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第一章
第7話(1)化粧室にて
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7
「よっし、決勝じゃあ!」
竜子がガッツポーズを取る。
「す、すごいよ、竜子!」
「つ、次も頑張れ!」
「リラックスしてね!」
「ふふん!」
竜子が太郎とパパとママの声援に手を振って応える。竜子はお手洗いの方へと向かう。ママが笑みを浮かべながら呟く。
「ふふっ、言うまでもなくリラックスしているみたいね……」
「しかし、本当にここまで来るとは……」
「つ、次に勝つとどうなるの?」
「か、関東王者っていうことになるね……」
太郎の問いにパパが答える。
「そ、それってさ……」
「う、うん……」
「めちゃめちゃすごいじゃん……!」
「めちゃめちゃすごいよ!」
「超強いじゃん……!」
「超強いよ!」
「かっこいいじゃん……!」
「かっこいいよ!」
「太郎、ちょっと静かにしなさい……」
「う、うん……」
ママが太郎に注意する。
「パパはちょっと落ち着いて……」
「あ、ああ、そ、そうだね……」
「ただ太郎の言っていることをオウム返ししていただけだったわよ」
「あ、ああ、そうだった?」
「とにかく大会はまだ続いているんだから……静かに観戦しましょう」
「は、はい……」
「おっしゃる通りです……」
太郎とパパが揃って頷く。
「くっ……」
「すっかりしてやられてしまいましたわね」
央美に対して、左京が声をかける。
「まったく、あり得ないっての……振り飛車が読まれているからって、居飛車で仕切り直そうってどういう発想よ……」
央美が頭を掻きむしる。
「初心者ならではの非常に柔軟なる発想……」
田中が呟く。
「あんな初心者がいてたまるもんですか」
「しかし、棋歴的には、あなたの見立てた通り、初心者の域を出ていないはず……」
「くっ……」
「彼女にとっては間違いなく分岐点となった一局のはず……」
「分岐点?」
「その辺によくいる実力者の道を進むか……それとも……」
「それとも?」
「有数の強者になる道を進むかの分かれ目だった……」
「……どちらに進んだの?」
「答えるまでもない……」
「ああ! やっぱりここで叩きのめすべきだった……!」
央美が両手で頭を抱える。
「少し……いや、大分余裕を見せすぎましたわね……」
「こんなところでティーカップで紅茶を飲んでいる君に言われたくないんだけど……」
央美が冷ややかな視線を左京に向ける。
「はい?」
「はい?じゃないの、随分な余裕をかましているのは君の方でしょ」
「これは余裕ではありません」
「何よ?」
「たしなみというものです」
「ああ、そうですか……」
央美が呆れたように両手を広げる。
「将野竜子さん、決勝戦も要注目ですわね……」
「ああ、果たしてどのような戦いを見せるのか……」
左京の呟きに田中が反応する。
「ふう~」
お手洗いの化粧台で竜子がため息をつく。
(さっきの一局はかなり苦しい一局だった……自分が分析されているということがあんなにしんどいものだとは思わんかった……)
竜子は蛇口をひねる。水が出る。
(……戦い方のバリエーションというものをもっと増やさないといかんのだろうな……例えば振り飛車から居飛車へのスタイルチェンジ……というのはちょっとばかり極端過ぎるかのう……)
水が出続ける。
(とはいっても、もちろん居飛車の戦法にもある程度は通じていた方が良いな……。まあ、まずは振り飛車での戦い方というものをもっともっときちんと掘り下げていくべきではあるのだが……)
水がなおも出続ける。
「ふう……!」
竜子が水で顔を洗う。
(バリエーションについてもそうだが……戦い方のペース配分みたいなものも大事になってくるんじゃな……攻め一辺倒では駄目だし、守りをしっかり固めるというときも必要になってくる……)
竜子はハンカチで顔を拭く。
(しかし……実際に人と対局することによって、見えてくるものは思ったよりも多かったな……スマホの将棋バトルだけでは得られない貴重な経験を得られた……)
竜子は腕を組んでうんうんと頷く。
(やはり道場などにも積極的に通うべきじゃな……毎日は無理でも、週に一回とか……パパさんに相談してみるか、いや、先にママさんに話した方が……。後で考えるか……)
竜子は顎に手を添える。
(こうして大会に出てみることによって、ワシの現在地というものがなんとなくだが分かってきた……ような気がする。竜王への道もおぼろげながら見えてきた……ような気がする。ただ、まだまだ遠いな……。しかし、そもそもどうやれば竜王になれるんじゃろうか? その辺をよく分かっておらんな……我ながら勢い任せじゃな……)
「ふっ……」
「なにを一人で笑っているの?」
「うわっ⁉」
突然声をかけられ、竜子は驚く。
「よっし、決勝じゃあ!」
竜子がガッツポーズを取る。
「す、すごいよ、竜子!」
「つ、次も頑張れ!」
「リラックスしてね!」
「ふふん!」
竜子が太郎とパパとママの声援に手を振って応える。竜子はお手洗いの方へと向かう。ママが笑みを浮かべながら呟く。
「ふふっ、言うまでもなくリラックスしているみたいね……」
「しかし、本当にここまで来るとは……」
「つ、次に勝つとどうなるの?」
「か、関東王者っていうことになるね……」
太郎の問いにパパが答える。
「そ、それってさ……」
「う、うん……」
「めちゃめちゃすごいじゃん……!」
「めちゃめちゃすごいよ!」
「超強いじゃん……!」
「超強いよ!」
「かっこいいじゃん……!」
「かっこいいよ!」
「太郎、ちょっと静かにしなさい……」
「う、うん……」
ママが太郎に注意する。
「パパはちょっと落ち着いて……」
「あ、ああ、そ、そうだね……」
「ただ太郎の言っていることをオウム返ししていただけだったわよ」
「あ、ああ、そうだった?」
「とにかく大会はまだ続いているんだから……静かに観戦しましょう」
「は、はい……」
「おっしゃる通りです……」
太郎とパパが揃って頷く。
「くっ……」
「すっかりしてやられてしまいましたわね」
央美に対して、左京が声をかける。
「まったく、あり得ないっての……振り飛車が読まれているからって、居飛車で仕切り直そうってどういう発想よ……」
央美が頭を掻きむしる。
「初心者ならではの非常に柔軟なる発想……」
田中が呟く。
「あんな初心者がいてたまるもんですか」
「しかし、棋歴的には、あなたの見立てた通り、初心者の域を出ていないはず……」
「くっ……」
「彼女にとっては間違いなく分岐点となった一局のはず……」
「分岐点?」
「その辺によくいる実力者の道を進むか……それとも……」
「それとも?」
「有数の強者になる道を進むかの分かれ目だった……」
「……どちらに進んだの?」
「答えるまでもない……」
「ああ! やっぱりここで叩きのめすべきだった……!」
央美が両手で頭を抱える。
「少し……いや、大分余裕を見せすぎましたわね……」
「こんなところでティーカップで紅茶を飲んでいる君に言われたくないんだけど……」
央美が冷ややかな視線を左京に向ける。
「はい?」
「はい?じゃないの、随分な余裕をかましているのは君の方でしょ」
「これは余裕ではありません」
「何よ?」
「たしなみというものです」
「ああ、そうですか……」
央美が呆れたように両手を広げる。
「将野竜子さん、決勝戦も要注目ですわね……」
「ああ、果たしてどのような戦いを見せるのか……」
左京の呟きに田中が反応する。
「ふう~」
お手洗いの化粧台で竜子がため息をつく。
(さっきの一局はかなり苦しい一局だった……自分が分析されているということがあんなにしんどいものだとは思わんかった……)
竜子は蛇口をひねる。水が出る。
(……戦い方のバリエーションというものをもっと増やさないといかんのだろうな……例えば振り飛車から居飛車へのスタイルチェンジ……というのはちょっとばかり極端過ぎるかのう……)
水が出続ける。
(とはいっても、もちろん居飛車の戦法にもある程度は通じていた方が良いな……。まあ、まずは振り飛車での戦い方というものをもっともっときちんと掘り下げていくべきではあるのだが……)
水がなおも出続ける。
「ふう……!」
竜子が水で顔を洗う。
(バリエーションについてもそうだが……戦い方のペース配分みたいなものも大事になってくるんじゃな……攻め一辺倒では駄目だし、守りをしっかり固めるというときも必要になってくる……)
竜子はハンカチで顔を拭く。
(しかし……実際に人と対局することによって、見えてくるものは思ったよりも多かったな……スマホの将棋バトルだけでは得られない貴重な経験を得られた……)
竜子は腕を組んでうんうんと頷く。
(やはり道場などにも積極的に通うべきじゃな……毎日は無理でも、週に一回とか……パパさんに相談してみるか、いや、先にママさんに話した方が……。後で考えるか……)
竜子は顎に手を添える。
(こうして大会に出てみることによって、ワシの現在地というものがなんとなくだが分かってきた……ような気がする。竜王への道もおぼろげながら見えてきた……ような気がする。ただ、まだまだ遠いな……。しかし、そもそもどうやれば竜王になれるんじゃろうか? その辺をよく分かっておらんな……我ながら勢い任せじゃな……)
「ふっ……」
「なにを一人で笑っているの?」
「うわっ⁉」
突然声をかけられ、竜子は驚く。
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