ボディガード -触れられないお姫様-

大野晴

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バックスタバー(:結 力任せ)

33 インチキ集団

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◆【鹿美華定例会まで6日】

 枝角若草の要求。それは鹿美華グループ内での自身の地位を絶対的な物とし、その主導権を握る事であった。6日後の鹿美華定例会でそれが実現される事で、人質となっている小姫と亜弥は解放される。

「俺を・・・殴ってください」

 枝角若草による小姫誘拐の翌日。
 琥太郎の呼び出しを受け、律と優花里は鹿美華病院にいた。開口一番、小姫を奪われた不甲斐なさから、律は琥太郎に自分を殴ってくれと懇願していた。あの日、気が緩んだ瞬間に、小姫と亜弥は攫われた。

「歯ァ、食いしばれ」
 その言葉に、律は罪を受け入れる様に、目を瞑り、奥歯に力を込め、歯を食いしばった。
 そして、その顔面に衝撃が走る。

 それは、律が想定していたものと違った。鹿美華琥太郎は両手を広げ、律の頬をぱん、と叩いた。殴ることは愚か、ビンタよりも弱い力で。
「シャキッとしろ」
 呆気ない返答、いつもの残虐性のかけらもないその拍子抜けの言葉に律は驚く。

 鹿美華琥太郎の精神は少しだけすり減っていた。

「わ!私も!闘魂注入してくれだの!」
 負けじと優花里が割って入る。優花里は復活した琥太郎に伝えたい事が沢山あった。
 
「行動で示せ」とだけ琥太郎は優花里に吐き捨てた。

 そんなやり取りをしていると、3人のいる部屋の扉が開く。
「みんな。場所を移そう」狭間が現れる。




 鹿美華病院地下1階守衛室。
 その部屋に集められたのは5人。
 律、優花里、琥太郎、狭間、そしてガンマン清。

「清先生!」
 律と優花里は恩師の登場に心を震わせた。

「久しぶり・・・って感じでもないね」
 清は少しだけ恥ずかしそうな顔をしている。彼が呼び出されたのは昨日の夜。それは琥太郎からの応援要請の電話だった。

「本題に入るぞ」そう言って琥太郎は煙草を吸い始める。

 今、この場所に呼ばれたメンバーは、琥太郎が〝信じる事にした〟人間だった。
 狭間が状況を話していく。
 裏切り者は枝角若草であったという事。そして、彼は剱岳双刃という過去の人間と手を組んでいるという事。亜弥と小姫がどこかに監禁されているという事。

 ふたりの解放条件は、S3が鹿美華グループの各種企業の実権を握るということである事。それが6日後に迫っているという事。

「・・・ツノじいはどうして裏切りを」
 律は琥太郎に尋ねる。
「真意は知らねえ・・・ただ」煙草の煙を吐き出し、琥太郎は続けて言う。
「あいつは〝小姫の為〟だと言っていた」

(小姫の為に?小姫を誘拐したりするのか?)
 律には理解出来なかった。

 律の隣で話を聞いている優花里には少しだけ迷いがあった。あの爆発の日、たしかに兄は鹿美華琥太郎を悪役としていた。
 兄を信じるならば・・・正しいのは琥太郎と対峙している枝角若草。でも兄は薬で頭がおかしくなっていたのも間違いない。優花里の中で今、鹿美華琥太郎の姿は揺れている。
 正義なのか悪なのか、そういう問いでは無い。

「ま、亜弥さんと小姫ちゃんを見つけ出せれば、とりあえずは要求を呑まなくて済むって事かな?」
 ガンマン清が意見する。
「それが手っ取り早いね」と狭間。
「そうすれば俺は若草を容赦なく殴り殺せる」
 琥太郎から漏れ出す若草への殺意に、律と優花里の胸が締め付けられた。

 ふたりを見つけ、救出する。
 それが目的だがその場にいるメンバーは、小姫や亜弥の消息を掴めていない。
 ふたりのリーフォンは通信が不可能な状態にある。位置情報で追いかける事も不可能であった。

「若草の野郎は平気で社長室にいる。アイツは絶対に吐き出すつもりは無い。更にはこれ以上の危害を加えた所で意味は無い」
 枝角若草は人質を利用する事で、暴力から逃れ、平然と呼吸をしている。その状況に苛立っている琥太郎。

「ただ、きっと潜伏できる場所は限られているはずだ」と狭間。
「ふたりを誘拐したのは間違いなく双刃クンだ。そうなれば彼が人質を連れて行きそうな場所をしらみ潰しに探せばいい」
 ガンマン清の言葉に、優花里が反応した。

「しらみつぶしって、そもそもアテはあるのかの?」


「透明教・・・」


「透明教?」
「僕は彼が透明教に入信していると思うんだ」

 律や優花里は剱岳双刃の事は知らない。ガンマン清達はその詳細を知っている。あの日の事。もし、あの日生きていたのだとすれば、彼は何かしらの後ろ盾があって活動できている。点と点が繋がっていく。

「猪苗代んとこと繋がりのあるインチキ集団の事か?」
 琥太郎も透明教の名前には覚えがある。

「うん。そのどこかの施設なら、簡単に隠せると思う。そんな気がする」
 このご時世、女2人を1週間監禁することなど容易ではない。逆説的に清は透明教の施設に匿われているのではないかと推察する。

「まずは情報収集だの!」

 鹿美華グループの人間が用いるリーフォン及び管理システムは通常通り作動している。
 この誘拐の件は律達以外、知る由もなく、他のS3の従業員達は今日も通常通り任務をこなしていた。表状、企業は通常通りに動いていた。

「鹿美華のシステムを使って何かを調べるのはやめておいたほうがいいね。まだ裏切り者がいるかもしれないし」

 システムを利用する事はログを残す事になるので、5人は一般的な通信網や通信機器を用いて調べる事になった。




 律達がその居場所を突き止められない場所に、剱岳双刃はいた。彼はテレビ画面に映る枝角若草と会話をしていた。

「こりゃあ派手にやられましたね、若草サン」

 モニタの向こうの枝角若草の姿に苦笑する双刃。
 老人相手に容赦ないな、と彼は琥太郎の残虐性を思い出している。若草の両腕は包帯が巻かれ、辛うじて右手を少しだけ動かせる程度の状態であった。

「これも小姫様の為・・・」
「いやぁ、凄い信念っすね。若草サン。何度も聞きますけど、ロリコンじゃないんですよね?」
「何を言ってるんです」
「失礼失礼」
「ところで、おふたりの様子は?」
「ああ、凄い元気。肝が据わってるよ彼女達。普通さ、提供された飯をホイホイと食べるか?オレの立場なら食べないよ。何が入ってるか分からないからね」
「少し安心しました」
「ま、たぶんだけど」

 双刃は亜弥や小姫が軟禁されながらも食事を摂っている理由を説明する。

「きっと彼女たち、逃げようとしてるんですよ。その為に力を蓄えてる」
「・・・逃げれるとは思いませんが、場合によっては」
「分かってますって若草サン」

 3重キーロックによって許可された者以外の入室は固く禁じられている部屋。そんな場所に亜弥と小姫がいた。大きくて無機質な室内。そこに軟禁されているふたり。部屋を出る事以外は何も禁じられていない場所。インターネットは使用できないが、テレビを含め多数の娯楽もある。

「お父さんがいつ来ても、私達頑張れる様にしないと」

 亜弥は母として、小姫を和やかな気持ちにする為、シャドウボクシングをしてみせた。

「そうだね」小姫もまた、娘として母の気分を穏やかにする為、笑ってみせた。
 ふたりはそもそも、自分達がどういった目的で誘拐され、軟禁されているのかも明確な理由は分からない。

 自分達がどこにいるのかも分からない。

 迎えがいつ来るのかも分からないし、この先どうなるかもわからない。ただ、なんとなく、この場所で過ごせと言われ、納得し、受け入れてしまった。それ程の人間味が剱岳双刃にはあった。



 鹿美華病院2階 事務室。
「透明教・・・ってニュースで聞いた事はあるけど、こんなに大規模だったんだ・・・」
 律はパソコンの置かれた部屋で優花里と情報収集を行っていた。
 これは至って地味な作業で、とにかく何かしらの情報を得るためにインターネットを閲覧していた。他のメンバーは別の場所で対策を講じている。
 ふたりは琥太郎たちにとっては重要な戦力ではないため、実りのない役割を任されていた。

「どうやらこの国で一番大きい新興宗教みたいだの」
「各都道府県、どこにでも支所がある・・・」
 仮に透明教に匿われていたとしても、残り6日、限られたメンバーで全国をしらみ潰しに探す事には無理があると悟る律。

「これじゃあ小姫ちゃん達がどこにいるか、分からんの・・・」
「少しでも・・・何か手掛かりがあれば・・・」

 ふたりは透明教について調べていく。新興宗教となれば、それを面白おかしく、有る事無い事情報が載せられていく。それを取捨選択するのは難しかった。それでも、火の無い所に煙は立たない、そういう気持ちで律は情報を集めていく。

 そして、その情報に辿り着く。

「・・・透明教の信者は猪苗代財閥の自然食品を好んでいる事が多い・・・か」
「それがどうかしたのかの?」
「いや、これ・・・」

 優花里は律のモニタを覗いてみる。猪苗代グループの健康食品の一覧の画像が載っている。

「正直、美味しそうだの」
「いや、これ・・・」

 律がマウスのカーソルを合わせたその部分には、ペットボトルが表示されている。ただの水に音楽を聴かせてクリーンにさせたという胡散臭い水。


「これ・・・リコが毎日飲んでいた水だ・・・」


 忘れかけていた彼女の顔。何故か律は彼女が毎日持って来ていたその水の事だけは思い出せた。


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