないよな。
あっ、でも、…運動神経鈍そうだったけど
まぁちょっと待てば浮かぶだろう。

 
しかし、待てど暮らせどユナは浮いてきません。



浮かんでこない…
まさか……マジで泳げないのか!?

リーンゼィルは、大きく息を吸うと、淡く輝く水の中へと潜りました。



水の中は、岩が光っているため陸地よりずっと明るくなっています。

辺りの岩には、光苔と呼ばれ、自ら発光する苔が生えており、大樹の枝葉に隠れて光を浴びたりない木々がこの光苔の光で成長することが出来ているのです。代わりに木々の出す酸素を光苔は頂いているという、いわば共存関係のような関係で、リーンゼィルも幼いときから、光苔には世話になっているため、時折肥料を撒いていました。


さてと、赤色、赤色ーっと。

お!赤い髪が見えた!水草みたいになってる。
っていうか

『魚に襲われながら沈んでる……』

さて、どうしたもんかなぁ?
神様の忌み子なんだろうに?赤髪は。

魚に喰われかけるなよ。

「仕方ないな。」

懐から取り出した銀色の筒を口に加え、今含んでいる空気を一気に吹き込みます。

プカリとほとんどの魚が気を失って浮かんでしまいました。リーンゼィルは自身の酸素もないので、慌てて赤髪を連れて浮かび上がって、陸へとあげました。
ユナは面白いほど水をぴゅーぴゅー吹いていて、リーンゼィルは吹き出してしまいました。

「ぷはっ、ははっ、大丈夫かよ…」


腹部を押してやると面白いほど水を吐き出して、咳き込んでいます。


─よし、大丈夫そうだな。

「ゲホゲホゲボっ」

「大丈夫か?
お前、泳げなかったんだな、落としちまって悪かったよ。」

「ずびばぜ………」
「いいから、呼吸が落ち着くまでそこにいろ。
火を用意してやるよ。大人しくしてろよ」


なーんか、世話のかかる弟が出来たみたいな気分だ。
リーンゼィルは、濡れた服を脱いで木に掛けて、乾いた木々を集めに向かいました。



それにしても、この辺りに人の気配もないし、トールの気配もないな。
別の位置だろうか?

大樹の湖は広く、急斜面の光苔の湖いくつかあります。
そのうちの何処かにユナの友人が、いるはずですが時間がかかりそうです。

「精霊の巣の辺りでないといいが…他にも手伝ってもらおうかな」

リーンゼィルは、銀色の細い筒を咥えると強く吹きます、
こちらも音は聞こえません。
しかし、しばらくすると、銀色の毛並みの大きな大きな狼がこちらへと走ってきました

「フェイン!」

両腕を広げれば柔かい毛並みの獣が嬉しそうに走ってきます。
そのふわふわの毛並みに顔を埋めてリーンゼィルは嬉しそうに全身を撫でてやりました。


「フェイン!久しぶり、オヤジ達はどうだった?」

「くぅーん」

真っ黒の鼻をリーンゼィルの頬に擦り寄せます。
その頭をワシャワシャとリーンゼィルは撫でました。

「そうか…、わかった、ありがとう。誰か侵入者はいたか?」


「わん!」
「そうか!ありがとう」


フェインの縄張りにはいない。となると、残る光る湖は、風の精霊の縄張りか………侵入者は坂さえも容易く登れないと豪語していたのだかな。
…小さな子供だから許したのか?アイツが?

あれから、やはり森は可笑しいのか………俺も覚悟を決めないといけないのかもしれない

それにしても、本当に気まぐれな風だ。大禍時も近いというのなら、
また暴走を始めるかわからない。
今は早く見つけるしかないな。

考え込むリーンゼィルの頬をフェインが舐めました。

「あぁ、大丈夫さ。ノエルが、赤髪の子供を守れと言ったんだ。
この呪いを解くにしても、彼が必要らしい。とはいえども、森は今はとても危険な状態だ。俺も守りきれる気がしない。だから、一度元の村へと帰ってもらおうと、思ってるのさ」

急にフェィンが湿った鼻先をリーンゼィルの手に押し当てます。

「どうした?っ!?」


目の前には、真っ白な毛並みの碧い瞳の美しい一角の馬が佇んでいました。
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