上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第二章

第17話(3) 都市伝説カップリング

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「⁉」

 突如電車が激しく揺れたかと思うと、勇次たちは電車から半ば強引に放り出され、ホームに降り立つ。電車は走り出したかと思うとすぐに消えてしまう。風坂が呟く。

「消えた……」

「ここが『きさらぎ駅』ですか」

「い、いや、違うと思うぜ? さっき見た駅名は違うものだった」

 億葉の言葉を勇次が否定する。風坂が指し示す。

「駅名板があります。あらためて確認してみましょう」

「……汚れが大分ひどいが……やっぱり『もそちも』駅?って読めるぜ?」

「少なくともきさらぎ駅とは読めませんね」

 風坂が顎に手をやって呟く。勇次が尋ねる。

「そういう駅は実際にはありませんかね?」

「聞いたことがありません……む?」

 風坂が首を傾げる。

「ど、どうしました?」

「端末が使えなくなっています」

「え? ……本当だ、俺の端末も使えない。充電はばっちりしといたのに……」

「無人駅で周辺には目立つ建物も人の気配もしない……併せて情報機器の不調……駅名はともかくとして状況はきさらぎ駅に関する噂話に酷似していますね」

 風坂は冷静に周囲を見回して呟く。勇次が戸惑う。

「ほ、本当に異なる世界に来てしまったということですか?」

「その可能性が高そうですね」

「きさらぎ駅ではないのは?」

「……それについては赤目さんの見解を伺いましょう。貴女の指示通りにしてみたらこうなったわけですが……そもそも急な眠気に襲われたのも貴女の仕業ですね?」

 風坂の言葉に億葉は驚く。

「流石に鋭いですね……そうです、『一億個の発明! その222! 強烈催眠香!』を使いました。あの沿線の終電に乗って深い眠りに落ちるのが、きさらぎ駅へ繋がる条件だったので」

「なるほど……ですが、きさらぎ駅ではなさそうですね?」

「う~ん、ちょっとミスったかもしれません」

「ちょっとミスったって⁉」

 億葉の思わぬ発言に勇次が驚く。風坂はため息を一つついてから口を開く。

「一旦退却を提案します」

「退却? どうやってです?」

「我々妖絶講の隊員は鏡などがあれば移動は出来ます」

 風坂が鏡を取り出す。億葉が答える。

「その提案は申し訳ありませんが却下します」

「か、億葉……?」

「……理由をお聞きしましょう」

「時空の複雑なねじれが起こっていると推察します。下手に移動をしようとすると、そのねじれの深みにハマってしまう恐れがあります」

「なるほど……」

 風坂は億葉の説明に頷く。勇次が問う。

「じゃあどうする?」

「駅と周辺の調査をしてみましょう」

 億葉の提案通り、三人は調査を始める。

「……駅舎はやはり無人のようですね」

「駅の外には出られないぜ」

「そもそも周辺に建物が見えないですからね。ほぼ暗闇というのもありますが」

 億葉が苦笑する。風坂が再び提案する。

「駅の敷地内から出ると危険な気がします。例えば線路を辿ってみるというのは?」

「そうしてみましょう」

 億葉は風坂の提案を容れる。ホームに立って勇次が指をさしながら呟く。

「えっと……もと来た方向はこっちで……電車が走り去ったのはあっちだな」

「ここは素直に進行方向に向かってみましょうか」

「了解。風坂さんもそれで構いませんか?」

「……ええ」

 風坂は勇次の問いに頷く。三人はホームから線路に下りて歩き始める。

「線路を歩くのはなんだか悪いことをしている気分だな」

 勇次が冗談めかして笑う。風坂が淡々と呟く。

「緊急事態なのですからやむを得ません」

「後ろから電車が来たらどうしましょうか?」

「噂話でも別の電車が通過することはほぼないそうですから、あまり気にしなくても良いのではないでしょうか」

「そうですか……うん?」

「トンネルですね……」

「どうする億葉?」

「……先が見えません。ここは駅まで引き返すべきだと思います」

「おい、お前らなんでここにいるんだ!」

「「「⁉」」」

 トンネルの脇から作業着を着た小柄な中年男性が怒鳴りながら姿を現す。

「だ、誰だ⁉」

「そういうお前らこそ誰だ!」

「い、いや、俺たちは妖絶……」

「旦那さま」

「な、なんだよ?」

 億葉が勇次に小声で囁く。

「いたずらに身分を明らかにするべきではありません」

「そ、それもそうだな……」

「お前らなんなんだ⁉ どうしてここにいる⁉」

 中年男性はなおも怒鳴り続ける。勇次は困惑する。

「ど、どうしてって言われても……」

「赤目さん……」

「ええ……」

 風坂と億葉が小声で目配せする。風坂が微笑を浮かべ、男性に話しかける。

「失礼しました。どうやら迷い込んでしまったようです」

「迷った?」

「ええ、それで出口を探しているのですが……」

「仕方ねえなあ、ついてこい」

 男性はホームの方に向かって歩き出す。勇次が小声で驚く。

「出口を知っているのか? 何者だ?」

「恐らくですが……『時空のおっさん』でしょう」

「時空のおっさん?」

 億葉の言葉に勇次は首を傾げる。億葉は説明を続ける。

「これもネット上の都市伝説のようなものですが……簡単に言えば、『時空の管理者』です」

「時空の管理者? あんなおっさんが?」

「人は見かけによりません」

「時空のおっさんとの遭遇談には色々なパターンがあって、追いかけられたり、何らかの危険が及ぶこともあるそうです。出口に案内してくれるというからラッキーですね」

 風坂が微笑を浮かべながら話す。億葉が顎に手をやって呟く。

「『きさらぎ駅』×『時空のおっさん』とは珍しいカップリングに遭遇したものです……ん?」

 ホームに黒い人影が三つほど並んでいる。

「……侵入者発見。直ちに排除する!」

 黒い影たちが勇次たちに襲い掛かってくる。

「⁉ なんだ! おい、おっさん! アンタの仲間じゃないのか⁉」

「し、知らねえ! というかここはどこだ⁉」

「「「⁉」」」

 時空のおっさんの意外な発言に勇次たちは驚く。
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