【第1章完】セブンでイレブン‼~現代に転移した魔王、サッカーで世界制覇を目指す~

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
47 / 50
第1章

第12話(2)勇者対魔王

しおりを挟む
「やったあ! 同点よ!」

 ななみがフォーに抱き着く。

「見ていれば分かるわ……」

「やった、やった!」

 ななみがドンドンとフォーの肩を叩く。

「い、痛いわよ!」

「イエーイ!」

「う、うるさいわね! 耳元で大声出さないで!」

 フォーが自分の耳を指で塞ぐ。

「こういうときは素直に喜ばないと……」

 ななみは唇を尖らせる。

「アタシらはスタンドにいるサポーターじゃないのよ……」

「え?」

「え?じゃないわよ、こういうリードを追いついたときに限って、次の1点が向こうに……ぶふぉっ⁉」

 ななみがフォーの口を塞ぐ。

「フォーちゃん、それ以上はいけない……」

「ぶはっ! な、なによ⁉」

 フォーがななみの手を振り払う。ななみが声を抑えて告げる。

「この国には言霊信仰というのがあってね……」

「はあ? コトダマ?」

「そう、言葉には魂が宿るの」

「どういう信仰よ……」

 フォーが呆れる。

「バカにしたものじゃないわよ。そういうのは口にしちゃうと、実際に起こっちゃうものなのよ。だから……しー……」

 ななみが自らの口に人差し指をそっと添える。

「……じゃあ、この後はどうするの?」

「後は……ひたすら祈るだけ」

 ななみが両手を組んで目を閉じる。

「それこそバカでしょ! 競った展開の試合終盤、ひたすら祈ってるだけのベンチとか、選手側からしてみたら絶望でしかないわ!」

「じゃあ、なにをするの?」

 ななみが問う。

「戦況を見極めて采配を振るうに決まっているでしょ。それこそが監督の役割よ」

 フォーがピッチに視線を戻す。

「にゃあ!」

「しまった、ケットシーは囮か!」

 トッケに対して、ヒルダが激しいプレッシャーをかけたが、ボールは走り込んだルトのもとへと転がる。トッケが声を上げる。

「ルト! さっきの要領にゃあ!」

「ゴールへのパスっすね! 分かってるっす!」

 ルトがキックの体勢に入る。

「……同じ手は何度も食らわない……」

 レイナが右手を掲げようとする。

「もらったっす! うおっ⁉」

「!」

 ルトがローのタックルを食らって、吹っ飛ばされる。ローがレイナに告げる。

「レイナ、今さらだが、魔力は温存していてくれ……」

「……分かった」

 レイナは右手をゆっくりと下ろす。ローは髪を優雅にかき上げながら呟く。

「さあ、反撃開始と行こう……かっ⁉」

 リンが後方から、ローの股間を蹴る。

「カッコつけている場合か……同点に追いつかれてしまったのだぞ」

「い、いや、股間はマズいって……」

 ローが股間を抑えて前かがみになる。

「軽く蹴っただけだ」

「味方同士でもファールを取られる可能性があるんだよ⁉」

「……ボールを間違えました」

 リンが審判に申告する。

「……」

「そ、そんな、言い訳が……」

「ノーファール!」

「通るの⁉」

 審判の判定にローが驚く。リンが呟く。

「そんなことはどうでもいい……」

「どうでもよくない!」

「後半、ここまで貴様はほぼ沈黙していたわけだが……」

「……ここで1点取ってくるよ」

「信じていいんだな?」

「僕を誰だと思っているんだい? 勇者だよ?」

 ローが両手を広げ、胸を張る。

「えっと……」

「何をボーっとしているの! ボールを取りに行きなさい! その位置で奪ったら、一気に大チャンスよ!」

「お、おおっ!」

 フォーの指示を受け、トッケとルトとゴブがボールを奪いにいく。

「ふっ……」

「「「⁉」」」

 ローが素早く細かいステップワークでトッケたちをまとめてかわす。

「ぜ、前半よりもキレがいい⁉」

 ななみが驚く。

「行くぞ!」

 ローがドリブルを開始する。ななみがさらに驚く。

「味方ゴール前からドリブル⁉」

「スラ! 無理に行かなくていいわ! 攻撃を遅らせて!」

 フォーが指示をする。

「わ、分かったラ~!」

「ふん……」

「む、向かってきたラ~⁉」

「ドリブルが大きくなっている! スラちゃん、取れるよ!」

 ななみが声を上げる。

「も、もらったラ~!」

「……なんてね、ビアンカ!」

「なっ⁉」

「それっ!」

 ローが左サイドにボールを送る。その位置にいたビアンカがダイレクトでボールを斜め前に蹴る。そこに走り込んだローがボールをキープする。

「ナイスリターンだ!」

「当然でしょ! アンタの考えていることなんて手にとるように分かるっての!」

「ふっ!」

 一瞬だがビアンカとアイコンタクトをかわしたローが、笑みを浮かべながらハーフラインに近くへとさしかかる。

「く、くそっ! 女騎士となんとも親しげな関係を漂わせやがって! 許せん!」

 クーオが猛然とローにチャージをかける。フォーが声を上げる。

「バカ、クーオ! そこは無理するところじゃないわよ!」

「おっと!」

「むっ⁉」

 ローがボールを前方に大きく蹴り出す。パスとも思えない中途半端なキックである。ななみがホッと胸を撫で下ろす。

「焦ってくれたのかしら? ミスキックね……」

「ラド、走れ!」

「うん!」

 ローの指示を受け、ラドがボールに向かって走る。ななみが笑う。

「いや、女の子にあんなボールに追いつけっていうのは、さすがに無理でしょ……」

「違うわ! クーオ、戻りなさい!」

「ギャオオッ!」

 フォーが声を上げると同時にラドがドラゴンの姿になって、ピッチを飛ぶように走る。あっという間にボールへ追いつきそうになる。ななみがまたも驚く。

「ここでドラゴンに変化⁉ そういえばそれがあった!」

「うおおっ!」

 レムがゴール前から飛び出していた。ラドよりわずかに早くボールに触れそうになる。

「レム、ナイス判断よ! はっ⁉」

「なにっ⁉」

 バウンドしたボールが方向を変えて、右斜め後ろに――レムから見れば左斜め前に――転がっていく。フォーが舌打ちする。

「ちぃ! バックスピンをかけていたのね!」

「もらったよ……」

 走り込んだローがボールをがら空きのゴールに向けてシュートしようとする。

「……そうはさせん」

「‼」

 ローの前にレイブンが立ちはだかる。ローは慌ててシュートを止める。

「当てが外れたな……」

「読んでいたのか……意外と頭が回るようだね」

「どうする?」

 レイブンが両手を広げて問う。ローが答える。

「知れたこと、君をかわして、ゴールを決める! むっ⁉」

 動き出そうとしたローが再び止まる。レイブンが尋ねる。

「どうかしたか?」

「……これは驚いた。隙がないね……」

「当然だ、魔王だからな」

「ならば!」

 ローがシュート体勢に入る。

「強引だな! 嫌いではないが!」

 レイブンも足を振り上げ、ボールを蹴り出そうとする。

「うおおおっ!」

「ぬおおおっ!」

 お互いの足がボールに触れる。その瞬間凄まじい衝撃波が発生する。

「な、なんて衝撃なの!」

 ななみが風に対し、両手を挙げる。

「魔王と勇者の本気の激突よ! これくらいは当然だわ!」

 フォーが叫ぶ。

「ボ、ボールが保つのかしら⁉」

 ななみがもっともな疑問を口にする。

「うおおおおっ!」

「ぬおおおおっ!」

「うおおおおおっ!」

「な、なんだと⁉」

 レイブンが弾き飛ばされ、ボールはゴールネットに突き刺さる。越谷の勝ち越しである。

「ふっ……僕の勝ちのようだね、魔王……」

「お、おのれ……」

 レイブンがローの背中を睨みつける。現在、スコアは7対8。船橋はリードを許す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...