上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第二章

第22話(4) 混戦の末に……

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「妖が多数……⁉」

「モニターに表示します」

 山吹が壁のモニターを起動させて、東京の地図を表示する。地図上の多くの地点で赤い丸が点滅している。光康が顎に手を当てる。

「まさか……」

「なにか気になることが?」

「妖の詳細は分かるかな?」

「お待ち下さい……ざっと確認出来た妖はこちらです……」

 妖の画像が何枚かモニターに表示される。その内の一枚を光康が指差す。

「これは……雅さん」

「先日第四管区で根絶した妖ね……」

「他にも見覚えのある、各管区で根絶報告を受けた妖ばかりだ。これはつまり……」

「つまり?」

「妖を甦らせることの出来る半妖……狂骨の仕業だろうね」

「恐らくその通りでしょうね」

 光康の言葉に雅は頷く。光康が顔をしかめる。

「まさかこんな大々的に東京管区にちょっかいをかけてくるとはね……山吹ちゃん!」

「既に当管区内の全ての隊に出動を命じております」

「さすがだね」

「ですが……」

「うん?」

「数が多すぎます。妖絶士の数が足りません……」

「ああ、それなら問題ないよ」

「え?」

 山吹が首を傾げる。光康が部屋を見回す。

「皆、東京出張でお疲れのところ申し訳ない、根絶に協力して欲しいのだけど良い?」

「もちろん、問題ないわよ。ねえ、皆?」

 雅の呼びかけに皆が頷く。光康が笑顔を浮かべる。

「ご協力に感謝するよ。じゃあ、山吹ちゃん……」

「はい、皆さんのお持ちの端末に出動して頂きたいポイントを送信しました。それぞれ確認後、即出動をお願い致します」

 山吹の言葉に皆が頷く。光康が右手を掲げる。

「今日、僕にあまり人望がないという悲しい事実が判明したけど……便宜上、指示を出させてもらうよ……妖絶講第一~第六管区、出動せよ!」

「了解!」

 光康の言葉に皆が頷き、部屋から順次飛び出していく。

 ある地点に辿り着いた貫太郎が気合を入れる。

「よっしゃ、さっさと片付けようか!」

「とはいえ、数が多い。貫太郎はあまり無理をするな、某が行こう」

「これくらい心配いらないって、再生怪人は弱いって相場が決まっているんだよ!」

「……どこの相場だ?」

 大五郎丸が首を捻る。また、ある地点では、晃穂が立ち止まり、神不知火に声をかける。

「神不知火副管区長、貴女にお任せしてもよろしいでしょうか?」

「……この程度の相手なら問題ありませんが、どうかしたのですか?」

「ちょっと大事な用事がありまして……すぐに戻ります」

「はあ……承知しました」

 神不知火が頷く。また、別の地点では、雅が笑顔を浮かべる。

「第四管区とはいえ、定期的に行ってきた東京防衛のリハーサルが役に立ちそうね」

「管区長、自分はこちらに向かいます」

「了解、気を付けてね、八狼ちゃん♪」

「管区長もお気を付けください。余計な心配かと思いますが……」

 里野と雅は分かれて妖根絶に当たる。また、他の地点では、摩央が指示を出す。

「お蘭、喜多川隊を連れてきていたでしょう? あの娘たちに任せましょう」

「……分かりました。姫様は?」

「わたくしは先に名古屋に帰らせてもらうわ」

「……よろしいのですか?」

「根絶後、隊舎に戻れとまでは指示をされてはいませんもの。後はうまく言っておいて頂戴」

「……かしこまりました」

 小森が頭を下げる。摩央は歩き出し、空を眺めながら呟く。

「上杉山御剣、必ずやわたくしの傘下に加えてみせるわ……」

「……くしゅん!」

 御剣がくしゃみをする。傍らに立つ御盾が戸惑う。

「な、なんじゃ、風邪か?」

「誰かが私の噂でもしているのだろう……」

「呑気なことじゃな。しかし、一度倒した妖とはいえ、ここら辺は結構数が多いぞ?」

「……早速実績を残してみろということなのかもしれんな」

「はっ、ご配慮頂いたということか」

 御盾が苦笑する。御剣が呟く。

「せっかくのご配慮だが、遠慮させてもらおう……」

「ん? どういう意味じゃ?」

「ここは貴様に任せるぞ」

「はっ⁉ なにをするつもりじゃ⁉」

「私と勇次はある所に向かう」

「ある所じゃと?」

「東京管区の様々な場所の妖出現は陽動に過ぎん……奴らの狙いは鬼ヶ島一美だ」

「!」

「というわけで、彼女がいる病院施設へ向かおうと思う」

「ちょ、ちょっと待て! 此方一人でこの数を相手せよというのか⁉」

「こうなることも想定して、呼んできてある……ちょうど来たようだな」

「⁉ そ、其方ら……」

 御盾が振り返ると、そこには上杉山隊と武枝隊の面々が立っていた。

「最近行ってきた両隊の共同任務のある意味集大成だ、指示などを頼む」

「い、いきなり言われてもだな……」

「これは貴様にしか頼めんことだ」

「! し、仕方がないのう! ちょっと待て……これで良し、此方にドンと任せておけ!」

「勇次、急ぐぞ」

「は、はい!」

 御剣と勇次が走り出す。病院施設を見下ろす高層ビルの屋上に、天狗と狂骨の姿がある。

「あそこにお目当ての女がいるんだな?」

「言い方に品がないね……眠れる美女をお迎えに上がるんだよ」

「はっ、何でもいい……さっさと行くぞ」

「ああ……⁉」

「おらあっ!」

「待て!」

「ぐっ!」

「むっ!」

 勇次と御剣が勢いよく飛びかかるが、天狗と狂骨はこれを防ぐ。狂骨が笑う。

「へえ、あの数の妖を根絶してくるとは……驚いたね」

「よりにもよって東日本の管区長が東京に勢揃いの日に襲撃とは……余計なお世話だが、少し無計画過ぎないか?」

「なに?」

 御剣の言葉に狂骨がやや驚いたような反応を示す。天狗が舌打ちする。

「ちっ、ひょっとして、ハメられたか?」

「その可能性は大きいね……」

「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」

 勇次が再び飛びかかってきたところを天狗が再び防ぐが、防ぎきれず後方に吹き飛ばされる。狂骨が声を上げる。

「烏丸君!」

「だからその名で呼ぶな……こいつ、この間よりも更に強くなっていやがる⁉」

「当たり前だ! 日々の厳しい鍛錬に加えて、さっき、武枝さんから『コブラ』をかましてもらったからな!」

「『鼓武』だ、間違えるとやかましいぞ……はあ!」

 勇次の言葉を訂正しながら、御剣が狂骨に斬りかかる。狂骨が呟く。

「武枝御盾の戦闘能力を向上させる術か……厄介だね。ここは退こうかな?」

「退却を許すと思うか?」

「くっ……」

「ピョーン‼」

「⁉」

 そこに燕尾服を着た、頭にウサギの耳を生やした男が飛び込んでくる。

「おおっ、適当に飛んでみたら妖力と霊力が高そうな連中が集まっているピョン!」

「な、なんだ⁉」

「僕と遊んで欲しいピョン!」

「ふざけるな!」

「ま、待て! 勇次!」

「ほいっと!」

「ぐおっ⁉」

 ウサギ耳の男が勇次の金棒をかわしつつ、強烈な蹴りを喰らわす。

「もう一丁!」

「⁉ こっちに来た⁉」

「それっ!」

「どあっ⁉」

 ウサギ耳はあっという間に天狗の懐に入り、蹴りを放つ。

「どんどん行くピョン!」

「……あまり調子に乗らないでもらえるかな?」

「⁉ 骸骨のお兄さん、そういう能力の持ち主か……ここは撤退するピョン!」

 ウサギ耳の男が高く飛んで、屋上から姿を消す。御剣が忌々し気に呟く。

「くっ、こんな時に来るとは……はっ! しまった、狂骨たちを逃したか!」

「た、隊長……」

「勇次、動けるか? 病院は……大丈夫なようだな。姉君の病室に急ぐぞ!」

 御剣たちが病室に向かうと、そこには一美の姿は無かった。看護師が声をかけてくる。

「お見舞いの方ですか? 患者さん、山形のリハビリ施設に移送されましたよ」

「ええっ⁉」

「強引に事を進めたな、加茂上晃穂め……一体何を企んでいる?」

 御剣はもぬけの殻となった病室を見つめながら呟く。
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