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24,服のセンス
しおりを挟む彼女が帰った後の部屋で、アルフレッドは自分の気持ち悪さを自覚しながらも、彼女の座っていたソファーの温もりを感じていた。それを見た兄のルイスはもう何も言うことはない。
「…ふふふ」
声を漏らすように笑ったアルフレッドに、嫌々そうに問いかけてくる。
「今度はなんだ?」
「…俺にエスコートして欲しいって言うんだ」
「婚約者だからだろう」
「俺を選んでくれたんだ。最近は王子とも上手くいってないみたいだけど、まさか俺を選んでくれるなんて」
彼女の前では舞踏会に出ることを渋ってみせたけれど、本当は浮き足立つほど嬉しかった。その理由がどうやら彼女の友人への心配だというのはどうでもいい。ただ、彼女に触れる名目が出来たことを素直に喜んでいた。
「俺も頭のてっぺんからつま先まで着飾らないと」
「おい待て、お前のセンスはやばい。俺が見立ててやるから」
すかさずそう言うルイスに、アルフレッドは不満そうな顔を隠そうとしない。
「兄さんの見立ては地味だよ。彼女に釣り合わない」
「お前の装飾よりマシだ!!!」
というのも、ルイスは知っていた。この弟の美的センスが物に関しては壊滅的なことを。奇抜な服を格好良いと言うし、悪趣味な宝石をまき散らした物を美しいという。
「頼むからもう少し見る目を養ってくれ…」
どうしてこんなんになったんだか、とルイスは目頭を押さえる。確かにシャルロット嬢は美しいとは思う。ただ、アルフレッドは自分を卑下しすぎだろう。少なくとも自分の弟であるし、それなりに顔立ちは整っているのに。
「俺にはお前が理解できない」
「え?どこが?」
「全部だよ!」
婚約者愛してるということ自体、それは素晴らしいことだと純粋に思う。政略結婚が多い貴族で愛を育む夫婦など殆どいないからだ。けれど、愛してるからと相手のすること全てを許すのは違うだろうとルイスは考えるのだ。
「……お前は平気なのか」
「なにが?」
「婚約者が王子のお手付きになることだ」
「…言ってるでしょ?俺は彼女の全てを愛してる、彼女の愛した物も愛する。それをしてようやく、彼女の爪先に近付くことが出来るかもしれない」
やはり自分はこの弟のことがよくわからないな、と思う。ただ近いうちにシャルロット嬢と少し話をした方がいいだろう。
一年前、弟は余計なことをするなと釘付けしてきた。確かに放っておいても気が付けば事態は収束していて、学園の誰かがふと思い出したように話題に出すだけで、特に何か問題があったわけじゃない。
けど、そういうのじゃないだろう。少しでも可愛い弟が、態度に出さなくとも悲しんでいた。考えと心はいつも付いていかないものだ。どれほど頭で良いと考えても、人の心は醜くなる。
それに弟は次男といえど立派な公爵子息だ。言い方は悪いが、侯爵令嬢に振り回されるのは周りから見れば滑稽だろう。
「……アルフレッド」
「なに、兄さん」
「今度の舞踏会は俺も呼ばれてるから」
「そうなの?って、そりゃそうだよね」
「あぁ。だから俺のと一緒に一番良いやつを見立ててやる」
「えー……うん、まぁそう言うなら」
渋々了承する彼に言いたい。
お前のセンスに任せたら、自分どころか公爵である父まで笑いものにされるぞ、と。
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