竜王はワシじゃろ?

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第6話(4)爆発

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「りゅ、竜子……」
 太郎が心配そうに見つめる。
「太郎……」
 パパが太郎の肩をそっと抱く。
「パパ……」
「ここまで来たら見守るだけだよ……」
「珍しく良いこというわね……」
 ママが小声で呟く。
「め、珍しくって……!」
 パパが小声で反応する。
「確かに見守るしかできないものね……でも……」
「でも?」
「竜子はまだ諦めていない……あの子の目は死んでいない……!」
 ママが静かに、それでいて力強く呟く。
(将野竜子……棋歴は確かに浅いようだが……そういうことはあまり彼女には関係ない……彼女は間違いなく強い……)
 腕を組んだ田中が心の中で呟く。
(まだまだ棋歴が短いからこそ、初心者の域は脱していないとは思うのだが……それは逆に考えるとつまりは……伸び代があるということ……!)
 田中が顎に手を添える。
(ここから……今この瞬間から爆発的に伸びるという可能性があるということ……!)
「爆発寸前……!」
 田中が思わず声に出して呟く。そんな田中を左京が横目で見つめる。
(田中さんも気が付いたようですわね……将野さんが持つ計り知れないポテンシャルに……そう、初心者の方はきっかけさえ掴めば、爆発的に伸びるもの……そして、見たところ、彼女の伸びるきっかけというのはまだ訪れてはいない……! そんな予感がひしひしとしますわ……)
 左京が自らの顎をさする。
(あの外海さんがここまで仕留めきれていないというのがなによりの証拠……外海さんも嫌な予感を感じていることでしょう……いや、データ派の彼女はそんな予感なんか意地でも認めないかもしれませんわね……)
「ふふふっ……」
 左京が思わず笑みをこぼす。
「くっ……」
 竜子が考え込む。
(しつこいな……いい加減諦めなよ……これ以上はどうにもならないって……)
 央美が心の中で毒づく。
「……」
(! ウチが嫌がっている……! 気持ちで圧されているっていうこと? そんな馬鹿な……ぶっちゃけあり得ない……!)
 央美は自分の心の変化に対して戸惑う。
「………」
(早く投了しなって……人に頭を下げるのがそんなに嫌なの? どこまで負けず嫌いなの? ああ、もう! イライラしているウチにイラつく!)
 央美は心の中でだんだんと苛立ってくる。
「…………」
(もしかしてまだイケると思ってんの? いやいや、それはないっしょ……はっきり言って君にもう勝ち筋はないって……)
「……!」
「あっ……」
 焦りの為か央美が飛車を竜子に取られる。
「……………」
 竜子が笑みを浮かべる。
(なによ、その笑い……今さら飛車をどうこうしようだなんて……)
「……‼」
「はあっ⁉」
 央美が声に出して驚く。竜子が取った飛車を早速使ってきたことに対してではない。問題はそれを置いた位置だ。
「………………」
(8二飛⁉ な、なんで初期位置に?)
「ふっ……」
 そこから何手かが続き、央美がハッと気づく。
(ま、まさか……)
「ふふっ……」
「ここにきて居飛車……⁉」
 央美がまたも声に出して驚く。
「ふふふっ……」
「そんな……マジで?」
「ああ、マジじゃよ」
 竜子が呟く。
「ここに来て仕切り直しってこと?」
「ワシが居飛車で臨んだデータはないじゃろう?」
「! そ、それが狙いだったの……?」
「粘った甲斐があったわい……」
「ば、馬鹿な……」
「もっとも狙いはそれだけではないぞ?」
「ええ?」
「15分が経過しました。ここから持ち時間3分の将棋です」
 係員が声をかける。
「ええっ?」
「……ここからなら多少の実力差は関係ないじゃろう?」
「くっ……」
「さあ、行こうかのう……!」
「ちっ!」
「……‼」
「くっ!」
「………‼」
「うっ!」
「…………‼」
「……負けました」
 央美が頭を下げる。
「ありがとうございました……」
 竜子が礼をする。
「なによ、頭、下げられるんじゃないの……」
「うん?」
「なんでもないわ。こっちの話よ……」
 央美が手を左右に振る。
「そうか……」
 竜子が笑みを浮かべる。これで竜子の決勝進出である。
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