上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第7話(2) やかましい来訪者

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「まあ、少し落ち着け」

 御剣は鼻息荒い勇次をなだめる。

「ご存知の様に見受けられます」

 勇次の隣に立つ三尋も御剣に問いかける。

「まあ、答えはすぐ分かる……」

「?」

 その時、隊長室に愛が駆け込んできた。

「た、隊長! 転移室の様子が!」

「本当にすぐだったな……まあいい、答えを教えてやろう」

 御剣はゆっくりと立ち上がって、隊長室を出て、スタスタと転移室へと向かう。勇次たちもそれに続いていく。

「⁉ こ、これは⁉」

 転移室に入った勇次たちは驚く。転移鏡が眩い赤い光に包まれているのである。

「こんな状態は初めてです……!」

 戸惑う愛に対して、御剣は冷静に説明する。

「霊力・妖力が極めて高い者が利用すると、こうなることがある。もっとも我々は一回きりの転移にも多少なりとも力を消費しているわけだから、いたずらに力を放出するような阿呆な真似はしないが」

「すると……?」

 首を傾げる愛の問いに御剣はにべも無く答える。

「阿呆のお出ましだ」

 赤い光が治まったかと思った次の瞬間、御剣と同じ妖絶講の隊服に身を包んだツインテールの少女がその姿を現した。意志の強そうな大きな眼と紅色の髪が印象的である。わりと小柄な体格であり、ロングスカートからのぞくブーツはかなりの厚底である。

「ほう、上杉山隊の諸君か、出迎えご苦労である!」

 まだまだ幼さが抜けていないような声色であるが、口調自体は慇懃無礼であり、なんとも言えないミスマッチ感を醸し出している。ツインテールの少女は御剣の姿を見つけると、その前に喜々として歩み寄り、張り合うように立つ。身長をはじめ、あらゆるサイズが御剣の方が一回り大きい。少女と見つめ合う御剣はウンザリしたように口を開く。

「……同じ管区内とはいえ、隊舎に来るというのなら、あらかじめの連絡くらい寄越せ……それが規則だ」

「久々の再会だというのに、固いことを言うでない! 我が宿敵!」

「転移鏡にも負荷がかかり過ぎると故障の原因になるのだ。貴様の様にこれ見よがしに強い霊力を発しながら移動する必要性は全くと言っていいほどない。それに何度も同じことを言うが貴様と宿敵になった覚えは無い」

「ふむ! そのつれない感じ、いつも通りじゃ! 変わらずにいてくれて嬉しいぞ!」

 ツインテールの少女の真っ直ぐな返答に、御剣はあからさまに閉口した。

「あの……?」

 口を開いた愛の姿を見ると、ツインテールの少女は不思議そうに御剣に尋ねる。

「よくよく見ると見かけない顔ばかりじゃが、三馬鹿はどうした?」

「馬鹿は余計だ……取り消せ」

 御剣がキッと睨み付ける。その鋭い眼光に少女はややたじろぐ。

「お、億千万トリオはどうした?」

「それぞれ出張中だ……」

「さっき自分も阿呆って言っていたのにな?」

「少し黙っていろ……」

 小声で囁く勇次を三尋が咎める。少女はそんな勇次を見て、したり顔で頷く。

「ああ、其方が噂の半妖君か?」

「噂のって……」

「名はなんと申す?」

「え……隊長、このお嬢ちゃんは誰なんです?」

「お、お嬢ちゃん⁉ 平の隊員が此方をつかまえてお嬢ちゃん扱いか⁉」

 少女が憤慨する様子を見て、噴き出した御剣が口元を抑えながら話す。

「ふふっ……まずは自分の名を名乗るのが礼儀だろう?」

「む……まあ、それもそうか。一度しか言わんからよく聞け。此方は妖絶講、北陸甲信越管区副管区長兼、武枝隊隊長の武枝御盾(たけえだみたて)である!」

 御盾と名乗った少女は右手を前に突き出し、比較的平坦な胸を張る。

「ええっ! 副管区長⁉」

「そうだ! 存分に敬え!」

「この管区の二番手の方⁉」

「隊長の次に偉い人⁉」

 愛と勇次の言葉に御盾が両手を頭上でブンブンと振る。

「ええい! 二番手とか次とか言うな! 二位じゃ駄目なんじゃ!」

「サ、サブリーダー!」

「ネ、ネクストなんちゃら!」

「横文字で言い換えるな! しかもなんちゃらってなんじゃ!」

「どうでも良い……貴様らも名乗れ」

「……黒駆三尋です。お見知り置きを」

「曲江愛です。よろしくお願いします」

「鬼ヶ島勇次です……どうも」

 三人が順に名乗り、御盾は頷く。

「忍者に巫女に半妖か! なかなかに個性的な面子を集めたな!」

「!」

「な、何故私たちのことまで……?」

「既に下調べ済みか……相変わらず猪口才な」

「猪口才とか言うな! 用意周到と言え!」

 御盾は御剣をビシっと指差す。御剣は腕を組んで尋ねる。

「それで?」

「ん?」

「まさか時候の挨拶に来たわけでもあるまい。さっさと本題に入れ。私も色々と忙しい」

「ふふっ、本日此方が参った理由は……これじゃ!」

 御盾が懐から一通の書状を取り出して、御剣の胸に向かって勢いよく叩き付ける。書状は御剣に当たって、パタッと床に落ちる。

「い、いや、そこは受け取れ! 床に落とすな!」

「今時書状とは……アナログな奴め」

 御剣が心底面倒そうに床の書状を拾う。

「スマホを満足に使えん奴に言われとうない!」

「通話は覚えたぞ」

「それくらいで威張るな! そもそもとして其方は何度聞いても番号もメアドも教えてくれんじゃろうが!」

「……なんで貴様に教えなくてはならんのだ」

「う、うるさい! 此方だって宿敵と電話で静かに熱く闘志を燃やしながら会話したり、鬼気迫るメール交換とかしてみたいんじゃ!」

「貴様にとっての“宿敵”の定義を知りたい……」

「教えてやろうか?」

「いや、それはいい。大体、隊舎に専用の連絡回線もあるだろう」

「や、やかましい! こういうものは雰囲気が何よりも大切なんじゃ! いいからさっさと書状を見んか!」

「やれやれ……?」

 御剣が渋々と書状の表を見ると、そこには大きく『果たし状』と書かれている。

「なんだ、これは?」

「果たし状じゃ!」

「それは見れば分かる……意味を聞いている」

「ふふふっ! よくぞ聞いてくれたな、上杉山御剣! この北陸甲信越管区の管区長の座を懸けて、其方の隊に対抗戦を申し込む!」

「「「ええっ‼」」」

 御盾の言葉に勇次たちは驚く。
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