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第一章
第6レース(2)手打ち
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「すみませんでした!」
主任教官室で炎仁が勢いよく頭を下げる。席に座る鬼ヶ島が困惑する。
「謝罪は私に言われても困るな……」
「いや、もちろん相手にも謝りました!」
「ならば良い……」
「た、退学ですか⁉」
「……なんでそうなる」
「いや……あんな騒ぎを起こしてしまって……」
「受講生同士のちょっとした諍いなど毎年のことだ。怪我人が出たわけでもないのに、いちいち大きな騒ぎに発展させる必要はない……」
「……停学とか謹慎処分っすか?」
炎仁の隣に立っていた嵐一が口を開く。鬼ヶ島が首を左右に振る。
「反省文を提出すれば、それで良い……」
「寛大な処置っすね」
「……あの場にいた周囲の受講生全員からも事情を聴取した……シャワールームで最初に絡んだのはBクラスの方だという……奴らにも原因がある。奴らには口頭で厳重注意……貴様らには反省文の提出……それで手打ちだ」
「……ありがとうございます」
嵐一が頭を下げる。
「草薙……先の貴様の騎乗に関してだが……この騎手課程はプロ騎手を養成する課程だ、貴様のようにプロ入り後を見据えての騎乗、決して間違ってはいない……」
「……」
「ただ、そういった振る舞いは今回のような無用な軋轢を生む場合がある」
「……では大人しく、お行儀よくしていろと?」
「それが出来るのか?」
鬼ヶ島の問いに嵐一は首を振る。
「一から丁寧な騎乗スタイルを身に着けている余裕も器用さも才能も俺にはないっす。一刻も早くプロのジョッキーになりたいからこの短期コースを受講したんだ。今更やり方を変える気はないっすよ」
「ふむ……」
鬼ヶ島が顎に手をやる。
「そんな奴は認められないっすか?」
「いや、大変結構な心意気だ、貴様はそのままで良い」
「……」
「反省文は明朝、ここに持ってこい。二人とも下がって良いぞ」
「……失礼します」
「し、失礼します!」
嵐一と炎仁が頭を下げ、主任教官室を後にする。鬼ヶ島はデスクの電話を取る。
「私だ、主任教官室に来てくれ」
「た、助かった……」
廊下を歩きながら、炎仁がホッと胸を撫で下ろす。隣を歩く嵐一が呆れる。
「そんなにビビるくらいなら最初からそんなことするなよ……」
「だ、だって……」
「だって?」
「あいつがCクラスのことを馬鹿にしたからさ……」
「……俺らが『崖っぷち』だっていうのは全員の共通認識みたいだな」
嵐一が自嘲気味に笑う。
「それに……」
「ん?」
「嵐一さんのことも馬鹿にしてたじゃないか」
「!」
「それも腹が立ってさ……」
「まあ、野球が半端だったっていうのは当たっているかもな」
「本当に? 怒っていたじゃないか? あんまり詳しくないけどさ、高校野球のスター選手だったんでしょ? 『群馬の四刀流』って言われて」
「ダセえあだ名はやめろ……」
「ご、ごめん……でも、そんなに騒がれる程の選手が半端だったはずがない。少なくとも他人に馬鹿にされることではないはずだ」
「……四刀流ってのはな、投手に打者だけでなく、捕手と主将までこなしていたから付いたあだ名だ」
「い、忙しいな」
「それだけ打ち込んでいたってことだ――大して強いチームじゃなかったからっていう事情もあるが――とにかくマジでやっていた……だが、無理が祟ったのかな……ある時、肘を痛めちまった」
「え……」
炎仁が静かに驚く。
「満足なパフォーマンスが出来なくなった俺から多くの人が離れていった。『お前にはもう価値がない』と言われているようで辛かったよ。そして俺自身も野球から離れていった。今思えば自棄になっていたのかな。そんな時に出会ったのが競竜だ」
「……」
「野球部も退部してブラブラしている俺を見かねて、高校の教師が紹介してくれた牧場で初めてドラゴンに跨った。最初の内は全然上手く乗れなかったが、新たな世界を見たような気持ちになったよ。その時にこう思ったんだ。ああ、俺が目指すべき場所はここだってな」
「そうだったのか……」
「野球も半端って言葉にカチンときたのも事実だが、『お前なんかがプロになれるか』っていう方がキレた。今の俺には競竜のプロになるしか考えられないからな」
「おお……」
「まあ、お前が先にキレてくれて良かったよ、俺がキレてたら、あいつら二人とも間違いなく病院送りだったからな」
嵐一が笑う。
「いや、それあんまり笑えないから……」
食堂で遅めの夕食を取り、二人は部屋に戻ろうとする。嵐一が語りかける。
「反省文書いたら見せてくれよ、俺が写すから」
「だ、駄目だよ、ちゃんと自分の言葉で書かなきゃ」
「真面目だな」
「当たり前でしょ」
「そうだよ~そういう所も鬼ヶ島教官は見るからね~」
「! 仏坂教官! きょ、今日はすみませんでした!」
「……すいませんした……」
二人の背後から声をかけてきた仏坂に二人が反射的に謝る。
「まあまあ、それはもういいよ。いや、良くはないか? とにかく二人に知らせておきたいことがあってね。さっき鬼ヶ島教官に話があるって呼び出されたんだよ」
「話? なんですか?」
炎仁が問う。
「……どうやらBクラスの二人がまだ腹を立てているみたいでね」
「ひょっとしてまだ謝罪が足りないとかですか?」
「いや、それに関してはBクラスの並川教官がうまく宥めてくれてね。ただ、話が妙な方向に転がったんだ」
「妙な方向っすか?」
嵐一が首を傾げる。仏坂が頷く。
「三日後にBクラスとCクラスの合同訓練があるんだけど、その場で向こうの二人と草薙君、紅蓮君でレースをさせようって話さ」
「「!」」
「余計にこじれそうな気もするけど、『レースで白黒つけるのが一番手っ取り早い』って鬼ヶ島教官のお達しでさ……どうする? やる?」
「「やります!」」
仏坂の問いかけに炎仁と嵐一が揃って答える。
主任教官室で炎仁が勢いよく頭を下げる。席に座る鬼ヶ島が困惑する。
「謝罪は私に言われても困るな……」
「いや、もちろん相手にも謝りました!」
「ならば良い……」
「た、退学ですか⁉」
「……なんでそうなる」
「いや……あんな騒ぎを起こしてしまって……」
「受講生同士のちょっとした諍いなど毎年のことだ。怪我人が出たわけでもないのに、いちいち大きな騒ぎに発展させる必要はない……」
「……停学とか謹慎処分っすか?」
炎仁の隣に立っていた嵐一が口を開く。鬼ヶ島が首を左右に振る。
「反省文を提出すれば、それで良い……」
「寛大な処置っすね」
「……あの場にいた周囲の受講生全員からも事情を聴取した……シャワールームで最初に絡んだのはBクラスの方だという……奴らにも原因がある。奴らには口頭で厳重注意……貴様らには反省文の提出……それで手打ちだ」
「……ありがとうございます」
嵐一が頭を下げる。
「草薙……先の貴様の騎乗に関してだが……この騎手課程はプロ騎手を養成する課程だ、貴様のようにプロ入り後を見据えての騎乗、決して間違ってはいない……」
「……」
「ただ、そういった振る舞いは今回のような無用な軋轢を生む場合がある」
「……では大人しく、お行儀よくしていろと?」
「それが出来るのか?」
鬼ヶ島の問いに嵐一は首を振る。
「一から丁寧な騎乗スタイルを身に着けている余裕も器用さも才能も俺にはないっす。一刻も早くプロのジョッキーになりたいからこの短期コースを受講したんだ。今更やり方を変える気はないっすよ」
「ふむ……」
鬼ヶ島が顎に手をやる。
「そんな奴は認められないっすか?」
「いや、大変結構な心意気だ、貴様はそのままで良い」
「……」
「反省文は明朝、ここに持ってこい。二人とも下がって良いぞ」
「……失礼します」
「し、失礼します!」
嵐一と炎仁が頭を下げ、主任教官室を後にする。鬼ヶ島はデスクの電話を取る。
「私だ、主任教官室に来てくれ」
「た、助かった……」
廊下を歩きながら、炎仁がホッと胸を撫で下ろす。隣を歩く嵐一が呆れる。
「そんなにビビるくらいなら最初からそんなことするなよ……」
「だ、だって……」
「だって?」
「あいつがCクラスのことを馬鹿にしたからさ……」
「……俺らが『崖っぷち』だっていうのは全員の共通認識みたいだな」
嵐一が自嘲気味に笑う。
「それに……」
「ん?」
「嵐一さんのことも馬鹿にしてたじゃないか」
「!」
「それも腹が立ってさ……」
「まあ、野球が半端だったっていうのは当たっているかもな」
「本当に? 怒っていたじゃないか? あんまり詳しくないけどさ、高校野球のスター選手だったんでしょ? 『群馬の四刀流』って言われて」
「ダセえあだ名はやめろ……」
「ご、ごめん……でも、そんなに騒がれる程の選手が半端だったはずがない。少なくとも他人に馬鹿にされることではないはずだ」
「……四刀流ってのはな、投手に打者だけでなく、捕手と主将までこなしていたから付いたあだ名だ」
「い、忙しいな」
「それだけ打ち込んでいたってことだ――大して強いチームじゃなかったからっていう事情もあるが――とにかくマジでやっていた……だが、無理が祟ったのかな……ある時、肘を痛めちまった」
「え……」
炎仁が静かに驚く。
「満足なパフォーマンスが出来なくなった俺から多くの人が離れていった。『お前にはもう価値がない』と言われているようで辛かったよ。そして俺自身も野球から離れていった。今思えば自棄になっていたのかな。そんな時に出会ったのが競竜だ」
「……」
「野球部も退部してブラブラしている俺を見かねて、高校の教師が紹介してくれた牧場で初めてドラゴンに跨った。最初の内は全然上手く乗れなかったが、新たな世界を見たような気持ちになったよ。その時にこう思ったんだ。ああ、俺が目指すべき場所はここだってな」
「そうだったのか……」
「野球も半端って言葉にカチンときたのも事実だが、『お前なんかがプロになれるか』っていう方がキレた。今の俺には競竜のプロになるしか考えられないからな」
「おお……」
「まあ、お前が先にキレてくれて良かったよ、俺がキレてたら、あいつら二人とも間違いなく病院送りだったからな」
嵐一が笑う。
「いや、それあんまり笑えないから……」
食堂で遅めの夕食を取り、二人は部屋に戻ろうとする。嵐一が語りかける。
「反省文書いたら見せてくれよ、俺が写すから」
「だ、駄目だよ、ちゃんと自分の言葉で書かなきゃ」
「真面目だな」
「当たり前でしょ」
「そうだよ~そういう所も鬼ヶ島教官は見るからね~」
「! 仏坂教官! きょ、今日はすみませんでした!」
「……すいませんした……」
二人の背後から声をかけてきた仏坂に二人が反射的に謝る。
「まあまあ、それはもういいよ。いや、良くはないか? とにかく二人に知らせておきたいことがあってね。さっき鬼ヶ島教官に話があるって呼び出されたんだよ」
「話? なんですか?」
炎仁が問う。
「……どうやらBクラスの二人がまだ腹を立てているみたいでね」
「ひょっとしてまだ謝罪が足りないとかですか?」
「いや、それに関してはBクラスの並川教官がうまく宥めてくれてね。ただ、話が妙な方向に転がったんだ」
「妙な方向っすか?」
嵐一が首を傾げる。仏坂が頷く。
「三日後にBクラスとCクラスの合同訓練があるんだけど、その場で向こうの二人と草薙君、紅蓮君でレースをさせようって話さ」
「「!」」
「余計にこじれそうな気もするけど、『レースで白黒つけるのが一番手っ取り早い』って鬼ヶ島教官のお達しでさ……どうする? やる?」
「「やります!」」
仏坂の問いかけに炎仁と嵐一が揃って答える。
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