【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第3話(2)戯言では済まない

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「あのね……」

「え?」

「違いますよ」

「何がですか?」

「いや、何がってね……」

「ええ?」

 藤花がニヤニヤとする。

「とにかく違うのですよ」

「だから何がですか?」

 藤花が楽土に問う。

「いや、先ほどの……」

「先ほどの?」

「お蕎麦屋さんの……」

「お蕎麦屋さんの?」

「娘さんに対してですね……」

「娘さんに対して?」

「それがしが……」

「楽土さんが?」

「鼻の下を伸ばしていたことですよ」

「だらしなく伸ばしていたことですね」

「だらしなくってなんですか、だらしなくって」

「大体だらしないものでしょう、鼻の下を伸ばすときって」

「それはそうかもしれませんが……」

「そうですよ、どんな男前も色男も台無しになるものです」

「そうではなくてですね……」

 楽土が右手を左右に振る。

「そうではなくて?」

 藤花が首を傾げる。

「あれはあくまでそのように見えただけです」

「そのように見えただけ?」

「はい」

「いや~それはどうかな~」

 藤花が苦笑する。

「鼻の下を伸ばす機能は備わっていませんし……」

「そりゃあ備わっていないでしょ、何に使うんですか……」

 楽土のよく分からない言葉に藤花は戸惑う。

「まあ、要はそういうことです」

「どういうことですか」

「この話はもう良いでしょう」

「振ってきたのは楽土さんですよ」

「う……」

 楽土が苦い顔をする。

「でもあの娘さん、とっても可愛らしかったですよね?」

「ええ、それはまあ……」

 楽土が頷く。

「本当にもう、私の若いころそっくり!」

「……」

「………」

「…………」

「……笑うところですよ」

 藤花がジト目で楽土を見つめる。

「い、いや、笑えないですよ……」

「からくり戯言です」

「それもですか……」

「使っても良いですよ」

「どこで使うのですか……」

「こういう戯言の一つも言えなくては、女子にモテませんよ?」

「いいですよ、別に……」

「またまた強がりをおっしゃる……」

「いえ、強がりではなくてですね……」

 楽土が困り顔を浮かべる。

「女子に興味がないのですか?」

「そういうことはありませんが……」

「あるのではないですか」

「それよりも……」

「それよりも?」

「課せられた任務の方が優先です」

「堅いな~」

「そう言われても……」

「硬いのは色んな意味で結構なことですが、堅過ぎるのは頂けないですね」

「……………」

「……笑うところです」

「ええっ⁉ 今のもからくり戯言ですか?」

「そうです」

 驚く楽土に対し、藤花が頷く。

「い、いや~それがしにはからくり戯言は難しいですね……」

 楽土が腕を組んで首を捻る。

「最初から諦めてはいけないですよ。諦めたらそこで……きゃっ」

 藤花が体勢を崩す。鞠突きで遊んでいた小さい女の子が、ぶつかってきたからだ。

「あ、ご、ごめんなさい!」

 女の子が頭を下げる。藤花は笑顔で応える。

「大丈夫よ、気にしないでちょうだい」

「うん!」

 女の子が鞠を持ってその場を離れようとする。楽土が精一杯の軽口を叩く。

「と、藤花さんの小さい頃にそっくりですね、ははっ……」

「……待ちな」

「えっ⁉」

「⁉」

 藤花が女の子の腕をガシッと掴んで引っ張る。袖から巾着が落ちる。

「小さいのに手慣れているねえ……誰に仕込まれた?」

「ちっ!」

 女の子が巾着を離して、藤花の腕を振り払い、その場から走って逃げる。

「ス、スリだとは……」

「……誰がそっくりなのですか? 手癖の悪いところ?」

「い、いや……」

「戯言や冗談は時と場所を選んで下さい……」

「き、気を付けます……あ! 藤花さん、頭の花飾りが……」

 藤花が頭を抑える。二つある内の花飾りの一つが無くなっていた。

「やられた……下に注意を向けさせて、本命はこっちだったか……」

「お、追いかけないと!」

「良いですよ、別に……そんなに大したものでもないから……」

「で、でも……⁉」

「ひ、人攫いだ! おみっちゃんが攫われた!」

 声のした方を見ると、先ほどの蕎麦屋の娘が馬に乗った何者かに担がれて攫われていく。馬の進む先は小さい女の子が走り去った方向と一緒である。

「藤花さん!」

「見逃すわけにはいかなくなりましたねえ……」

 藤花が鋭い目つきになる。
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