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第三章
第27話(4) 姉上様と呼ばせて下さい
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「連日の出動、大変だな」
勇次の声に一美が首を傾げる。
「いや、昨日はむしろ勇次の方が大変だったんじゃないの?」
「まあな……」
「なかなかの歌声みたいね、苦竹さん。少し興味が湧いてきたわ」
勇次が片手を上げる。
「止めといた方が良いぜ」
「ええ?」
「中途半端な好奇心は身を滅ぼすことになる」
「ど、どれだけなのよ……」
「とにかく、万夜との任務には耳栓を常備していた方が良い」
「わ、分かったわ……」
「分かれば良い」
「でも、愛ちゃんの活躍ぶりには驚いたわ」
「霊力……愛の場合は神力っていうみたいだが、なかなかのものらしいからな」
「ああいう不思議な術は神主さんの血筋が成せる業なのかしら?」
「まあ、そういうことだろうな……」
「でも、回復要員まで担って大変そうよね」
「その辺の負担を少しでも減らさないといけない。その為には……」
「その為には?」
「俺たちがもっと強くならないとならない……!」
勇次が背中に背負った金棒を握る。一美が頷く。
「結局そこに行きつくのよね」
「そろそろ行こうぜ」
「ええ」
勇次が転移鏡に吸い込まれていき、一美もそれに続く。
「それ!」
「!」
ピンク髪の三つ編みで度の強そうな眼鏡を掛けた小柄なパンツスタイルの女の子が背中に背負った大きなリュックサックから何かを取り出して投げつける。
「『一億個の発明! その108! 煩悩退散爆弾!』」
爆弾は派手な爆発を起こし、彼女の周囲にいた妖たちは爆散する。
「シ、シンプルに爆弾……」
「姉ちゃん、そこは突っ込んだら負けだぜ」
「あ! 旦那さま!」
「よっ、援護に来たぜ……と言いたいが、大体片付いたか?」
「レーダーにはまだ反応があるわね……」
「そうか、警戒しないとな……」
一美の言葉に勇次が頷く。一美が女の子に声をかける。
「それにしてもさすがですね、上杉山隊の技術開発研究主任、赤目億葉(あかのめかずは)さん……」
「こ、これは姉上様! お疲れ様です!」
「あ、姉上様……?」
「ええ、旦那様のお姉さんでいらっしゃいますから……変ですか?」
「そ、その旦那様というのは?」
「夫婦なのですから、旦那様というのはおかしい話ではないかと……」
「め、夫婦……⁉」
「あ~! か、億葉、周辺は俺が見ておくから、姉ちゃんに色々説明してくれないか?」
「色々?」
「妖絶講の成り立ちとかさ……」
「別にここじゃなくても……それより気になるフレーズがポンポン飛び出したのだけど」
「いやあ、億葉は結構ハードスケジュールだからさ、時短の意味でも! ほら!」
「確かに拙者、この任務の後は会合がいくつか入っているでござる……」
「だろ? ちょちょっと頼むよ!」
「……なんか誤魔化そうとしていない?」
一美がジト目で勇次を見る。
「そもそも妖絶講とは……『悪しき妖を根絶し、人間社会の平穏を守る』、ということを基本的な行動理念に掲げており……」
「あ、説明されるんですね……」
「古来より人間にとって脅威だった妖を取り除く為に組織された集団です。成立は古代の終わり、つまり平安時代の頃だと言われています」
「平安時代ですか……」
「中世、鎌倉時代から戦国時代においては、全国各地でそれぞれの講が独自に活動していたそうです。近世、江戸時代辺りから、全国的に統一された組織になっていったようですね。それが近代を経て、現代に至ります。現代においては、紆余曲折あったようですが、全国を十二の管区に分けて管轄しており、この新潟県は北陸甲信越管区、通称第五管区に含まれています。我が上杉山隊は新潟県全域と長野県北部の担当ですね」
「なるほど……」
一美が感心したように呟く。億葉が問う。
「なにか気になることはありますか?」
「よく耳にする、『干支妖(えとのあやかし)』とは?」
「妖たちの中でも上位に位置する妖です。何故なのかは分かりませんが、十二支を模した姿の為、そのように呼ばれております。はっきりとは分かりませんが、妖絶講にとっては千年の長きに渡る敵ですね」
「え、せ、千年ですか⁉」
「高い妖力を持っている為、完全に祓うことが出来ていないのが実情です。過去の記録や伝承を調べてみても封じ込めることなどが精一杯なようで……極めて厄介な存在です」
「そんな厄介な連中とこれまでどうやって……」
「これは不幸中の幸いと言いますか、連中の活動時期は限定されています。高い妖力を維持する為なのかどうか、正確なことはよく分かっていませんが、一定期間出現した後、大体十数年間沈黙することが多いです。ただ、ここ最近……」
「その沈黙が破られた、と……」
一美の言葉に億葉が頷く。
「そうです。活動し始めたことが確認出来ました。大いに憂慮するべき事態ですね」
「管区長クラスでも苦戦するようですね……」
「あの方たちは十二分に超人的な存在ですが、連中相手には流石に手こずっていますね。更にマズいことに……」
「更に?」
首を傾げる一美に億葉が説明する。
「干支妖の覚醒時期にはこれまでややズレがありました。一体、あるいは数体の出現にはなんとか対処することが出来ました。それが最近は一気に二体同時に同じ箇所での出現……! この事実が意味することは!」
「……!」
息を呑む一美に億葉が続ける。
「孤高の存在とも言える干支妖が連携を取っているという最悪の事態が想定されます」
「!」
「これまでの歴史ではあまり見られなかったことです。イレギュラーな事態ですね」
億葉がずれた眼鏡をクイっと上げる。そこに妖レーダーが反応する。勇次が叫ぶ。
「来たか!」
妖が多数出現する。一美が驚く。
「まだこんなにいたなんて! さっきの倍はいるわ!」
「へっ! 所詮数だけだ! 大したことはねえ、俺が片付ける!」
「お待ち下さい! さすがにこの数を一気に相手にするには大変であります!」
「億葉! じゃあどうするんだ!」
「ここはお任せを!」
億葉はリュックサックをゴソゴソとする。勇次が訝しげな視線を向ける。
「い、嫌な予感がするんだが……」
「『一億個の発明! その432! 煩悩退散爆弾! 倍の倍!』」
億葉が両手に抱えきれないほどの爆弾を取り出し、投げようとする。勇次が叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待て!」
「えーい!」
「‼」
「……山形では色々とバタバタしてご挨拶が出来ませんでしたね」
「ええ……」
「改めまして、上杉山隊分隊分隊長の豊園寺愁(ほうえんじうれい)です」
「ちょっと待て、なんで愁が隊長なんだ?」
「それはいいから、貴女も挨拶なさいな」
「……豊園寺哀(ほうえんじかなし)です」
「鬼ヶ島一美です。新参者ですのでご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
モニターに向かって一美が頭を下げる。モニター越しにショートボブの白髪をアシンメトリーにまとめ、左目を隠すように前髪を垂らしている女の子がそれに応える。
「私たち姉妹もまだまだ若輩者です、ともに切磋琢磨して参りましょう」
「姉妹で分隊を任せられるとは、相当優秀なのですね」
「いえいえ、それほどのものではありません……」
愁が手を軽く左右に振る。
「まだお若いのにしっかりとされていますね、お姉さまは……」
「……姉はアタシなんですけど」
愁とは反対に右目を隠している黒髪の女の子、哀がやや憮然とした様子で答える。
「え⁉ そ、そうなんですか⁉ 失礼しました!」
「視聴者にもよく間違われるから良いですよ……」
「視聴者?」
一美が哀の言葉に首を傾げる。愁が口を開く。
「普段は暇で退屈……もとい、自己を見つめ直す時間が多いため、その時間を利用して、動画配信などを行っております」
「よ、妖絶士の方が動画配信を……って、後ろに見える金の盾は⁉」
「チャンネル登録者数百万人を突破した記念に頂きました」
「そ、そんなにご活躍されているのですね……」
「大したものではありません。それよりも……その髪型はどうされたのでしょうか?」
愁は画面越しに指差す。一美の髪がチリチリのアフロヘアーになっていたからである。
「……ちょっと爆発に巻き込まれただけです、大したことではありません……」
一美は真顔で淡々と答える。
勇次の声に一美が首を傾げる。
「いや、昨日はむしろ勇次の方が大変だったんじゃないの?」
「まあな……」
「なかなかの歌声みたいね、苦竹さん。少し興味が湧いてきたわ」
勇次が片手を上げる。
「止めといた方が良いぜ」
「ええ?」
「中途半端な好奇心は身を滅ぼすことになる」
「ど、どれだけなのよ……」
「とにかく、万夜との任務には耳栓を常備していた方が良い」
「わ、分かったわ……」
「分かれば良い」
「でも、愛ちゃんの活躍ぶりには驚いたわ」
「霊力……愛の場合は神力っていうみたいだが、なかなかのものらしいからな」
「ああいう不思議な術は神主さんの血筋が成せる業なのかしら?」
「まあ、そういうことだろうな……」
「でも、回復要員まで担って大変そうよね」
「その辺の負担を少しでも減らさないといけない。その為には……」
「その為には?」
「俺たちがもっと強くならないとならない……!」
勇次が背中に背負った金棒を握る。一美が頷く。
「結局そこに行きつくのよね」
「そろそろ行こうぜ」
「ええ」
勇次が転移鏡に吸い込まれていき、一美もそれに続く。
「それ!」
「!」
ピンク髪の三つ編みで度の強そうな眼鏡を掛けた小柄なパンツスタイルの女の子が背中に背負った大きなリュックサックから何かを取り出して投げつける。
「『一億個の発明! その108! 煩悩退散爆弾!』」
爆弾は派手な爆発を起こし、彼女の周囲にいた妖たちは爆散する。
「シ、シンプルに爆弾……」
「姉ちゃん、そこは突っ込んだら負けだぜ」
「あ! 旦那さま!」
「よっ、援護に来たぜ……と言いたいが、大体片付いたか?」
「レーダーにはまだ反応があるわね……」
「そうか、警戒しないとな……」
一美の言葉に勇次が頷く。一美が女の子に声をかける。
「それにしてもさすがですね、上杉山隊の技術開発研究主任、赤目億葉(あかのめかずは)さん……」
「こ、これは姉上様! お疲れ様です!」
「あ、姉上様……?」
「ええ、旦那様のお姉さんでいらっしゃいますから……変ですか?」
「そ、その旦那様というのは?」
「夫婦なのですから、旦那様というのはおかしい話ではないかと……」
「め、夫婦……⁉」
「あ~! か、億葉、周辺は俺が見ておくから、姉ちゃんに色々説明してくれないか?」
「色々?」
「妖絶講の成り立ちとかさ……」
「別にここじゃなくても……それより気になるフレーズがポンポン飛び出したのだけど」
「いやあ、億葉は結構ハードスケジュールだからさ、時短の意味でも! ほら!」
「確かに拙者、この任務の後は会合がいくつか入っているでござる……」
「だろ? ちょちょっと頼むよ!」
「……なんか誤魔化そうとしていない?」
一美がジト目で勇次を見る。
「そもそも妖絶講とは……『悪しき妖を根絶し、人間社会の平穏を守る』、ということを基本的な行動理念に掲げており……」
「あ、説明されるんですね……」
「古来より人間にとって脅威だった妖を取り除く為に組織された集団です。成立は古代の終わり、つまり平安時代の頃だと言われています」
「平安時代ですか……」
「中世、鎌倉時代から戦国時代においては、全国各地でそれぞれの講が独自に活動していたそうです。近世、江戸時代辺りから、全国的に統一された組織になっていったようですね。それが近代を経て、現代に至ります。現代においては、紆余曲折あったようですが、全国を十二の管区に分けて管轄しており、この新潟県は北陸甲信越管区、通称第五管区に含まれています。我が上杉山隊は新潟県全域と長野県北部の担当ですね」
「なるほど……」
一美が感心したように呟く。億葉が問う。
「なにか気になることはありますか?」
「よく耳にする、『干支妖(えとのあやかし)』とは?」
「妖たちの中でも上位に位置する妖です。何故なのかは分かりませんが、十二支を模した姿の為、そのように呼ばれております。はっきりとは分かりませんが、妖絶講にとっては千年の長きに渡る敵ですね」
「え、せ、千年ですか⁉」
「高い妖力を持っている為、完全に祓うことが出来ていないのが実情です。過去の記録や伝承を調べてみても封じ込めることなどが精一杯なようで……極めて厄介な存在です」
「そんな厄介な連中とこれまでどうやって……」
「これは不幸中の幸いと言いますか、連中の活動時期は限定されています。高い妖力を維持する為なのかどうか、正確なことはよく分かっていませんが、一定期間出現した後、大体十数年間沈黙することが多いです。ただ、ここ最近……」
「その沈黙が破られた、と……」
一美の言葉に億葉が頷く。
「そうです。活動し始めたことが確認出来ました。大いに憂慮するべき事態ですね」
「管区長クラスでも苦戦するようですね……」
「あの方たちは十二分に超人的な存在ですが、連中相手には流石に手こずっていますね。更にマズいことに……」
「更に?」
首を傾げる一美に億葉が説明する。
「干支妖の覚醒時期にはこれまでややズレがありました。一体、あるいは数体の出現にはなんとか対処することが出来ました。それが最近は一気に二体同時に同じ箇所での出現……! この事実が意味することは!」
「……!」
息を呑む一美に億葉が続ける。
「孤高の存在とも言える干支妖が連携を取っているという最悪の事態が想定されます」
「!」
「これまでの歴史ではあまり見られなかったことです。イレギュラーな事態ですね」
億葉がずれた眼鏡をクイっと上げる。そこに妖レーダーが反応する。勇次が叫ぶ。
「来たか!」
妖が多数出現する。一美が驚く。
「まだこんなにいたなんて! さっきの倍はいるわ!」
「へっ! 所詮数だけだ! 大したことはねえ、俺が片付ける!」
「お待ち下さい! さすがにこの数を一気に相手にするには大変であります!」
「億葉! じゃあどうするんだ!」
「ここはお任せを!」
億葉はリュックサックをゴソゴソとする。勇次が訝しげな視線を向ける。
「い、嫌な予感がするんだが……」
「『一億個の発明! その432! 煩悩退散爆弾! 倍の倍!』」
億葉が両手に抱えきれないほどの爆弾を取り出し、投げようとする。勇次が叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待て!」
「えーい!」
「‼」
「……山形では色々とバタバタしてご挨拶が出来ませんでしたね」
「ええ……」
「改めまして、上杉山隊分隊分隊長の豊園寺愁(ほうえんじうれい)です」
「ちょっと待て、なんで愁が隊長なんだ?」
「それはいいから、貴女も挨拶なさいな」
「……豊園寺哀(ほうえんじかなし)です」
「鬼ヶ島一美です。新参者ですのでご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
モニターに向かって一美が頭を下げる。モニター越しにショートボブの白髪をアシンメトリーにまとめ、左目を隠すように前髪を垂らしている女の子がそれに応える。
「私たち姉妹もまだまだ若輩者です、ともに切磋琢磨して参りましょう」
「姉妹で分隊を任せられるとは、相当優秀なのですね」
「いえいえ、それほどのものではありません……」
愁が手を軽く左右に振る。
「まだお若いのにしっかりとされていますね、お姉さまは……」
「……姉はアタシなんですけど」
愁とは反対に右目を隠している黒髪の女の子、哀がやや憮然とした様子で答える。
「え⁉ そ、そうなんですか⁉ 失礼しました!」
「視聴者にもよく間違われるから良いですよ……」
「視聴者?」
一美が哀の言葉に首を傾げる。愁が口を開く。
「普段は暇で退屈……もとい、自己を見つめ直す時間が多いため、その時間を利用して、動画配信などを行っております」
「よ、妖絶士の方が動画配信を……って、後ろに見える金の盾は⁉」
「チャンネル登録者数百万人を突破した記念に頂きました」
「そ、そんなにご活躍されているのですね……」
「大したものではありません。それよりも……その髪型はどうされたのでしょうか?」
愁は画面越しに指差す。一美の髪がチリチリのアフロヘアーになっていたからである。
「……ちょっと爆発に巻き込まれただけです、大したことではありません……」
一美は真顔で淡々と答える。
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