【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第3話(4)お堂の戦い

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「……」

 藤花が男と向かい合う。

「……はっ!」

「むっ!」

 男が藤花に飛びかかる。苦無による攻撃だ。藤花は右手の爪でこれを受け止める。

「はっ! はっ! はっ!」

「うっ! くっ! むっ!」

 男が次々と繰り出す攻撃に藤花はなんとか対応する。男は笑う。

「はははっ!」

「なにがおかしい⁉」

「いやいや、防戦一方じゃないか!」

「出方を伺っているんだよ!」

「そのわりには、必死に凌いでいるようだが? もう少し楽しませてくれよ?」

「そんな義理はない!」

「それもそうか!」

「はあっ!」

「うおっと!」

 藤花が力を込めた反撃を放ち、それを男は片手を地面について、後ろに回転して避ける。

「むっ……」

「今のは危なかった……これくらいか……」

「ん……」

 男が藤花と少し距離を取る。

「こうした方がより確実だな……」

「ちっ……」

 藤花が小さく舌打ちする。

「ははっ、俺とお近づきになりたかったかい?」

「ふざけるなよ……」

「そう照れるなよ。ははっ、モテる男はつらいな……」

「はん……」

 藤花は男の言葉を鼻で笑う。

「なんだ?」

「本当にモテる男が、女を攫う必要があるかね?」

「ああん?」

「モテないだろう? そのボサボサっとした汚らしい髪に惹かれる女などいるわけがない」

 藤花が男の頭を指差す。男がムッとする。

「てめえ……!」

「ふん!」

「よっと!」

「!」

 藤花は驚く。髪をかき上げて放った針をことごとく落とされたからである。

「へえ、髪の毛の中に飛び出す針を仕込んでいるのか、こいつは厄介だな……」

「手裏剣か……」

 藤花は地面に落ちた武器を見て呟く。

「そうだ、飛び道具持ちはお前だけじゃねえさ」

「むう……」

「一枚記念に持っていくか?」

「いらん」

「あ、そう……」

「アンタ……忍びか……」

「ああ、そうだよ。元忍びな。抜け忍と言った方がいいかね?」

「忍びを辞めて、こんなところでごろつき束ねて、人攫いなどさせているのか……」

「それがどうした?」

「いや、日陰者が鼻つまみ者になったのかと思ってさ……」

 男の問いに藤花が笑みを浮かべる。

「……さっきからそうやって怒らせようとしているようだが、無駄だぜ?」

「む……」

「体は熱く、心は冷たく……戦いにおける鉄則だ」

 男は自らの側頭部を右手の指でとんとんと叩く。

「私は体も冷たいがな……」

「なに?」

「なんでもない」

 藤花が首を左右に振る。男が両手を広げる。

「俺が温めてやろうか?」

「やめろ、怖気が走る……!」

「遠慮すんなって」

「貴様……!」

「藤花さん!」

「‼」

 楽土が声をかける。男が楽土に視線をちらりと向ける。

「へえ、なんだ、男がいたのか……」

「ふう……」

 藤花が深呼吸をする。楽土が尋ねる。

「藤花さん?」

「ありがとう楽土さん、おかげで少し冷静になりました。さて……」

 藤花が楽土に対して微笑んだ後、男に視線を向ける。

「うん?」

「はあっ!」

「! 何⁉」

 藤花は男に飛びかかると見せかけてお堂に飛び込む。

「攫った娘さんは返してもらいますよ!」

「そ、そうはさせるか! くっ⁉」

 男が藤花を追いかけるが、外に比べれば狭いお堂に一瞬戸惑う。

「建物内での戦闘にはあまり慣れていないようですね!」

「今思い出すところだよ!」

「思い出したところで、もう遅い!」

「うん⁉」

 藤花が男の懐に入る。

「はあっ! せいっ! とうっ!」

「がおっ⁉ ぐおっ⁉ ごおっ⁉」

 藤花の繰り出した蹴りを男は食らい、膝をつく。藤花が体勢を直して告げる。

「体格の小さい私の方が、狭いところではより有利ですね……」

「ち、ちっくしょう……」

 男が唇を噛む。

「体を捻ってなんとか致命傷は避けたようですが……刺さったでしょう?」

 藤花が右足を上げる。つま先とかかとの刃が薄暗いお堂の中で光る。

「ああ、痛くて痛くてしょうがねえよ……」

「ならば次で楽にして差し上げます……」

「ふん!」

「! 待ちなさい!」

 男が逃げたので、藤花が追いかける。やや広い部屋に出る。男が笑う。

「へへっ、我が家の間取りはしっかりと頭に入っているぜ……」

「広いところに出ても、その傷では満足に動けないでしょう……」

「そうだな……!」

「はっ⁉」

 部屋の奥に視線を向けると、蕎麦屋の娘が柱に両手両足を縛られている。

「この娘を巻き添えにしてやる!」

「や、止めなさい! ぐっ⁉」

 男と娘の間に割って入った藤花の右肩に苦無が刺さる。男が首を傾げる。

「なんだ? 妙な感触……どおっ!」

 藤花に蹴り飛ばされ、男が後退する。藤花が肩を抑えて舌打ちする。

「ちっ……なんで背中を向けてしまったのかしら……」

「その娘を守りながらじゃあ、お前に勝ち目はねえ……つまらねえぜ……」

「では、つまるようにしてあげましょうか?」

「なに? てめえか……」

 男が振り返ると楽土が立っていた。楽土が淡々と呟きながら身構える。

「貴方はもはや度し難い方だ。情け容赦は無用ですね……」

「お前がやるってか? そんなデカい図体で……俺の速さについてこれるのかよ!」

「む⁉」

「楽土さん、下と見せかけて上です!」

「はあっ‼」

「どわっ⁉」

 楽土が盾で豪快に殴り飛ばし、男は天井にめり込む。藤花が唖然とする。

「な、なんという……」

「藤花さん、よく分かりましたね。お声がけが無かったら危なかったです」

「スリの手法を見れば、分かりますよ。ねえ?」

「⁉」

 藤花が視線を向けた先には女の子が立っていた。藤花が静かに歩み寄る。楽土が慌てる。

「と、藤花さん⁉ ⁉」

 藤花は女の子の頭を優しく撫でてやりながら呟く。

「花飾り、返してもらえる? お姉さんの大事なものなの……」

「う、うん……」

 女の子は震えながら花飾りを取り出し、藤花に渡す。藤花は優しく微笑む。

「ふふっ、ありがとう……もう悪い奴らはいないから町の人たちにお世話になりなさい。その器用さなら、なんでもこなせるはずですよ。楽土さん?」

「ええ、頼んでまわってみましょう。それでは戻りますか……」

 藤花たちが町に戻る。町の悩みの種であったごろつきどもを成敗してくれたこと、蕎麦屋の娘の口利きもあり、女の子の面倒をみてくれる所もすんなりと決まった。藤花は頭に付け直した花飾りを撫でながら呟く。

「一件……いや、二件落着ですね……」

「藤花さん、その花飾り、大事な物なのですね……」

「ええ、母から貰った物です。これのお陰で人間らしさをわずかながらに思い出せます……」

「へえ……」

「! しゃ、喋り過ぎました! 先を急ぎましょう!」

 藤花は顔を赤くしながら歩き出す。
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