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第一章

第4話(3)人面木

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「な、なんだ……?」

「これは……人の顔?」

 基と金が二人揃って困惑する。人の顔をした木が大きな口を開く。

「む!」

「口⁉」

「!」

 木の開いた口から、液体のようなものが飛び出す。

「避けろ!」

「くっ!」

 基が声をかけて、二人は左右に飛んでかわす。液体のようなものは地面に付くと、地面をわずかだが溶かす。

「……ただの樹液ではないようだな」

 基が目を細める。

「溶かすとは……うっかり被ってしまうわけには参りませんわね」

 金がより緊張した面持ちになる。

「ああ、そうだね……」

「……!」

 木が再び樹液を吐き出す。

「また来ますわ!」

「ちっ!」

 二人は木から距離を取る。

「ふう……」

 金がため息をつく。

「さてと、どうするかな……」

「………!」

 木が三度樹液を吐き出す。

「うおっ⁉」

「むうっ⁉」

 さきほどよりも勢いも速さも増した樹液が二人を襲う。二人ともこれをなんとかかわす。

「……」

「参ったな、多少の距離は関係無しってわけか……」

 体勢を立て直した基が自らの側頭部を掻きながら呟く。

「速度も増していましたわ。このままでは……」

 金が基に視線を向ける。

「ああ、いつまでも逃げ切れるものではないだろうね……」

 基が首を縦に振る。

「どうしますか?」

「逃げの一手だけでは勝てない……攻めないとね」

「攻めですか? 近づくのも容易ではないですわよ」

「なに、やりようはあるさ……」

「え?」

「こんな風にね……『土弓』!」

 基が素早く印を結ぶと、地面から発生した弓矢が放たれる。

「つ、土の弓矢⁉」

 金が驚く。

「!」

 木が枝を生やして、矢をはたき落とす。

「なに⁉」

「そ、そんなことが……」

「やるねえ……」

 基が苦笑する。

「………」

 木がさらに枝を生やし、自らを覆い隠すようにする。

「むう……」

「守りを固められてしまいましたわ……」

「まあ、その行動で大体だが分かったことがあるよ……」

「え? 何ですか?」

 金が問う。

「つまり……金!」

「えっ⁉」

「地面に注意だ!」

「ええっ⁉ きゃあ⁉」

 地面から顔を出した木の根が金の足を絡め取り、自らの元へと強引に引きずる。

「…………」

「ぐうっ⁉」

「金!」

 木が金を引き寄せる。金を仰向けに倒れ込んで、ほぼ無防備な状態である。

「……………」

「お、おのれ……」

「…………!」

 木が樹液を金に向かって吐き出す。

「くっ!」

 金が思わず目をつむる。

「金! はあっ!」

「‼ も、基さん……」

 金の前に立った基が土の壁を作って、樹液を防いでみせた。

「『土壁』さ……」

 基が笑みを浮かべる。

「た、助かりましたわ……」

「金、少し落ち着くんだ……」

「はい?」

「足は根に絡め取られたが、腕の自由は利くだろう?」

「! 『金剣』!」

 印を結んだ金が、剣を生じさせ、足に絡まった根を切る。

「そうだ……」

「お手数をおかけしました……!」

 金が急いで立ち上がる。

「なに、こういうのはお互い様さ……」

「その壁は簡単には溶かされないようですわね……」

「どうやらそのようだね」

「とりあえず防御面はなんとかなるということでしょうか……」

「そう願いたいところだけど……」

「……………!」

「うおっ⁉」

「基さん!」

 木の伸ばした枝が土壁の左右から回り込み、基の両手に絡みつき、自由を奪う。

「しまった! 枝でも根と同様のことが出来るのか……!」

「………………!」

「どわっ⁉」

 木が基を持ち上げる。

「…………………!」

「ぐわっ⁉」

 木が基を地面に思い切り叩きつける。

「………………」

 木が口を開き、倒れ込んでいる基に向かって樹液を吐き出そうとする。

「うぐっ……」

「基さん!」

 金が声を上げる。
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