ボディガード -触れられないお姫様-

大野晴

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昇進試験

13 イイ女の条件

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「るり今日は不機嫌」
 〝るり〟というのが彼女の本名。そして彼女は自分の事を名前で呼ぶ。明るい茶色の長い髪の毛の両サイドはパーマがかかっている。
 産まれつきそのスタイルに恵まれており、それなりの身長と17歳の平均を超えたバストサイズは人気少年誌からグラビアデビューの話が出た程だ。

 蜜葉みつはるりは不機嫌だった。

 今朝、この学校に登校した時に、挨拶をしなかった女教員がいたのだ。悪気があったわけではない。ただ、ふとした時にその通例の習慣を怠ってしまった。

(るりが登校して歩き出したら頭を下げる。それが学校のルールよ。呆れたわ、あの女教師)

 るりはスマホを取り出し、父に電話をする。

「おはようパパ」
『どうした』
「ヨシダって女教師、気に食わないの。クビにして」
 電話の先の父は娘の我儘に構っている時間は無い。
『・・・るり。そこがの学校だからと言って、それは権利の濫用だ』
「うるさい。ここはるりの学校」
 そう言って電話を切る。
 るりの父は忙しい身であり、娘の面倒事に付き合う余裕は無い。娘を説き伏せる時間と学校にもたらす不利益を天秤にかけた結果、無慈悲にも女教師吉田はその職を解かれてしまった。

(この学校は私のものよ)

 蜜葉るり16歳。誕生日に父から与えられたのは、私立蜜葉学園。学校そのものであった。




 ホテル極寒の事件から2か月以上が経過した。

 あの事件から、再び通常の日々に戻る。鹿美華シークレットサービス研修センターにいるメンバーは鍛練の日々。各々の身体能力は増していった。
 しかし、皆が思うことは、鍛錬だけでは意味がないということ。現場ではどう行動するかが求められる。そういった事を事件で学んだ。

 年を跨ぎ、1月になったこの土地の寒さは尋常ではない。それなのに座学室には円柱のストーブがひとつだけ置いてあって、研修生たちは寒い思いをしている。

「さて!今日は抜き打ちテストだ」
 現れるや否やガンマン清がニヤつきながらペーパーを渡す。
「ええーっ!」
 座学は眠ってばかりの律がひとりだけ声を上げた。
「記述式ね。頑張って」
「おえーっ!」よりによって記述式かよ、と一人つぶやく律。

 その設問は、鹿美華家の関連企業について、どのような企業であるかを書くものであった。
 律は苦戦しつつも設問に向き合う。

(鹿美華家ぐらいは知ってる・・・)
 鹿美華家は莫大な資産家である。ここから直系の人間に代々使えてきた財閥系の人間が、資金援助のもと各自で企業を立ち上げ、今に至る。鹿美華家自体は企業組織ではない。

(鹿美華ファンド・・・この前銀行を吸収した会社だ・・・)

  鹿美華ファンド。その資金を元に企業の合併吸収を繰り返し成長してきた大企業。しかし、ファンド自体が直接何かの仕事をしているわけではない。代表取締役は青仮面の幕田まくた沙羅さら。やり手の女経営者だ。

(リーテック・・・ってなんだっけ?)

 海外法人、Reh-tech。こちらは鹿美華財閥の人間が使用する特殊な機械の製造を行っている。律達が使っているリーフォンもここで製作されている。独自の技術が強みだが、鹿美華関連の人間にはいっさいその技術を渡さない。

(医療法人鹿美華会・・・鹿美華病院なんてあんのかよ・・・)

 他にもシステム開発会社、ツノシステム。兵器製造、鹿美華重工・・・企業形態は多岐に渡る。特に鹿美華ファンドの傘下となれば企業数は150を越え、これらに関わる人間というのは100万人を越えると言われている。

(これが俺たちの職場・・・)

 鹿美華シークレット・サービス通称S3。律達が所属する企業だ。代表取締役社長、枝角若草。

 最後の設問はこうだった。

・鹿美華四強を列挙せよ

(鹿美華四強・・・聞いたことある様な・・・) 
 それは鹿美華系列の企業の中でもトップを誇る4社を指す。S3、鹿美華ファンド、鹿美華重工、医療法人鹿美華会。
 この組織は株の半数を鹿美華琥太郎が所持し、その残りを各々が持ち合っている。各社の決め事は各社と鹿美華琥太郎によって話し合われる。

 



「抜き打ちテストだなんて、ふざけた野郎だの」
「全然ダメだった・・・」

 その日の夜。律と優花里の部屋。ふたりで並んでテレビを見ている。ホテル極寒の一件で、阿吽の呼吸が通じ合って以降、2人の距離は接近していた。それは俗に言う友達以上恋人未満のところまで来ている。

 小早川優花里20歳。歳下の男に好意を抱く自分を認めたくない自分がいた。入った頃は華奢だった身体も、たくましく思える時がある。優花里は彼の中の雄というものを感じ始めていた。

 爽奏律17歳にとって優花里はあくまで二段ベッドで寝ている仲良しルームメイト、そんな立ち位置である。彼にとっては、恋愛は装備品。学校生活を生き抜くための武器だった。その環境に身を置いていない今は、そのような感情は芽生えていない。

 ふたりでテレビを見ている。恋愛リアリティショーと呼ばれる類の番組がはじまり、律ぐらいの歳の高校生達が出演し脚本に沿ってきらめく恋愛模様を展開している。
 その内容に沿って優花里がふと律に問いかけた。

「律は恋人とかいるのかの?」

 優花里は自然を装いつつも核心をつく様な事を聞いたのだった。
「いるっていえば・・・いるかな」
 律はその質問に頭の中に仕舞い込んで封印していた大変な案件を思い出す。

 リコ。
 運命が左右した日にファミレスに置き去りにし、最後に会ったのは学校。

「いるっていえばいる?」
「う、うん。ここに来る前に付き合ってた女の子。飛び出したように、ここに来たから。連絡も取れないし。あの子からすれば、ある日突然、俺が消えた・・・そんな感じになってると思う」

 実を言うと、律は見飽きるほど毎日見ていたはずのリコの顔を忘れかけていた。数ヶ月、たったそれだけ会わないだけで、新しい出会いや体験に脳の記憶領域は上書きされていってしまったのだ。

 そんな感傷に浸る律の顔面に、優花里の拳が飛んできた。ぶふっ、っと律は声を出し、倒れる。
「何やってんの」
 あたかも女代表のように振る舞い始める優花里。
「何やってるって・・・俺だって決意してきたんだ、ここに」

 律はあの日、決断をした。

 それが鈍らないように、リコだけじゃなく学校生活というものを全て置き去りにしてきた。スマホは壊れていたわけだから使えなかったし、友達にも連絡は取れない。リコはきっと悲しむ。そんな顔は見たくなかった。それでも、鹿美華小姫を守りたい。そういう想いがあったのだ。守りたい人がいる。そう言うわけで今に至るのだが、無論その様なストーリーを優花里は知らない。

「その子が可哀想だの」

 優花里は律がコネでここに入ってきた事以外、その事情を知らない。もちろん、小姫と律の体質の関係性のことなども知らない。だからこそ優花里にとって、律の一連の行動というのは、不可解極まりない。

「でも、忘れるっていうか、それはそれで置いてきたんだ。俺はこの仕事の為に」

「忘れられてないじゃん」
「そっ、それは優花里が突然聞くから・・・」

 優花里の残酷な女としての本性が現れる。

 律が弱っている事を察して、なんとなく優花里は律の手に触れてみた。弱っている相手に優しくする。そして近づいてみる。

 びくっ、っとなった律の手は、すぐに優花里の手から逃げ出す。

 優花里は心がきゅっとなる。

 そしてもう一度律の顔面に殴りを入れた。嫉妬や恥ずかしさを隠す為である。そしてすぐ二段ベッドの上に逃げ込んだ。

「寝るの」

 律はなんだかよく分からないまま起き上がり、苦い顔をしながらテレビの続きを見ていた。恋愛リアリティショーは都合の良い展開を見せ、次週に続く形になった。

 優花里は眠るふりをして、ベッドの上でそれを思い出していた。
 自分にも好きな人がいる。恋愛とは少し違うかもしれない。



 小早川優花里10歳。
 小学生の頃。

「女は遊びに混ざるなって馬鹿にされたの」

 少女優花里が家に帰るや否や、その日の報告から始まる。優花里はそれを2人いるうちの近い方の兄に話した。兄がふたりいる影響なのか、彼女はどこか男っぽい性格をしていて、男子達の輪に入りたがっていた。

「俺だったらブッ飛ばすぜそんな奴」

 優花里の兄、小早川優輝ゆうきは、8つ離れていて当時は高校生だった。長身で髪がうねっていて短絡的な男である。優花里の悩みに対しては、そういった抽象的かつ暴力的なアドバイスしか出来なかった。

 優花里はそんな優輝の事が好きだった。

「ブッ飛ばせるならやってるの」
「おめーはまだ弱っちいからな」
「みんな身体デカイし、強いの」

 優花里は優輝の強い姿を見て育ってきたのだ。でも、自分にはそれが出来ない。

 女だから。性差があるから。

「女を言い訳にすんな。鍛えろ」

 そんな理由すら、簡単に吹き飛ばす兄の回答。

「分かったの」
「イイ女の条件はひとつ。〝強い〟事だ」
「強い女・・・」

 優輝がそう言うので、その日から優花里は町内をマラソンしたり、格闘漫画を読んでエセ知識で練習したり、とにかく強くありたいと願うようになった。

 それから優花里は悪い意味で学校の嫌われ者になる。男勝りで喧嘩っ早くなり、同級生を骨折させた事もあった。優輝の言うイイ女とは少し違うが、優花里は周りの男達に認められていく快感を覚えた。それに応える様に、兄は優花里を褒める。

「優花里、やるじゃん」
「兄貴みたいにもっと強くなるの!」

 ただ、優花里のそれが通用したのは中学生までで、そこからは体格差で男に勝てなくなっていく。優花里は兄が好きだった。だから弱くなっていく自分が恥ずかしかった。イイ女の条件。そこから離れていってしまう。

 それでも兄の背中を追いかけた。強くなって、兄の様になりたいと。

 ただ、歳を重ね、その兄は家を空ける事が増えた。定職に就かず、短絡的で暴力的な仲間達と非行に走っていく。
 それでも優花里は身体を鍛えた。

 そして、あの日の事件が起きた。
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