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第二章
第18話(1) 両隊の繋ぎ役
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伍
「……以上をもって、『時空のおっさん』に関しては慎重に調査を進めるべきかと……」
隊舎の隊長室で勇次が御剣に報告する。御剣は報告書に目を通しながら口を開く。
「ふむ、『時空のおっさん協同組合』か……組織の規模の大小が今一つ分からんが……一管区レベルで勝手に話を進めては色々とまずかろう、この件は上にあげておくとしよう。念の為だが、個人的なコンタクトは避けるように」
「それはもちろん承知しています」
「ならば良い……その青あざはどうした?」
御剣は勇次の顔を指差す。勇次は顔に触れながら呟く。
「億葉の発明の実験台になったようなものです……」
「億葉の? 流石にそれはやりすぎではないのか?」
「俺の不注意のようなものです。億葉のことは責めないであげて下さい」
「そういえば……武枝隊の風坂からこんなものが送られてきたのだが……」
御剣は小包を机の上に置く。勇次が尋ねる。
「これは……?」
「香水セットのようだな、貴様宛だ」
「俺宛?」
「そうだ……これがその実験とやらの要因ではないのか?」
「ど、どうなんですかね?」
勇次が苦笑しながら首を傾げる。御剣はため息をつく。
「両隊の交流が進むのは望ましいことではあるのだがな……まあ、それはいいとして……連日の任務ご苦労だったな、大変だっただろう?」
「いえ、色々と勉強になりました。『ターボばあちゃん』、『学校の怪談』、『きさらぎ駅』など、こうした都市伝説めいた事象も妖絶講の調査対象になるんですね」
「不思議なことには狭世が絡んでいることが多い。つまり幽世に繋がる可能性があるということだ――例外もあるが――色々と紐解いてみれば妖が絡んでいる場合もまったくない話ではない。こっくりさんとも戦っただろう?」
「そういえばありましたね」
「あのように我々妖絶講がこうして動く必要が出てくる」
「なるほど……」
「“陰に陽に”ならぬ“陰に陰に”奔走する必要があるのさ」
「……今更ながら責任の重大さを感じています」
背筋を正す勇次を見て御剣は笑みをこぼす。
「まあ、そう気を張り過ぎるな……今日から三日間ほど休みを与える。しばらく現世で英気を養え。下がっていいぞ。ああ、この小包も忘れるな」
「はい。失礼いたします!」
勇次は敬礼をして小包を持って退室する。その後、御剣は腕を組んで呟く。
「短期間に連続した任務を与えるのはどうかと思ったが……より隊員らしくなってくれたかな……ん? 通信……あいつか、出たくないが致し方あるまい」
御剣は机の上の端末を操作する。元気の良い声が画面の向こうから聞こえてくる。
「久方ぶりであるな! 宿敵!」
「先週もこうして画面越しに話しただろう……大体宿敵でもない」
武枝御盾の呼びかけに御剣はうんざりとした口調で返す。
「そうつれないことを言うな!」
「……用件はなんだ?」
「その前に、此方の隊と其方の隊の共同任務、順調にこなせているようだな?」
「そうだな」
「初めのことはどうなるかと思ったが……なにしろ其方の隊の隊員は誰かさんに似て協調性にかけるきらいがあるからな」
「失礼なことを言うな……精々数人くらいだろう」
「数人いる時点で問題じゃ」
「まあ、樫崎千景はそちらの副隊長殿から大いに学んだようだ」
「うむ、火場桜春の冷静さと力強さには此方もいつも助けられておるからな」
「貫禄もあるしな、隊長を代わっても良いのではないか?」
「な、何を言っておる!」
「冗談だ」
「ふん……林根笑冬が苦竹万夜を誉めておったぞ。指導力と対応力の高さをな」
「……林根の戦闘力や分析力の高さは認めるが、お嬢様学校の潜入捜査に彼女は適当ではないだろう。苦竹がぼやいていたぞ」
御剣がため息交じりに頬杖を突く。御盾が笑う。
「あやつは様々な事情により、学校生活が送れなかったのだ。疑似的とはいえど体験させてやりたいという気持ち、其方も理解出来よう?」
「分からんでもないが……逆に風坂明秋にはこちらの赤目億葉が色々と気苦労をかけたようだな。よろしく言っておいてくれ」
「それなりに見識が広がったようだぞ」
「前向きに捉えてくれているのなら結構だ」
御剣が笑みを浮かべる。御盾が渋い表情になる。
「しかしだな……」
「うん?」
「そちらの半妖君じゃ、何故に全ての任務に同行させた?」
「なにか問題が?」
「大ありじゃ!」
御盾が声を上げる。御剣が首を傾げる。
「? 話がよく見えないな」
「分かっておるくせに! あの半妖君……」
「半妖君ではない、鬼ヶ島勇次だ」
御剣が低く鋭い声を発する。御盾が訂正する。
「そ、その鬼ヶ島め、大層な女たらしではないか!」
「そうか?」
「そうじゃ! 三人とも、ほとんど鬼ヶ島の話しかしなくなってしまったぞ!」
「……なんだと思ったらそんなことか」
「そんなこととはなんじゃ! 訓練などでも集中力に欠けているときがある! これは由々しき問題じゃ!」
御盾の言葉に御剣はため息交じりで答える。
「そちらの隊員たちのチョロさにまで責任は持てん」
「チョ、チョロいとはなんじゃ!」
「そのままの意味だ。まあ、考え方を変えてみたらどうだ?」
「考え方?」
「鬼ヶ島一人の存在で両隊の交流がより深まるということは喜ばしいことだ。今後の共同任務の連携もよりスムーズなものになる」
「ま、まあ、そういう考え方も出来るが……」
「武枝隊長殿もご興味があるのなら、任務に帯同させてもらっても構わんぞ?」
「な、何を言う⁉」
「ふっ、冗談のつもりだったが、案外まんざらでもなさそうだな」
御盾の反応に御剣は笑みをこぼす。御盾は手を左右に大きく振る。
「こ、此方は結構!」
「隊員の気持ちを理解するのも隊長の務めだと思うが」
「結構だと言っている!」
「……まあいい、そろそろ本題に入れ」
御剣が真剣な顔つきになる。
「まったく……新たな共同任務のことじゃ」
「またか」
「今回は少し特殊でな。人選について相談したい」
「ふむ……」
「それともう一つ。これはあくまでも噂の域を出てない話じゃが、管区長殿の耳に入れておきたい話がある」
「……それも一応聞いておこうか」
御剣は机の上で手を組む。
「……以上をもって、『時空のおっさん』に関しては慎重に調査を進めるべきかと……」
隊舎の隊長室で勇次が御剣に報告する。御剣は報告書に目を通しながら口を開く。
「ふむ、『時空のおっさん協同組合』か……組織の規模の大小が今一つ分からんが……一管区レベルで勝手に話を進めては色々とまずかろう、この件は上にあげておくとしよう。念の為だが、個人的なコンタクトは避けるように」
「それはもちろん承知しています」
「ならば良い……その青あざはどうした?」
御剣は勇次の顔を指差す。勇次は顔に触れながら呟く。
「億葉の発明の実験台になったようなものです……」
「億葉の? 流石にそれはやりすぎではないのか?」
「俺の不注意のようなものです。億葉のことは責めないであげて下さい」
「そういえば……武枝隊の風坂からこんなものが送られてきたのだが……」
御剣は小包を机の上に置く。勇次が尋ねる。
「これは……?」
「香水セットのようだな、貴様宛だ」
「俺宛?」
「そうだ……これがその実験とやらの要因ではないのか?」
「ど、どうなんですかね?」
勇次が苦笑しながら首を傾げる。御剣はため息をつく。
「両隊の交流が進むのは望ましいことではあるのだがな……まあ、それはいいとして……連日の任務ご苦労だったな、大変だっただろう?」
「いえ、色々と勉強になりました。『ターボばあちゃん』、『学校の怪談』、『きさらぎ駅』など、こうした都市伝説めいた事象も妖絶講の調査対象になるんですね」
「不思議なことには狭世が絡んでいることが多い。つまり幽世に繋がる可能性があるということだ――例外もあるが――色々と紐解いてみれば妖が絡んでいる場合もまったくない話ではない。こっくりさんとも戦っただろう?」
「そういえばありましたね」
「あのように我々妖絶講がこうして動く必要が出てくる」
「なるほど……」
「“陰に陽に”ならぬ“陰に陰に”奔走する必要があるのさ」
「……今更ながら責任の重大さを感じています」
背筋を正す勇次を見て御剣は笑みをこぼす。
「まあ、そう気を張り過ぎるな……今日から三日間ほど休みを与える。しばらく現世で英気を養え。下がっていいぞ。ああ、この小包も忘れるな」
「はい。失礼いたします!」
勇次は敬礼をして小包を持って退室する。その後、御剣は腕を組んで呟く。
「短期間に連続した任務を与えるのはどうかと思ったが……より隊員らしくなってくれたかな……ん? 通信……あいつか、出たくないが致し方あるまい」
御剣は机の上の端末を操作する。元気の良い声が画面の向こうから聞こえてくる。
「久方ぶりであるな! 宿敵!」
「先週もこうして画面越しに話しただろう……大体宿敵でもない」
武枝御盾の呼びかけに御剣はうんざりとした口調で返す。
「そうつれないことを言うな!」
「……用件はなんだ?」
「その前に、此方の隊と其方の隊の共同任務、順調にこなせているようだな?」
「そうだな」
「初めのことはどうなるかと思ったが……なにしろ其方の隊の隊員は誰かさんに似て協調性にかけるきらいがあるからな」
「失礼なことを言うな……精々数人くらいだろう」
「数人いる時点で問題じゃ」
「まあ、樫崎千景はそちらの副隊長殿から大いに学んだようだ」
「うむ、火場桜春の冷静さと力強さには此方もいつも助けられておるからな」
「貫禄もあるしな、隊長を代わっても良いのではないか?」
「な、何を言っておる!」
「冗談だ」
「ふん……林根笑冬が苦竹万夜を誉めておったぞ。指導力と対応力の高さをな」
「……林根の戦闘力や分析力の高さは認めるが、お嬢様学校の潜入捜査に彼女は適当ではないだろう。苦竹がぼやいていたぞ」
御剣がため息交じりに頬杖を突く。御盾が笑う。
「あやつは様々な事情により、学校生活が送れなかったのだ。疑似的とはいえど体験させてやりたいという気持ち、其方も理解出来よう?」
「分からんでもないが……逆に風坂明秋にはこちらの赤目億葉が色々と気苦労をかけたようだな。よろしく言っておいてくれ」
「それなりに見識が広がったようだぞ」
「前向きに捉えてくれているのなら結構だ」
御剣が笑みを浮かべる。御盾が渋い表情になる。
「しかしだな……」
「うん?」
「そちらの半妖君じゃ、何故に全ての任務に同行させた?」
「なにか問題が?」
「大ありじゃ!」
御盾が声を上げる。御剣が首を傾げる。
「? 話がよく見えないな」
「分かっておるくせに! あの半妖君……」
「半妖君ではない、鬼ヶ島勇次だ」
御剣が低く鋭い声を発する。御盾が訂正する。
「そ、その鬼ヶ島め、大層な女たらしではないか!」
「そうか?」
「そうじゃ! 三人とも、ほとんど鬼ヶ島の話しかしなくなってしまったぞ!」
「……なんだと思ったらそんなことか」
「そんなこととはなんじゃ! 訓練などでも集中力に欠けているときがある! これは由々しき問題じゃ!」
御盾の言葉に御剣はため息交じりで答える。
「そちらの隊員たちのチョロさにまで責任は持てん」
「チョ、チョロいとはなんじゃ!」
「そのままの意味だ。まあ、考え方を変えてみたらどうだ?」
「考え方?」
「鬼ヶ島一人の存在で両隊の交流がより深まるということは喜ばしいことだ。今後の共同任務の連携もよりスムーズなものになる」
「ま、まあ、そういう考え方も出来るが……」
「武枝隊長殿もご興味があるのなら、任務に帯同させてもらっても構わんぞ?」
「な、何を言う⁉」
「ふっ、冗談のつもりだったが、案外まんざらでもなさそうだな」
御盾の反応に御剣は笑みをこぼす。御盾は手を左右に大きく振る。
「こ、此方は結構!」
「隊員の気持ちを理解するのも隊長の務めだと思うが」
「結構だと言っている!」
「……まあいい、そろそろ本題に入れ」
御剣が真剣な顔つきになる。
「まったく……新たな共同任務のことじゃ」
「またか」
「今回は少し特殊でな。人選について相談したい」
「ふむ……」
「それともう一つ。これはあくまでも噂の域を出てない話じゃが、管区長殿の耳に入れておきたい話がある」
「……それも一応聞いておこうか」
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