ボディガード -触れられないお姫様-

大野晴

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昇進試験

15 セーフティレベル

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 優花里の回し蹴りを律がバックステップで避ける。右足を軸に左足で蹴りをしたかと思えば、連続して左足を軸に右足を飛ばしてくる優花里。

(危ねえ・・・)

 律はかろうじてそれを避ける。そうするとよろけて体勢を崩してしまった。それを逃すまいと優花里が飛び掛かる。その瞬間、律は両足を突き出してそれを拒む。優花里は咄嗟に律の突き出された両足を手にかけて綺麗に回転しながら跳ぶ。律は即座に体勢を立て直す。
 そしてまた優花里の足が飛んでくる。

 律は手のひらの角度を変え、それを受け流そうと試してみる。

「そこまでっ!」

 ガンマン清の掛け声。それを聞いた律は動きをやめたが、しなやかな動作の連続を優花里は途中で止める事が出来ない。

「律!避けろの!」
「ええっ!」

 律の顔面に優花里の蹴りが炸裂する。



「ご成長されたようですね。律さん」
 鼻血をティッシュに染み込ませ、散々な格好をしている律。優花里は気まずい顔をしている。ふたりの前に現れたのは枝角若草。相変わらず、ダンディズム溢れる英国紳士のような出立である。

「ツノじい!」
「社長さんだの!」

「どうしてここに?」
「とりあえず、準備をして下さい」
 若草が言う。続けてガンマン清がふたりに語る。

「説明は後でするよ」

 突然呼び出されたかと思えば、ボディガードの装備をしろと言われ、行き先のわからぬまま車に乗せられた律と優花里。

「ツノじい!どこに行くんだ?」
 明確な説明を受けていない律が若草に問いかける。車窓は黒く、外の景色は隠されたままだ。

 車は黒光のいつもの車で、頼り甲斐のなさそうないつもの運転手がいて、広い後部座席のシート1列目に若草が、2列目に立と優花里が座っている。

「おふたりにはこれからテストを受けてもらいます」
「テスト!?」
「私たちふたりだけなの?」優花里が尋ねる。

「ええ。おふたりにです」

 必要な部分だけ、若草は説明を始めた。

 数日前の鹿美華琥太郎の提案が発端であるという事。小姫が再び学校に通う事になったと言う事。そして年齢の近いふたりを同じく生徒として警護のために通わせると言う事。

 通学する場所が言わば敵地であるという事。

「おふたりにしか出来ない案件があります。その為の訓練・・・成績が良ければ、早期に研修所を出ての任務となります」
 若草は最後にそう答えた。

 ふたりにしか出来ない案件。
 という魅力的な言葉に興味を持ち、顔を見合わせるふたり。鹿美華家の話が隠し事ばかりなのは薄々勘づいてはいるが、この言葉は嬉しかった。

「うおっしゃ!飛び級だ!」
「早とちりがすぎるの」

 その時、ふたりは急激な睡魔に襲われる。



◆[21:05]

「んん・・・?」

 律は目が覚める。視界を確認する。天井。
 見たことある様な天井・・・

(え?学校?)

 あたりを見渡す。黒板、机がある。教室だ。自分は何故か教室にいる。懐かしい感覚だ。ただ、身体が重い。何かが取り憑いているような・・・

「ちょっ!」

 眠ったままの優花里が律に抱きついている。律のお腹に優花里の頭があり股間には彼女の右手が乗せてある。変な事を意識してしまう律。

「起きろ!優花里!」男としてのを感じた律が優花里の身体を起こす。優花里も動きだし、ここが教室である事に気がついた。
「いつの間にこんな所いるんだの」

 ボォ、という音の後、教室上部のスピーカーから若草の声が発せらる。

『黒板の反対側をご覧ください』

 ふたりの視線がそこへ向かうと、思わずぎょっとして声が出てしまう。

『今回の試験は、そこにある白いマネキン2体に汚れを付けずにこの校舎から出してあげる、というものです』

 優花里は話を聞きながら、黒板横のスイッチを押す。教室が明るくなった。2体のマネキンが立っている。服を着ておらず、全身白だ。

『尚、そちらを動けない警護対象と見立ててください。おふたりの邪魔をする仕掛けをいくつか用意しておりますので』

「ツノじい!質問!」と律がスピーカーに向けて話しかけるが、反応は全くない。

『それでは、開始です』そう一方的なアナウンスが流れ、ぼつっと言う音ともに途切れた。

「ええっとつまり・・・このマネキンを外に運ぶだけ?・・・それが試験って事か」

 律は表情を変えない白のマネキン2体を見ている。

◇[21:07 体育館内 モニタリング室]

 律と優花里の試験の為に買取り、水道や電源を復旧させた廃校。その敷地内の校舎から離れた体育館。そこに数名の人間が彼らの様子をモニタリングしている。

「相変わらずモヤシ体型だなありゃよ」
 タバコに火をつけるのは鹿美華琥太郎。
「筋肉量はまだまだですが・・・必要な筋肉は身に付いているようです」
 隣の若草がモニタを見ながら喋る。

「ですが、我々の兵器に勝ちうるとは思えない・・・」

 そう言って、タブレットで機械のチューニングをしているのは、鹿美華重工・開発部の本田ほんだすばるである。
 優しそうな顔とは裏腹に、人を殺す兵器を作る事に興味があり、その熱意を買われ今に至る。鳴り物入りで入ってからは、武器や兵器の開発に携わり、今回も新製品のモニタリングに参加していた。

「まずはセーフティレベルを5に設定し、様子見をしましょう」
 本田はタブレットの操作を行う。その様子を見た鹿美華琥太郎は面白そうにそれを奪う。

「この先、安全な任務なんてあってたまるかよ」
 どうやるんだ?と琥太郎が本田を脅し、その設定を変更する。

「ほほほ、本当に良いんですか?」
 セーフティレベル0。これは完全に機械が独自で動き、標的を狙うものだった。

自分てめえの命も守れない奴らに娘の命は預けられない」
「琥太郎様・・・やりすぎでは・・・」
「ハンデの為に、は解除しておいてやれ」

◆[21:08 教室]

「汚さなけりゃいいって事か」
 律と優花里はそのマネキンに近づく。白い綺麗なもので、関節を稼働させてポーズを変えられるようだ。
「おんぶさせて、1人1体、持っていこうの」
 そういって優花里がマネキンを持ち上げようとする。

 しかし。

「重いの」
「は?」
 律はマネキンを運んだことなどないが、そこまで重いとは思っていなかった。5~7kgのものが多いが、この特注のマネキンは通常の人間と同じ重さに設定してある。
 1体70kg。動かない人を動かすというのは、大変である。律は今それを感じ、以前抱っこした小姫がいかに華奢であるかを痛感した。

「2人で1体ずつ運ぶしかない」
「死体運びってこんな感じなのかの?」
「変な事言うなよ」

 まず、2人は2回に分けて、1体ずつマネキンを運ぶ事にした。しかし、すぐに運ぶわけではない。2人はガンマン清先生の教えを思い出す。

ー〝状況の確認を怠るな〟ー

 自分たちは今、どこに、どの位置にいて、ゴールはどこなのか?それを理解していない。マネキンの運び出しの前に、どの様な障壁があるのか、この建物の構造はどうなっているのか?敵はいるのか?それを知らなければならない。

「どうやらここは学校みてーだけど」
「指揮権はワタシが取る。律。状況把握行ってこいの」
「分かった。を頼む」
「任せろの私は教室を見てる」

 優花里は教室の窓から校庭を見てみる。大きな学校では無い様だ。全体的に寂れている雰囲気があり、ここは普段使われていないのだろうと察する。辺りの暗さとリーフォンの時刻を確認する。21時を過ぎていて、暗い。

 ふたりは移動の為に眠らされており、時間の間隔が狂っていた。遠くに見える体育館の一部の窓に明かりが灯っているのが確認できる。あそこに誰かがいるのだろう、そんな予想を優花里はしていた。

 律は教室の扉を開き、廊下へ繰り出した。ガラガラ、という引き戸を開いて廊下に足を踏み入れた時、ぴしゃっという音がする。

 律は即座に足元を見る。これが〝しかけ〟か、と律は把握した。泥水が廊下を満たしている。白いマネキンを汚さないためには慎重に歩く必要がある。

ー〝今回の試験は、そこにある白いマネキン2体に汚れを付けずにこの校舎から出る、というものです〟ー

 律はそのまま歩き出し、階段を探す。懐かしさすら覚える典型的な学校の構造ですぐにトイレ隣の階段を見つけ出す。その近くに電気のボタンがあり、それをつける。廊下に灯がついた。

 そして、階段を降りる。踊り場の階数表示があった。そこで律は優花里がマネキンと待機している場所が4階、そして降りて向かっているのが3階である事を把握する。

 3階フロアに降りた律はそのまま2階へは行かず、3階の状況把握を行う。廊下は同じく泥水で満たされている。

(この泥水がしかけ?幼稚だな・・・でも、マネキンは重いし、大変かも)

 フロアの電気をつける。3階廊下にいっきに灯りがついた。
 律のいる地点から廊下の先へ、波が伝播する様についていく灯り。

 その先にいたもの。

 律はそれを目撃するまで、これが単純な研修の延長線上にあるお遊びの試験だと思っていた。

 無論、遊びではないが、枝角若草ら試験を開催する側もゲーム感覚だった。しかしそのゲームは鹿美華琥太郎の悪魔の様な悪戯によって一変する。セーフティレベル、ゼロ。

 遠くからその姿が見える。機械猟犬ハウンドドックは4速歩行の兵器である。

 ジジジ・・・

 その眼差カメラが律の姿を捉えた。
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