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しおりを挟む会場からさほど離れていない控え室でメイクを直してもらったカトリーナは、部屋の外で待っていてくれたルシウスにお礼を言って上着を返した。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いいや、気にするな。パーティーに出なくなかっただけだから」
昔から華やかな場所は嫌いなんだ、と苦笑する彼はどう見てもそういう場に似合いそうな人間だから、なんだかおかしくて笑ってしまう。
「私も……とても楽しみにしていましたが慣れていないものですから、疲れてしまいました」
「無理をすることはない。レジスが恋人を──それも普段滅多に神殿から出てこない聖女を連れてくるというのは噂になっていたし、人の視線で疲れただろう。本人たちは不躾な自覚がないようだが」
不躾。ああそうか、あの心地悪さの意味がようやく分かったような気がした。私はあれを心底いやだと感じていたことにも自分で気が付かなかった。
「レジスは鈍いところがある。疲れたなら帰りたいとわがままを言ってもいいんだよ、まさかそれで喧嘩したわけじゃないだろう?」
私が泣いていた理由はやはりレジスだと分かっているらしいけれど、喧嘩だと思われていたとは。そのほうがどれだけ良かっただろう。
「彼がご友人とお話ししていて……探したけれど見つからなくて、心細くなっていただけです。どうかこのことはレジスには言わないでください、お願いします」
心細くて泣くだなんて子どものようだけれど本当のことを知られるよりよほど良い。──まさかこの人だって自分の弟が王位を狙っているだなんて考えもしないだろう。
「言われずとも。それなら、そろそろ会場に戻らなければ心配されるんじゃないか?」
その言葉にハッとする。私はテラスにいることになっているのだから、早く戻らないといけない。
「申し訳ありません、私はこれで」
「カトリーナ嬢」
頭を下げた私にほんの少し躊躇ったように、けれどもまっすぐにこちらを見たルシウス殿下が笑う。
「近いうちにまた会おう。神殿に行く用事があるから、ついでに君とゆっくり話したい。祈祷が忙しいとは聞いているがお茶をする時間くらいはあるだろう?」
「え……えぇ、もちろんです」
「君の好きな菓子を土産に持っていくよ。なにがいい?」
いつもレジスが持ってきてくれる私の好物はベリータルトだ。けれどどうしてか口に出せなかった。
「甘いものはなんでも好きです。お気遣い無く」
「わかった」
それじゃあまた、と手を振った彼にもう一度だけ頭を下げて廊下を駆ける。レジスと同じ赤い瞳が最後までこちらを突き刺しているような気がした。
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