ボディガード -触れられないお姫様-

大野晴

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バック・スタバー(:焼 イケニエ)

24 物故

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 律が蜜葉るりを助けたその日から5日後。その件は鹿美華内で〝ミサイル誤射事件〟と名付けられた。18時20分。都内某所、鹿美華ビル。そこに律と優花里はいた。鹿美華非定例会議が開催される。

 鹿美華琥太郎。枝角若草。鹿美華重工社長、豊田産日。ツノシステム兵器担当、道明寺どうみょうじじゅん。そして事件の場に居合わせた鹿美華小姫、爽奏律、小早川優花里。計7名が集まっている。

「まずは事実の説明をしろ。豊田」

 鹿美華琥太郎が鹿美華重工の豊田を立たせる。
「私からの報告が主となります」
 合わせてツノシステムの道明寺も立ち上がる。兵器とシステムは密接に繋がっている。



 律達が蜜葉るり主催の試合をしていた頃。蜜葉学園近くの基地局からミサイルが発射され、学校の校庭に落下した。それは5日前の出来事である。

「ツノシステム兵器担当の道明寺です。今回のログを解析しました。誰が射出操作を行なったのか・・・どうして射出が出来たのか・・・手を尽くし、調べました」

 律は改めて思い出す。自分の所有するリーフォンのアプリ〝ウェポン〟は、許可が降りた時のみ使用が可能だ。

 ウェポンの使い道は大きく2つ。武器支給と兵器使用。武器支給は指定したポイントに指定した武器箱を落とす。兵器使用はターゲットを設定し、その相手に向けて基地局から直接攻撃を行うものだ。

 誰が何を何時にどこで使ったのか、それらはシステムのログに残る。

 この一連のシステムの流れは、主に鹿美華のボディガードが、リーフォンと無線イヤホンを経由し、ツノシステムの処理を通して指令を送り、鹿美華重工の基地局から作動する、というものだ。

「ログから射出命令を出した人間を割り出しましたが」
 その言葉に、誰もが息を呑む。
「アカウントがありませんでした」と道明寺。同時にログの情報を載せた画面を映し出した。

「おいおい。アンタんとこのシステムは、誰か分からない人間にミサイルを撃たせたって事か?」
 鹿美華琥太郎は傑作だぜ、と言いながらタバコを吸い始めた。システムの管理者がシステムを追いかけ、それでいて不明確。そんな事は本来冗談では済まされない。

「ちょっと待ての。私たちの通信はリーフォンでしか出来ないんじゃないのかの?」
 優花里が臆せず意見した。優花里の言う通り、鹿美華の人間が使うリーフォンは秘匿性の高い通信を実現する為、他の使用する周波数とは異なる電波を利用し、特別な暗号化の処理を行なっている。
 基地局への指令もその通信網を通すしかない。
 リーフォンは起動する為に本人の指紋認証と顔認証の2段階での操作が必要だ。同時にそれを通して、誰がその端末を操作しているかを把握している。

「そうです。指示をした人物は把握出来ませんが、どのリーフォンから指示が与えられたかは確認できました」

 映し出された画面のログの文字の羅列の一部が強調された。

ー〝reh_phone No.309〟ー

「シリアルNo.309のリーフォンから、指示が出ています」
 そう言いながら、次の画面を展開する道明寺。
 シリアルNo.309のリーフォンの持ち主の情報が開示される。

「へぇ」と鹿美華琥太郎。

「309の持ち主の名は剱岳つるぎだけ双刃もろはです・・・元ですが」
 若草は信じられない、という表情をしている。
 律達にはその意味が分からない。出された画面には剱岳のプロフィールが書かれている。26歳。元S3所属。身長175cm体重68kg・・・

「ご存知かと思いますが、彼の登録は抹消されています」と道明寺。

「剱岳くんは・・・」と若草。

「ええ。3年前に亡くなったとされています」

 [ステータス:物故]という表示。

 ふぅ~。と煙を飛ばし、琥太郎はニヤついている。

のボディガードか。やっと尻尾を出したって事だな」

「リーフォンの位置情報はある一点で固定されていて、その動向を掴むことが出来ません」
「ある一点?」

 道明寺は次の画面を出す。リーフォンNo.309の位置情報は都内某所、色めく歓楽街のうちのひとつのビルを指していた。

「この位置で固定されています。位置情報を何かしらの操作をしているものと考えられます」
 自分達の造ったシステムが容易に改竄されている事を淡々と述べる道明寺。

 位置情報の詳細にはタテイビルと書かれている。

「俺は〝ここに来い〟って言ってる気がするけどなぁ」
 2本目のタバコを吸い始める琥太郎。

 道明寺はまとめに入る。先日のミサイル誤射事件は、誤射ではなく、故意であると言うこと。それはリーフォン309から指示されたということ。その持ち主は剱岳双刃、死んだとされている人間である事。

 そして309は幾多の改造や不正アクセスなどを行なっている可能性が高いという事。

「我々もセキュリティの対策強化を行いますが、ハッカーというものとはイタチごっこになります」と道明寺。
「現在、基地局は全て物理的に閉鎖を行っておりますが、国防との関係上、システムは早々に再開しなければなりません」と豊田が付け足す。

「それはさっきお役人のバカどもに言われたよ」

 そう言って、鹿美華琥太郎は律達を見る。罠だろうが乗り込むのが早い、そう考えた。待つという事は琥太郎の性に合わないのだ。

「おい。女。俺と一緒に乗り込むぞ」
 琥太郎は楽しい事を思いついた子どものような顔で優花里を指差した。

「えっ」思わず声が出る優花里。

「琥太郎様・・・お言葉ですが、これは分かりやすい罠なのでは無いでしょうか?」若草が意見する。他も同意見だった。発射を指示した端末が、わざわざ位置情報を残すというのは明らかな挑発行為だ。

 そんな言葉は琥太郎には届かない。彼には自身がある。どんな敵だろうと、制圧する自信があるのだ。

「俺のボディーガードとしてついて来い」若草の言葉を無視し、優花里との会話を続ける琥太郎。
「いつ行くの?」
「俺は待てる性分じゃねぇ。今から行く」



「ふ、ふたりっきりだな」

 爽奏・小早川家。
 会議の後、律は自宅に戻る。優花里はいない。ふたりはやることが無くて、とりあえず大広間でくだらないテレビ番組を見ていた。

「ふたりきりは嫌?」と小姫。
「いや、別に・・・」と言いつつもちょっぴり気まずい律。
 小姫にとってはチャンスだったのだが、うまく踏み込めない。だらだらと時間を過ごしながら、少しずつ準備をし、小姫は勇気を持って質問を投げかける。

 ずっと気にかかっていた質問。
 あの日、鹿美華病院で目撃した、未遂の事件。

「あ、あのさ。優花里ちゃんとは、どういう関係なの?」

「はっ!?」唐突な質問に焦る律。

「仲、いいよね」

 そう言われて、律は困る。優花里のことは好きだ。好きだが、恋愛感情とは違う。研修所で、同じ釜の飯を食べた仲。二段ベッドで毎日過ごした仲間。

「いや、まぁ・・・同期ってやつだし」

「私みたよ」

「何を?」

「律が病院で寝てる時、優花里ちゃん、貴方の頬にキスしようとしてた・・・」

 小姫はそれが気がかりだった。
 律にはその記憶がない。
 ぐっすりと眠っていたからである。

「はっ!?何それ!」
「ねぇ、どういう関係なの?」
「ど、同期の仲良しだって!」

 小姫は溜め込むのが苦手だった。なにより人間が下手だった。特異体質故に人との関わり方を知らない。

 そういうわけで、

「ねぇ、私の事、好き?」

 という直球の質問を惜しみもなく律に投げることが出来た。

 小姫の唐突な質問の連続に、ペースを狂わせられる律。律はまだ小姫の事は知らない。もちろん可愛いと思うが、それがまだ恋愛感情かどうかは分からない。

 ただ、分かる事はある。

「俺は・・・小姫の事守りたい。そう思って、ボディガードになったんだ」


 その答えは小姫の心を傷つけた。


「寝る」
「おい、まだ夕方だぞ」

 小姫は普通の感覚を持ってはいない。
 律は小姫の気持ちがわからない。
 律は特異体質の小姫に触れられるだけであって、彼女の気持ちまでは理解出来ない。

 結局、赤の他人なのだ。

◇[20:30 タテイビル前]

「おぉ、少しはイイ女になってるじゃねーか」
 鹿美華琥太郎は路上喫煙禁止の場所でも容赦なくタバコを吸う。待ち合わせの場所に現れた優花里の姿に驚く。

 ファッションは甘い・辛いで分類されることがあるが、その日の優花里の服装は辛い。琥太郎の指示で時間を与えられ、美容室へ向かい、洋服も準備した。何よりいつもはしていない化粧をしている。この姿は律に見せたかったの、と思う優花里。

「なんかイヤらしいところだの」
「イヤらしいと思うからそう見える」

 色めき立つピンクや紫の看板が立ち並ぶ一角。

「なにするんだの」優花里は何も聞いていない。
 琥太郎の指示はおめかしをしてこいと言う事だけだった。

「ここだな」

 タテイビルと書かれた雑居ビル。それを見上げる2人。まともな店が無い、と思う優花里。1階にはガールズバーがあり、呼び込みの女が看板を持って立っている。愛らしいメイド服姿。しかし、琥太郎の威圧感に少しずつ距離をとっていた。

 若い女、というものには価値がある。このタテイビルはそれを売りにしているような下品な建物だ。琥太郎は若い女は何かの交渉材料に使えるものだと思い、優花里を同行させたに過ぎない。

 リーフォンNo.309が位置情報を発信し続ける場所。タテイビル。

「剱岳という男を探している」
 琥太郎はメイドに語りかける。
「つ、つるぎダケ!?」
 怯えながら考えるメイドの脳内には刺々しいキノコが思い浮かぶ。

「おい女。お前じゃ話にならない。お前んとこのトップを出せ」
「て、店長の事ですか!?」
「早くしろ!」
 その言葉にメイドは身体を震わせて走っていく。

 しばらくして現れたのは、スキンヘッドの見るからにイカツい男。
 
「何か用です・・・っかっ?」
 男は琥太郎を見た瞬間、その圧倒的なオーラに怯む。

「剱岳という男を探している」

「誰ですか?知りませんよ」
 その瞬間、店の看板をバン!と蹴り飛ばす琥太郎。

「拉致が明かねぇな。おい。このビルの所有者を呼べ」
「ぇえっ!?」

「めんどくせぇ。このビルごと買い取ってやる」

 男は異様な状況に、明らかに動揺していた。
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