72 / 123
第二章
第18話(2) 自宅にて
しおりを挟む
「今更と言えば今更な話だが……不思議だな」
自室のベッドに寝転んでぼうっとしていた勇次が天井を見て呟く。
「何が?」
「妖絶講に入ってから数ヶ月……何日も家を空けていることもしゅっちゅうなのに、家族が誰も俺のことを心配していない……」
「ああ、なんだ、そういうことね」
「って⁉ 愛! お前いつの間に⁉」
勇次はベッドから体を起こし、ちょこんと座っている愛を見る。
「ちゃんとノックしたわよ。返事もしたじゃない。ぼうっとしている方が悪いんでしょ」
「いや、だからと言ってだな……」
「見られて困るものでもあるの? ⁉」
愛が悪戯っぽく笑いながら部屋を見回し、空いていたクローゼットの一点を見て固まる。
「どうした?」
「あ、あれは……?」
愛が指差した先には林根から送られた女物の洋服がある。
「え、えっと、なんと言えばいいのかな、ある人に貰ったんだ」
「貰った⁉」
「ああ、俺に似合いそうだからって……」
「そ、そう……」
愛が目を伏せる。勇次が首を傾げる。
「あれ、いつものように『破廉恥よ!』とか言わないんだな?」
「だ、だって、そういう時代ですもの」
「え?」
「人の趣味はそれぞれだからね。理解するわ」
「ちょっと待て、お前は誤解している」
「こ、この話は良いでしょう? それよりもさっきの勇次君の疑問だけど……」
愛は分かりやすく話を逸らす。
「あ、ああ……」
「妖絶講に入隊していることは基本的には身内にも内緒するものなの」
「そうなのか?」
「隊長や私みたいな家柄の者はまた別だけど、勇次君のような一般のご家庭出身の隊員の場合はどこから妖絶講のことが漏れるか分からないからね」
「確かに家族には伝えてはいないが……何も聞かれないのも妙な話じゃないか?」
「それは特別な術を持った方々が動いているのよ」
「特別な術?」
「簡単に言えば催眠術のようなものね」
「催眠術⁉ ひょっとして……」
「そう、ご家族の記憶を操作・改変させてもらっているの」
「い、いつの間にそんなことを……」
勇次は言葉を失う。愛は補足する。
「もちろん、普段の生活には支障が出ない程度の催眠よ」
「例えば俺から伝えたらどうなんだ?」
「大体は笑い話で片づけられると思うわ。出来れば試さないで欲しいけど」
「ふむ……ただ、俺でも都市伝説的な意味合いではあるが存在は知っていたぜ? 100%信じていたわけじゃねえけど」
「術も完璧ってわけじゃないし……完全に秘匿するのは今のご時世なかなか難しいわね」
「ふ~ん、そういうことか」
「納得出来た?」
「まあ、なんとなくはな」
愛の問いに勇次は頷く。
「それは良かった」
「しかし、学校が休校とはな……体を休められるからいいが、流石に三日も続くと暇だな」
「それなら……」
「ん?」
「どこかにお出かけしない?」
「なんで?」
「な、なんでって、前はよく一緒にお出かけしたじゃない」
「ああ、ガキの頃な」
「確かに中学校に入ってからは勇次君は部活もあったし、そういう機会もなくなったけど……久しぶりにどう?」
「そうだな、そこの公園にでも行くか」
「い、いや、公園じゃなくて!」
「駄菓子屋の方が良いか? あの店まだやっているかな……」
「駄菓子屋でもなくて!」
「うん?」
勇次は首を捻る。愛は若干苛立ち気味に話す。
「こ、高校生なんだから! 長岡駅前でショッピングとかどう?」
「別に欲しいもんねえからなあ……」
「私の買い物に付き合うって発想はないわけ⁉」
「そ、そんなに怒るなよ」
「そりゃあ怒るわよ……」
愛はため息をつく。勇次は手を合わせる。
「悪かった。じゃあ今から行こうぜ。暇で暇でしょうがないし」
「最後の一言が余計だけど……それじゃあ出かけましょうか」
「お休みのところ大変申し訳にゃいのにゃが……」
「きゃっ⁉」
又左が急に声をかけてきたため、愛と勇次は驚く。
「ま、又左⁉ どうしたんだ⁉」
「まさか……」
愛は嫌そうな顔を又左に向ける。
「そのまさかにゃ。緊急任務を二人にお願いしたいにゃ」
「はあ……」
愛は露骨にため息をつく。
「重ね重ね申し訳にゃい……」
「他の隊員の方では駄目なの?」
「今動けるのは二人だけにゃ」
「そう……」
「厳密に言うと、御剣の指名でもあるのにゃが……」
「隊長の指名? 俺たちをか?」
「そうにゃ」
勇次の問いに又左が頷く。愛は頭を掻きながら立ち上がる。
「それなら尚更仕方ないわね……で? どこに行けば良いの?」
「今はにゃしていたように、にゃがおか駅前に向かってもらいたいにゃ」
「え? 長岡駅前で妖が発生しているのか?」
「いや、まだ発生していないにゃ」
「まだ?」
「これから発生する可能性が高いってことね?」
「そういうことにゃ。妖の行動パターン、出現分布などを分析する限り、にゃがおか駅前に現れる可能性が高そうにゃ……」
「そうか、分かったぜ」
「一旦お家に帰って隊服に着替えてくるわね」
「いや、戦闘準備はともかく……私服のままで構わないにゃ」
「え?」
「どういうことだよ?」
「これは一種の囮捜査のようなものと考えてもらいたいにゃ。駅前の適当な店で合コンをしてもらうにゃ」
「「はあっ⁉」」
又左の言葉に勇次と愛は揃って驚く。
自室のベッドに寝転んでぼうっとしていた勇次が天井を見て呟く。
「何が?」
「妖絶講に入ってから数ヶ月……何日も家を空けていることもしゅっちゅうなのに、家族が誰も俺のことを心配していない……」
「ああ、なんだ、そういうことね」
「って⁉ 愛! お前いつの間に⁉」
勇次はベッドから体を起こし、ちょこんと座っている愛を見る。
「ちゃんとノックしたわよ。返事もしたじゃない。ぼうっとしている方が悪いんでしょ」
「いや、だからと言ってだな……」
「見られて困るものでもあるの? ⁉」
愛が悪戯っぽく笑いながら部屋を見回し、空いていたクローゼットの一点を見て固まる。
「どうした?」
「あ、あれは……?」
愛が指差した先には林根から送られた女物の洋服がある。
「え、えっと、なんと言えばいいのかな、ある人に貰ったんだ」
「貰った⁉」
「ああ、俺に似合いそうだからって……」
「そ、そう……」
愛が目を伏せる。勇次が首を傾げる。
「あれ、いつものように『破廉恥よ!』とか言わないんだな?」
「だ、だって、そういう時代ですもの」
「え?」
「人の趣味はそれぞれだからね。理解するわ」
「ちょっと待て、お前は誤解している」
「こ、この話は良いでしょう? それよりもさっきの勇次君の疑問だけど……」
愛は分かりやすく話を逸らす。
「あ、ああ……」
「妖絶講に入隊していることは基本的には身内にも内緒するものなの」
「そうなのか?」
「隊長や私みたいな家柄の者はまた別だけど、勇次君のような一般のご家庭出身の隊員の場合はどこから妖絶講のことが漏れるか分からないからね」
「確かに家族には伝えてはいないが……何も聞かれないのも妙な話じゃないか?」
「それは特別な術を持った方々が動いているのよ」
「特別な術?」
「簡単に言えば催眠術のようなものね」
「催眠術⁉ ひょっとして……」
「そう、ご家族の記憶を操作・改変させてもらっているの」
「い、いつの間にそんなことを……」
勇次は言葉を失う。愛は補足する。
「もちろん、普段の生活には支障が出ない程度の催眠よ」
「例えば俺から伝えたらどうなんだ?」
「大体は笑い話で片づけられると思うわ。出来れば試さないで欲しいけど」
「ふむ……ただ、俺でも都市伝説的な意味合いではあるが存在は知っていたぜ? 100%信じていたわけじゃねえけど」
「術も完璧ってわけじゃないし……完全に秘匿するのは今のご時世なかなか難しいわね」
「ふ~ん、そういうことか」
「納得出来た?」
「まあ、なんとなくはな」
愛の問いに勇次は頷く。
「それは良かった」
「しかし、学校が休校とはな……体を休められるからいいが、流石に三日も続くと暇だな」
「それなら……」
「ん?」
「どこかにお出かけしない?」
「なんで?」
「な、なんでって、前はよく一緒にお出かけしたじゃない」
「ああ、ガキの頃な」
「確かに中学校に入ってからは勇次君は部活もあったし、そういう機会もなくなったけど……久しぶりにどう?」
「そうだな、そこの公園にでも行くか」
「い、いや、公園じゃなくて!」
「駄菓子屋の方が良いか? あの店まだやっているかな……」
「駄菓子屋でもなくて!」
「うん?」
勇次は首を捻る。愛は若干苛立ち気味に話す。
「こ、高校生なんだから! 長岡駅前でショッピングとかどう?」
「別に欲しいもんねえからなあ……」
「私の買い物に付き合うって発想はないわけ⁉」
「そ、そんなに怒るなよ」
「そりゃあ怒るわよ……」
愛はため息をつく。勇次は手を合わせる。
「悪かった。じゃあ今から行こうぜ。暇で暇でしょうがないし」
「最後の一言が余計だけど……それじゃあ出かけましょうか」
「お休みのところ大変申し訳にゃいのにゃが……」
「きゃっ⁉」
又左が急に声をかけてきたため、愛と勇次は驚く。
「ま、又左⁉ どうしたんだ⁉」
「まさか……」
愛は嫌そうな顔を又左に向ける。
「そのまさかにゃ。緊急任務を二人にお願いしたいにゃ」
「はあ……」
愛は露骨にため息をつく。
「重ね重ね申し訳にゃい……」
「他の隊員の方では駄目なの?」
「今動けるのは二人だけにゃ」
「そう……」
「厳密に言うと、御剣の指名でもあるのにゃが……」
「隊長の指名? 俺たちをか?」
「そうにゃ」
勇次の問いに又左が頷く。愛は頭を掻きながら立ち上がる。
「それなら尚更仕方ないわね……で? どこに行けば良いの?」
「今はにゃしていたように、にゃがおか駅前に向かってもらいたいにゃ」
「え? 長岡駅前で妖が発生しているのか?」
「いや、まだ発生していないにゃ」
「まだ?」
「これから発生する可能性が高いってことね?」
「そういうことにゃ。妖の行動パターン、出現分布などを分析する限り、にゃがおか駅前に現れる可能性が高そうにゃ……」
「そうか、分かったぜ」
「一旦お家に帰って隊服に着替えてくるわね」
「いや、戦闘準備はともかく……私服のままで構わないにゃ」
「え?」
「どういうことだよ?」
「これは一種の囮捜査のようなものと考えてもらいたいにゃ。駅前の適当な店で合コンをしてもらうにゃ」
「「はあっ⁉」」
又左の言葉に勇次と愛は揃って驚く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる