上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第二章

第20話(4) 猫の目を借りる

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「海だあ~!」

「あ~夏休み~であります!」

「うわあ~!」

 千景と億葉と哀が砂浜を元気よく走る。万夜が慌てて呼び止める。

「ちょ、ちょっと三人ともお待ちなさい! 海に入る前にはしっかり準備運動を!」

「真面目か!」

「いや、万夜殿の言う通りであります。万が一ということがありますから」

「はいはい、分かったよ……」

「しょうがないですね……」

「ふふっ、機嫌は取り戻してくれたかな?」

 準備運動を終え、海に入ってはしゃぎまわる億千万トリオと哀を笑顔で眺めながら、御剣はビーチチェアにゆったりと寝そべる。そこに愛が声をかける。

「隊長……」

「なんだ愛? 背中にオイルでも塗ってくれるのか?」

「なんでですか……いや、別に塗ってあげても良いですけど」

「そうか、それじゃあ頼む……」

 御剣がマッドに移り、うつ伏せになる。

「曲江さん。私が代わりにやりますよ」

「愁さん、大丈夫よ。それと私のことは愛で良いわ」

「そうですか。愛さんは遊ばなくて良いのですか?」

「ああ、後で入るわ……愁さんこそ皆と遊んできたら?」

「私も後で入ります。慌てなくても海は逃げませんから」

「それもそうね」

 愁の言葉に愛は笑う。御剣が尋ねる。

「愛、なにか聞きたいことがあったのではないか?」

「あ、ああ……愁さんたちの能力についてなのですが……」

「本人に説明してもらった方が良いな。愁?」

「私と哀は小さい頃から遊戯研究に勤しんできました」

「遊戯研究?」

「ええ、昔から『故きを温めて新しきを知る』という精神の下、楽しく活動して参りました」

「ひょっとして、ヨーヨーとけん玉を武器にしているのはその成果ということ?」

「まあ、大体そんなところです」

「……バズーカとマシンガンは?」

「妖を根絶するにあたって、ヨーヨーとけん玉ではどうしてもパワーやリーチが不足するという結論に至りました。そこで……」

「そこで?」

「二人ともFPSやTPS、バトルロイヤル系のゲームが好きでして……ご存知ですか?」

「ああ、なんとなくだけど……」

「その手のゲーム好きが高じて……ということです」

「い、いや、ちょっと待って! それであの銃火器類はどこから⁉」

「結構な課金の結果……とだけ申し上げておきます」

「こ、答えになってないんだけど……」

「愛、細かいことはいいじゃないか……」

 御剣が呟く。愛は困惑する。

「ぜ、全然細かくないと思いますが……」

「要は妖絶講にも色々とコネクションがあるということだ。オイルを塗り終えたか……ありがとう。二人とも海に入ってきたらどうだ。荷物は見ておく」

「それではお言葉に甘えて……」

「隊長、あの二人ですが……」

「私も鬼じゃない。後で時間をつくってやるさ」

 愛の問いに答えた御剣は再びチェアに寝そべる。愛が残念そうに呟く。

「……勇次君と来られると思って新しい水着にしたのにな……」

「はっくしょい!」

「なんだ勇次、風邪をひいたか?」

「いや、違うと思うが……」

 三尋の問いに勇次は首を振る。三尋がぼやく。

「しかし、模擬戦で不甲斐なかったとはいえ、隊舎の留守番と掃除とは……ついていない!」

「三尋、そんなに海に入りたかったのか?」

「海に入る、入らないはこの際大した問題ではない!」

「じゃ、じゃあなんだよ……」

「お前……見たくないのか? 我が隊の女子隊員の眩しい水着姿を……」

「! み、見たくないと言えば嘘になるな……」

「正直で結構。しかし、ドローンなどを飛ばしたら察知される! のぞき見などバレたらどうなるか! あ~それでもせめて雰囲気だけでも味わいたい!」

「……それなら一つ手がある。又左!」

「……呼んだかにゃ?」

「率直に頼む。今、海水浴中の女子たちがどんな水着を着ているか細かく実況してくれ」

「ス、ストレートに邪なお願いだにゃ……そういうわけにはいかないにゃ」

「高級マタタビをプレゼントしよう」

「……お安い御用だにゃ」

 又左は転移鏡のシステムを応用した映像を受信できる端末を器用に操る。勇次が問う。

「ど、どうだ?」

「ふむ……千景は黒のバンドゥビキニだにゃ。豊満なわがままボディが揺れているにゃ」

「おおっ!」

「お前どこから覚えたんだ、その語彙……」

 又左の説明に三尋が戸惑う。

「万夜は清楚な白のワンピースにゃ。すらりと伸びた白い脚が眩いにゃ」

「うおおっ!」

「流石はお嬢様だな。清楚というものが良くわかっている」

 三尋は深々と頷く。

「億葉は……スクール水着だにゃ……しかし、これはこれで体型によく似合っているにゃ」

「ぬおおっ!」

「海水浴場でスクール水着……ありといえばありだな!」

 三尋は右手の親指をグッと突き立てる。

「哀と愁は水色とオレンジのビキニにゃ。若い肢体と爽やかさが見事に共存しているにゃ」

「ふおおっ!」

「勇次、お前、さっきから叫んでばかりじゃないか……」

 勇次の様子に三尋が呆れる。又左が安心したように呟く。

「雨降って地固まるというか、二人とも本隊と仲良くなったようだにゃ。良かったにゃ」

「それはなによりだな」

「次は愛か……おおっ! 大胆で真っ赤な三角ビキニだにゃ!」

「そうか……」

「いや、反応薄いな!」

「やっぱり幼馴染をそういう目で見るのは良くないと思うぞ。見てないが」

「曲江さん……頑張っただろうに不憫だな……」

 勇次の言葉に三尋が頭を軽く抑える。

「続いて御剣だにゃ……」

「「待ってました!」」

「う~ん? !」

 又左がその場から慌てて走り去る。勇次が叫ぶ。

「おおい! 又左! 隊長の水着姿はどうなんだ⁉ 一番肝心な所だろう!」

「……何が肝心なんだ?」

「決まっているだろう! 隊長のあのスレンダーだが出る所はしっかり出ている所……⁉」

 勇次と三尋が振り返ると、その場には隊服に着替えた御剣が立っている。

「ある意味健全で嬉しいぞ……元気が有り余っているようだから、貴様らには隊舎を外周してもらうか。そうだな……ざっと千周ほど。又左は食事抜きだな」

「は、はい……」

 勇次と三尋はがっくりとうなだれるのであった。
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