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蒼光の矢

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青く光る矢を彼は真っ直ぐに獲物に向かって放ちました。
真っ黒に蠢く汚物のような化け物は、矢が触れた瞬間に四方八方に四散して消えてなくなってしまいました。

リノはポカンと見つめて、シンは唖然としていました。

「あいつを一発で………」
 
シンは、弾けた跡がどうなったのか見ようと近づこうとして、リーンゼィルに止められました。

「まだ障気が酷い。吸い込むと肺をやられるぞ」
「………、はい」


リノは素直に従います、

「お前たちがユナの友達だよな」

そう訪ねられて、三人は頷きました。

「おい、ユナ」
「リーンゼィルさん!スゴいです!!どうなってるんですか!?」

「それについては後でな。
良かったな。お前の友達見つかったぞ」

「ユナ!怪我はないか!」

ユナは大きく目を見開いた後に、シンの腕に飛び込んでぎゅっと抱きつきます。
それに、シンは仕方ないなぁ、とばかりの顔で頭を撫でました。

「ユナ!!お前どこ行ってたんだ!」
「みんな!ごめんなさい!!」

ついで、アンジェがユナによびかけました。

「ユナ!」

アンジェは腕を広げながら呼びます。
ユナは呼ばれるままにアンジェに駆けより迎えるようと腕を広げました。

「アンジェ!ご、えあ!?」

世界がぐるっと回ったかと思った瞬間激痛が走ります。アンジェは、ユナにキャメル・クラッチを決めていました。

「え?え?」

その光景にリーンゼィルは、驚いて身を引いています。
めきめきとユナの体が軋む音がなっています。

「あ、っ、アンジェ…、じぬ」

「心配したのよ!!どこ行ってたのよ!!」
「アン…、じぇ……… 」

カンカンカーン

どこかで、金の音が聞こえた気がしました。

「あ、アンジェちゃん、かな?
そのままだとユナ死んじゃうから、死んじゃうから!
ひとまず止めようか」

リーンゼィルが、怯えながらアンジェの強硬を止めにはいりました。

「あっ、はい。」

素直にアンジェは、リーンゼィルに従い、リーンゼィルは内心ホッとしていました。


「はぁ、はぁ、リーンゼィルざん助かりました」

ユナは息も絶え絶えにリーンゼィルにお礼をいいます。

「おお、良かったな。それよりさっきのっていつもなのか?」
「い!
い、いえ、初めて……です。げほ、死ぬかと……けほ、思いました」
「そ、そうか。」

そんな会話をしている彼らの肩を誰かが叩きました。シンです。

「あの、あいつを治療できる場所はないでしょうか?」

シンが少し遠慮がちにリーンゼィルに訪ねました。

「あぁ、大丈夫だ。」
優しくリーンゼィルは、シンに答えました。

「うーうー」

また、地の底から聞こえるような声がきこえます。

「きゃ、また、きた!」
「ちっ!多いな。
囲まれたらこっちが不利だ。ひとまず逃げよう」

そう言ってユナを抱えようとしましたが、ユナは仲間の前であれは恥ずかし過ぎる!!と心の中で叫んでリーンゼィルの申し出を断ろうと努力してみました。

「あっ、あのリーンゼィルさん、だっこじゃなくて背負って貰うのはだめですか?」

ユナは真剣な眼差しでリーンゼィルに訴えました。しかし、

「ん?いや、そうすると剣が前にくるだろ?
走りにくいしな。まぁ、少しの辛抱だからこのままな」

「あっ、は、はい」


勇気を持ってお願いしたおんぶはあえなく却下されて、
ユナはげんなりした顔でリーンゼィルの体に腕をまわします。
仲間たちは、何を見せられているのかと、ボーゼンと立ち尽くしていました。

「え?」
「なんでユナはだっこなの?」

「そ…それは……そのぉ」

「あぁ、これな。
この、状況については後で説明するよ。
おーいフェイン!お前の群れで彼らを古城に連れてきてくれ」

 「ウォン!オオオオオオオーーーン」

フェインの雄叫び鳴り響き返すような遠吠えがあちこちから聞こえました。
それから、すぐに狼の群れが現れました。
彼らはあっという間にリーンゼィルたちを囲みます。

「お前たち。これは俺の客だ。食ったりするなよ」

「オオン!」
「え?血をなめるのは?って。お前らすぐ噛み殺しちまうだろ?だめ」
「くぅーん」
「ほら、特に、そこの怪我人はそっと運べよ」


「あっ、ぐ、」
「リノ!」
「どうした?」
「どこか治療できるところはありますか、こいつこのままだと」

焦るシンの頭にリーンゼィルは、ポンと大きな手を乗せます。

「少し待て」

そういうと、自らの髪を縛っていた布をほどき、ベルトに繋いだポーチからなにかを取り出しました。

「一時的な痛み止だ。無いより良いだろ」

そう言って薬をたっぷりと塗り込みます。痛みでリノが叫んでいました。

「お、おい!」

シンは止めようとしましたが、それをアンジェに止められます。

「とりあえずは、これで大丈夫だ、だが治療しないとまずい、時間がないから急ぐぞ」
「こいつ!大丈夫ですか!」
「大丈夫さ。だが、ここにいれば全員お陀仏だからぜ。
ほら、兄弟だろ?ついててやりな。フェイン。お前の群れの中で一番に力持ちの奴で頼むわ」
「ウウウ」
「俺か?俺は空から状況を確認しながらルートを指示する。陸地はお前にまかせた」
「ワン」
「空から?」
「り、リーンゼィルさん!なら、ボクは下からで」

「え?なんかいったか?ユナ?
おっほら、来たきた!頼むぞ!レイ!こい!」

赤い翼が一瞬でリーンゼィルの肩をつかみ上空へ浮上し、あっという間に空へと舞い上がりました。 

それからすぐにユナの

「リーンゼィルさん!まってぇ!!」

という、ユナの怯えた悲鳴が響き渡りました。

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