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森の古城

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木々の上ギリギリをレイの背に乗せられ二人は一気に森を駆け抜けていきます。

「ひっ、こんな木上ギリギリを飛んで大丈夫なんですか!?」
「大丈夫大丈夫!なっ!」

頷くようにレイは宙返りをして、ユナは脳を揺さぶられ三半規管がバグる感覚を覚えました。

「おい!レイ!やり過ぎだ!ユナはまだ子供なんだからやめてやれ」

「ビィ」

せっかく上手く宙返りしたのに!っとこいつを乗せてなければと
言う感じで舌打ちされた気がしましたが、ユナは頭を揺さぶられてそれどころではありません。


「大丈夫か?」

「はっ、はい、な、なんとか。
それより、一体どこに向かってるんですか?
リーンゼィルさんの家とは逆方向ですよ!?」

「あぁ、此方でいいんだ。すぐに見えるよ」

そう言って狼たちが着いてきていることを確認しながらリーンゼィルは、少し大きな岩盤までめがけてレイに指示を出していました。

「あの場所へ頼むよ」
「ビィーー!! 」

くるくると回りなが優美にレイはその翼で空を舞います。

「死ぬ死ぬ死ぬ!!!死んじゃいますって!!」

あまりの叫び声に下から


「ユナ!!大丈夫かぁ!!!!」

シンの呼び声が聞こえました。

「だ、大丈夫…じゃない」

大きな声で返事は返せる余裕もなく、ぐったりとしてしまいます。

「はは、ユナは大袈裟だな」

そんなユナをリーンゼィルは、のんきに笑いました。少しだけ不貞腐れながらも、ユナはリーンゼィルの胸に身を預けるしかありませんでした。
仲間の見つからない間は、なんだかんだで、余裕のなかったユナでしたが、彼らが見つかったせいか変に力が抜けきって余計な事が、気になるようになっていました。
───そういえば、リーンゼィルさんって装備が多いから分かりにくかったけど、胸板が厚い。父さんよりずっと見た目が若いけれど、父さんが生きていてくれれば、いや、リーゼが殺されなければ………こんな感じ……だったのかな?

あっ、でも、リーンゼィルさん、森の爽やかな香りがするから、違うかな。リーゼは獣臭というより、鍛練が多かったせいか鎧がすごくて汗臭かったなぁ、なんて自分の現状から逃避したくて必死です。
しかし、唐突にリーンゼィルの腕から解放されました。
そして

「おーい、ユナ。ちょっとレイと待っててな」

そう言って結構な高さがあると言うのに、リーンゼィルはレイから飛び降りてしまい、ユナは一人レイの上に取り残されてしまいました。

どうやらリーンゼィルはすっかり忘れていたようですが、ナギから預けられた剣は二人でしか持てない仕様。
リーンゼィルから離れたせいでしょう。剣が唐突に重さが増して、その重さに耐えられずレイは降下していきます。

「重いぃ、それに、背中が壁に押されるぅ!は、早くリーンゼィルさんの所にいかないと」

「くぇ!」

しかし、大地に降り立ったレイは、投げ出すようにユナをおろし、ユナは転がりおちました。それから、すぐにリーンゼィルを追うつもりでしたが、なぜかレイが嘴でとめます。

「どうしたの?」

レイは、更に翼でユナがリーンゼィルの元へ向かうことを諌めていました。


一方リーンゼィルは、あんな高さから降りたというのに怪我さえなく苔むしった巨大な岩の前にいました。足元をブーツで擦ると、彼の足元には苔に隠れた不思議な紋章が描かれています。
リーンゼィルは、タメ息をつくと少し無表情になって、背負っていた矢筒の中から、矢とは異なる銀色の長い横笛を取り出しました。
そこに刻まれた紋様は、彼の足元の岩に刻まれている模様と同じで、リーンゼィルは、若干眉間に紫波を寄せながらそのフルートで美しい曲を奏でます。
すると、大岩が動き、先程まで地面に埋まっていた岩が地響きをたてながら動き出したのです。

それから、すぐにレイにつつかれながらユナが走ってきました。

「何の音です!!リーンゼィルさん!大丈夫ですか!!?」

「ユナ、もういいぞ。レイ!サンキューな」

「クェイ」

「ここは……なんですか!?」


ユナは唐突に現れた岩の城門に驚き眼を大きく開きました。

「古城への通路だ。
フェインたちもすぐ来るだろう。先に中に入ろう」

「え?あっ、はい」

リーンゼィルは、ユナが持ちきれず浮かしている剣に手を伸ばします。

「すぐ近くだからな。ここからは、二人で持っておこう」
「あっ、はい」

その言葉にホッとユナは肩を撫で下ろし素直に従いました。二人と一匹は真っ黒で何もないトンネルをくぐります。ユナは、最初中に入るのは抵抗がありましたが、リーンゼィルの手が触れていると不思議と落ち着き、今はもう亡き父、遊んでくれていたリーゼ。リーンゼィルとは、出会って間もないというのに彼らと彼はまるで似つかないというのに、何故かユナはリーンゼィルにその面影が見えた気がしました。

そんな事をつらつらと考えながら、暗闇の広がる城の橋らしき道を歩いていけば、何も見えない真っ暗闇。リーンゼィルと共に握っている剣の灯りを頼りに歩くとその先には輝く虹色の光。
その光を頼りに、更に暗がりの道を抜けたその先には、上から下まで美しく磨き抜かれた大理石でできた玄関ホールでした。
あの大岩から考えるとあきらかに広いく高い天井。
荘厳なシャンデリア、色鮮やかなステンドグラス。
村では決してお目にかかる事のなかった景色にユナは目を白黒させていました。


ポカンと口を開けていたユナ。
リーンゼィルは少しだけ居心地が悪そうな顔をし、レイは一人でさっさと水呑場へと向かってしまいました。

「え?あっ、レイ行っちゃいますよ」
「大丈夫だ、アイツはここの事よぉく知ってるからな。さて、そろそろ出てきてもいいんじゃないか?」

リーンゼィルは、天井を見上げて呼び掛けます。
すると、

「おや、リーンゼィル様、お久しゅうございます」

柔らかな女性の声と共に、ふわふわと淡いピンク色の光の玉が彼らの前に現れ、出迎えてくれました。   

「……この光は?」
「おっユナは驚かなかったな。もっとびっくりすると思ってたのに」

「あ、多分ナギで慣れたみたいです…
リーンゼィルさんこちらの方は??」

「この古城の守り主。パーラだ。」
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