会社を辞めたい人へ贈る話

大野晴

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2.順調な推移

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 ペラペラだけれど面積が大きくて、食べた気になるようでならないお菓子。

「新人の園内辞太郎です。よろしくお願いします」

 僕は今、(株)アルファポリ商会宮城支店の事務所でお土産のお菓子をひとりひとりに渡しながら支店内の皆様に挨拶をしています。

 30名近く全体で採用しましたが、宮城支店の採用は僕ひとり。僕が配属される〝必須システム営業部〟には約5年ぶりの新人が来るという事で盛り上がりました。

 その時の僕は社会の事なんて何も知らなくて、例えばそこで話し方を学んだり、席順(ひな壇席だとか)を学んだり、序列を学んだりしました。

 まぁ、単純に言いますと昭和気質な会社でした。

 個人の感覚では、2015年の〝電通過労自殺事件〟の進展とともに2016、2017あたりが過渡期でパワハラや昭和気質への見直しが社会全体で行われて来たと感じています。
 もちろん世の中すぐに改善された訳ではありませんが、その後にやってくる新型ウイルスの流行で浮き彫りとなった無駄な風潮の排除が後押ししたと思います。

「彼女いるの?」なんて質問も当たり前。今ではこのワードすらセクハラと捉えられ兼ねないご時世。

「いません」

 飲み会になればヒートアップ。

「好きな体位は?」
「誰が一番可愛い?」
「コイツ、童貞だから女紹介してやってよ」
「キャバクラ行く?」

 ま、これも社会人だな、なんて思いながら飲み会は週2でありました。多いなって思いつつ、奢ってもらう事がほとんどだったのでホイホイついていったのを覚えています。飲み会は嫌いではありません。


 そんなこんなでゲームで言うチュートリアルの2ヶ月程度が経過した2014年7月頃。当時の営業部の課長が大切にしている顧客の案件をメインで僕がやる事になりました。
 これは課長とお客様が言わば僕の為に用意してくれた小さな案件です。それでも僕の事を見込んでくれた課長がメインで任せると言う事でやらせてくれました。

 アルファポリ商会は様々な商品を販売する会社ですが、僕が配属された〝必須システム営業部〟は、世の中にありふれたどこにでもある必須のシステムを売る訳です。これはフェイクの為にぼかしています。とにかくどのジャンルの相手にも販売出来るものと認識してください。

 僕は初めて、必須システムの販売を行います。というか、買う事が決まっている案件を任されました。

 営業が見積もりを出し、契約を行うと、アルファポリ商会の作業部門の人にバトンタッチし、システムの設置を行うのが主な流れです。僕は課長が信頼関係を築いたお客様に対し、慎重に、そして若者の勢い的なものをアピールして案件を進めました。

 その時の粗利は60%程度。必須システムというものは一般消費者に販売されていないものであり
、また一般的な値段は分かりません。その為、〝一般の民間企業〟にこれを販売する際のポイントはいかに営業トークで余計なオプションをつけ、値切りに対抗して利益を出すかがキモになります。

 まぁ本当に単純な事で、定価のないものを100円で売る際に最初は400円ぐらいに見せて値引きした誠意を見せて100円で売る訳です。その原価は40円。もっと利益を取っている会社や商品はあると思いますが、アルファポリ商会はそんな感じでした。

 この案件は課長の顔に泥を塗る事もなく、むしろお客さまには商品と私自身をご評価いただき、追加の受注を頂けるなど順調に事が運びました。ミスなんてありませんでした。これはそもそも仕事が取れる環境だった事、そして、その案件しか受け持っていなかったのでそれに注力する時間があったからです。

 こうして段々と僕は成長していき、半年が経った頃、僕の方向性が決まりました。

「辞太郎くんは賢いし真面目だから、公共のお客さまを任せたいと思う」

 ここからグレーでハードな日々が始まる訳です。

税金を食い物にする商売が。
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