疾れイグニース!

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
27 / 63
第一章

第7レース(2)水着でくんづほぐれつ

しおりを挟む
「なんでだ⁉ なんでこんなことに⁉」

 レオンが目の前に広がる海に向かって叫ぶ。

「レオン、海で叫ぶなら『バカヤロー!』だろ?」

「いや、いつの時代だよ!」

 炎仁の的外れな指摘にレオンは呆れる。

「何を騒いでいるんだよ?」

「この現状だよ!」

「現状?」

 炎仁は首を傾げる。

「なんで女子がいないんだよ⁉」

「そりゃあ、自由時間が別々に割かれているから……」

「若者にとっての夏とはその年代だけの限られたもの! せっかくの綺麗な海! 何が悲しくて男だけで過ごさなければいけないんだよ!」

「……お前みたいな邪な考えの奴がいるから別々にしてんだろ……」

 嵐一が心底呆れたような口調で呟く。

「何が邪だというんだい! 楽しく過ごすに越したことはないだろう! 親睦を深めることは良好な人間関係に繋がる! 極めて健全な考えだろう!」

「一理あるか……」

「一理も何理もねえよ、こいつの詭弁に惑わされるな」

 レオンの真に迫った言葉に頷きそうになる炎仁を嵐一がたしなめる。

「ど、どこが詭弁を弄しているんだ⁉」

「……大体そんな珍妙な恰好をしている奴に女は近寄らねえよ」

 嵐一はレオンを指差す。レオンは何故か真っ白な『フンドシ姿』である。

「珍妙とは心外だな! 伝統的なジャパニーズ・スイムスタイルだろう!」

 レオンは両手を腰に当てて、腰を突き出す。

「お前の重んじる伝統とやらはどこかズレているんだよ……女の気を引きたくて必死なのが透けて見えるのもマイナスポイントだな」

「そ、そういう君はどうなんだ⁉」

「あ? 俺の恰好はごくごく自然だろう?」

 嵐一はそう言ってポーズを取る。彼の水着は所謂『ブーメランパンツ』である。屈強かつ引き締まった褐色の肉体に薄緑色の水着がよく映える。レオンが指摘する。

「露出度が高すぎる!」

「お前なんかケツ丸出しじゃねえか」

「いや、それにしても布地の面積が小さ過ぎる!」

「面積が少ない方が動きやすくて良いんだよ」

「じゃあ、その股間の膨らみは一体なんだ⁉」

 レオンは嵐一の股間辺りを指差す。股間がきれいに丸く盛り上がっている。

「こ、これはいわゆるボールカップを付けてんだよ」

「何のために⁉」

「そ、そりゃあ保護するためだよ、野球でキャッチャーもやっていたからな。その頃から愛用しているやつだよ」

「いいや、そのカップは股間のラインを綺麗にみせる為のカップだね! 競技用などでは断じてない! 僕は詳しいんだ!」

「なっ、何を言ってやがる……」

 嵐一は分かりやすく動揺する。

「ほ~ら、図星だろう! 僕の目は誤魔化せないぞ!」

「と、とにかく落ち着け、レオン! かかりすぎだ!」

 炎仁は興奮するレオンを抑え込む。

「離せ、炎仁! 僕は冷静だ! この『股間さりげなく強調マン』を糾弾せねば!」

「全然冷静じゃないぞ! 落ち着け! どう! どう!」

 炎仁はなんとかレオンを落ち着かせようとする。

「……どうでも良いけど、静かにしてくれない~? 寝たいんだけど~」

 砂浜のチェアに寝そべる翔が面倒臭そうに呟く。

「ご、ごめん! いや、なんで俺が謝るんだ? ……っていうか寝ちゃ駄目だよ!」

「え~?」

「教官から言われただろう? この自由時間は別に休憩時間ってわけじゃないんだから! トレーニングに活用しないと!」

「そ、そうだ、炎仁の言うとおりだぞ!」

 嵐一が炎仁に同調する。

「もう~しょうがないな~」

 翔が渋々と立ち上がる。彼は紫色をベースとしたカラーリングの『サーフパンツ』を履いている。着心地は随分と良さそうである。

「……炎仁、離してくれ」

「落ち着いたか?」

「ああ……」

 レオンから炎仁が離れる。ちなみに炎仁の水着は赤茶色の『ハーフスパッツ』である。スポーティーでシンプルなデザインをしている。炎仁が皆に語りかける。

「じゃあ、どういうトレーニングをしようか?」

「泳ぐ~?」

「いや、あんまりそういう気分じゃないな……」

 翔の提案をレオンがやんわりと却下する。

「じゃあ、走るか?」

「う~ん、そんな気分でも無いかな……」

 炎仁の提案もレオンはやんわりと拒否する。嵐一が声を荒げる。

「どんな気分なんだよ、てめえは!」

「……相撲の気分かな」

「は? 相撲?」

「そう、裸と裸のぶつかり合い! それこそが強靭な肉体と精神の養成に繋がる!」

「わざわざ海まできてやることかよ……」

「むしろ海だからこそだよ!」

「意味が分からねえよ……なあ?」

「まあ、時間も限られているからそれでいいか……」

「土俵の線引いたよ~」

「なっ⁉」

 何故か相撲の提案をすんなりと受け入れる炎仁と翔に嵐一は戸惑う。

「よし! それじゃあ、総当たりでリーグ戦だ! 初めの一番は炎仁と天ノ川君!」

「おしっ!」

「やろう~」

「見合って見合って……はっけよ~い、のこった!」

「ふん!」

「おっと!」

「のわっ⁉」

 炎仁の突進を翔が身を翻して躱す。炎仁は前のめりになる。

「ひょいっと♪」

「ぐっ⁉」

 翔に背中を押され、炎仁はあえなく倒れ込む。

「天ノ川関の勝ち!」

「天ノ川関って……」

「くっ、小兵相手に油断した……」

「じゃあ、炎仁、行司お願いするよ」

「あ、ああ、じゃあ、レオンと嵐一、土俵に上がってくれ」

「おおしっ!」

「なんで全員ノリノリなんだよ、お前ら……まあ、多少のトレーニングにはなるか」

「見合って見合って……はっけよい、のこった!」

「はっ!」

「⁉」

 レオンが嵐一の顔面で拍手をする。ネコだましだ。嵐一の動きが一瞬止まる。

「かかったな!」

「なめんな!」

「どわっ⁉」

 横に回り込んで嵐一の水着を掴もうとしたレオンだったが、すぐさま向き直った嵐一にあっけなく投げられてしまう。炎仁が叫ぶ。

「草薙剣関の勝ち!」

「なんだよ、そのしこ名は……まあ、恰好良いからいいか」

「くそ……天ノ川君、行司を頼む。次の一番は僕と炎仁だ」

 砂にまみれたレオンは砂を払いながら立ち上がると、再び土俵に上がる。

「見合って見合って……はっけよ~い、のこった~!」

「それ!」

「うおっ⁉」

 レオンが今度は奇策を用いず、炎仁にぶつかってきた為、炎仁は面食らった。

「おおおっ!」

(くっ、レオン! 華奢な体格に見えて、どうしてなかなか引き締まっている!)

(炎仁! 細身だが、案外がっしりとしているたくましい体だ!)

「それっ!」

「えいっ!」

「「⁉」」

 炎仁とレオンが同じタイミングで転がる。やや考えて、翔が声を上げる。

「同体! よって引き分け~」

「くっ……」

「はい、行司お願い~」

 翔が起き上がった炎仁に声をかける。

「あ、ああ……じゃあ天ノ川君と嵐一は土俵に上がってくれ」

「よ~し」

 翔と嵐一が土俵に上がる。炎仁が掛け声をかける。

「見合って見合って……はっけよい、のこった!」

「それ!」

「なっ⁉」

 嵐一が驚く。体格が一回りほど違う翔が果敢に組み合ってきたのである。

「……ふうっ」

「ひゃっ⁉」

 嵐一が悲鳴を上げる。翔が嵐一の分厚い胸板に向かってふっと息を吹きかけてきた為である。嵐一は腰砕けの体勢になる。

「もらった~♪」

「させるか!」

「「⁉」」

 翔はバランスを崩した嵐一の脚を取り、転ばそうとするが、嵐一が踏ん張って翔を投げ飛ばす。二人は同時に転ぶ。やや間があってから炎仁が声を上げる。

「ど、同体! よって引き分け!」

「い、意外な結果!」

 レオンが驚く。炎仁が声をかける。

「次はレオンと天ノ川君だ、土俵に上がってくれ!」

「よしっ!」

「見合って見合って……はっけよい、のこった!」

「ほい!」

(! 天ノ川君、組み合ってきた! 僕より小柄だが、こうして組み合ってみると意外と男らしい体つきだな……組み合ってみなければ分からなかった……まさに『百聞は一見に如かず』! 後、良い匂いがするな……)

(金糸雀君、華奢に見えるけど……結構がっしりしている。お尻もいい筋肉だ……)

 翔がレオンの尻を力強く握る。

「きゃんっ!」

「おっと⁉」

 レオンが悲鳴を上げながら翔を倒す。炎仁が声を上げる。

「水木金糸雀関の勝ち!」

「いや、どんなしこ名だよ!」

「凄いパワーだったな」

「……お尻をムギュッと掴まれたから、驚いて変な声と力が出たよ……それじゃあ、最後の一番だね、炎仁と嵐一君、土俵に上がってくれ」

「よっし!」

「見合って見合って……はっけよ~い、のこった!」

「ふん!」

(嵐一! 凄いパワーだ! そして……なんてマッチョなんだ……いつもシャワールームなどで実はこっそり見惚れていたが……組み合ってみても惚れ惚れとする。『一粒で二度美味しい』とはこのことか! いや、違うか!)

(炎仁! サッカーをやってだけあって、下半身がしっかりとしていやがるな……特に太腿だ、かなりの良いもんを持っていやがる……!)

「うおおっ!」

「なっ⁉」

「ぐ、紅蓮華関の勝ち! ということは全員横並びだ! これは……」

「よしっ! レオン、時間の許す限り、相撲を続けよう!」

 炎仁が叫ぶ。半裸の男たちのぶつかり合いはまだまだ続く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「美少女157人も召喚できるだと!?」社畜の俺、尖ったトラウマを全部『まあるく』収めて大賢者になる。── やっぱりせかいはまあるいほうがいい

あとりえむ
ファンタジー
『ヒロイン全員 挿絵付き』の異世界セラピーファンタジー。あなたの推しのヒロインは誰ですか? 「やはり、世界は丸いほうがいい……」 過労死した元データアナリスト参 一肆(まいる かずし)が女神様から授かったのは、アホみたいな数式から導き出された究極のハーレム召喚だった。 157人のヒロインたちに埋もれて、尖った世界を『まあるく』浄化しくしていく…… Dカップの村娘からIカップの竜の姫君まで、あらゆる属性のヒロイン達と一緒に、襲い来る「社畜のトラウマ」に立ち向かう。 全人類の半分の夢が詰め込まれた、極上のスキンシップの冒険譚が今開幕する!

ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」 ダンジョン出現から10年。 攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。 かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。 ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。 すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。 アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。 少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。 その結果―― 「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」 意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。 静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...