ボディガード -触れられないお姫様-

大野晴

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バックスタバー(:結 力任せ)

35 サービスエリア

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◇【鹿美華定例会まであと5日】

 琥太郎と清は透明教の総本山、双子市へ向かう事を決定。律達の同行を願うため、清が電話したのは、律がリコと別れた後だった。

「もしもし?律くんかい?」
『清先生!こっち終わったところ!流水邸!』
 電話の向こうの律は興奮していた。
「え?るすいてい?」
『第3聖域の流水邸って所にいるかもしれない!』
「律くん、流石だね」
『え?』
「僕たちも第3聖域が怪しいって話をしてたんだ」
『ところでどこなんだ!第3聖域て!今すぐいかなきゃ!』電話越しの律の声は焦っている。

「それを伝えようと思ってたんだ。そのまま新幹線で双子市に向かってくれ」
『ふ、双子市?』
「今日の19時、駅のホームで集合しよう」
『とりあえず了解です!』

 ガンマン清は通話を切る。
 そして何か吹っ切れたような律の勢いに安堵した。小姫を手放した罪悪感で元気が無いように見えたが、少しだけ光が射したようだ、と思った。

 そう思いながら彼は武器の手入れをしていた。

ー〝最後に若草から情報を吐き出せれば良い。剱岳双刃はそもそも死んだとしてる人間だ。最悪は殺す。その覚悟をしておけ〟ー

 琥太郎のその言葉を受け入れ、少しだけためらっている清。剱岳双刃は間違いなく敵だ。それでも、苦楽を共にした仲間である事もまた清にとっては事実であった。



「ハードスケジュールだの」
 再び、新幹線の駅のホームに立つ律と優花里。
 地元に戻ってきたかと思えば、直ぐに西日本へと向かう。ここから新幹線を乗り継ぎ、ギリギリ集合時間に間に合う所であった。

「駅弁でも買うか~」
「そうだの」

 そんな呑気な気分で新幹線に乗車したふたり。
 律は緊張が解けて、眠っていた。優花里はリーフォンではない方のスマホのバッテリーが低下していることに気付き、充電器を取り出しコンセントに挿そうとする。その時、手が滑った。
 静かな車内に、充電器の落ちる音が鳴り響いた。
 それは滑る様に前の座席の元へ向かう。優花里は慌てて充電器を拾いにいく。

「すみません・・・」
「ああ、これかい?」
 床下の充電器を拾う男。ついていない埃を払うよに手でそれを拭き、優花里に手渡す。
「ありがとうだの」そう言って優花里は自席に戻る。

 その男は優花里の顔に見覚えがあった。
 ただ、どこで出会ったのか、それとも誰かが彼女を紹介したのか、分からない。
 歳は取るものではないな、と男は思った。





「さて、行くか清」琥太郎がジープのエンジンを始動させる。
「いやぁ~、キツいね」助手席に座るガンマン清。
「何がキツいって?」
「車で5時間だぞ」
「すまないな、今は自分の運転しか信じられねえ」
「琥太郎と5時間会話持たないなぁ~」
「悪かったな」

 大きめの車体が動き出し、すぐに高速道路に侵入する。目指すは双子市、双子駅。律達と集合予定の場所だ。

「しかしまぁ、律クン達、御手柄だね」清は自分の生徒を褒め称えた。
 定かではないが聞き出せた情報。〝流水るすい邸〟という場所。

「まだ決まったワケじゃねえだろ」
「まぁそうだけど」

 調査は少しだけ進んでいた。
 狭間が提供した病院の監視カメラには双刃が小姫達を攫った際に乗っていったトラックが少しだけ映っていた。
 そのナンバーは「わ」から始まっており、いわゆるレンタカーであった。そこから琥太郎はレンタカー会社に金で物を言わせ、情報を吐き出させた。
 分かった事は、借りた本人は見ず知らずの人間であり、用意周到であった事、そして車は事件の翌日の夜に返却されていた。その場所は双子市では無いが、関西地方のとある場所であった。

 そこから考えると、余程のスピードでは無い限り、関西地方にふたりを輸送したことが分かる。
 ドライブレコーダーの記録はずっと同じ駐車場で動かないままで、姿を眩ませるために工作していることが分かった。
 当初の目論見通り、関西地方、双子市の第3聖域に軟禁されている可能性が高まった。
 無論、確証は無い。ただ、今の琥太郎達には可能性を潰す為に向かうしか無かった。

「若草は優秀だ」琥太郎がサイドミラーに目をやりながら清に語る。
「やっぱりか」

 高速道路上では、同じ車速で走る車が近くにいる事は多い。それでも、琥太郎の嗅覚は嗅ぎつけた。嫌な距離感を保って後ろを走るワンボックスカー。あれは敵だ。

「俺らの行動を見張ってるみたいだな」
「どうする?」
西日本こっちに向かってるという時点で、情報は若草に入ってるだろうよ。焦る事はねえ。どこかで止まって、仕掛けてきたら返り討ちにする」

「了解。それまで寝てていいか?」

「構わねえよ。仕事はしろ」

「琥太郎さん。俺はしっかり寝たい派だ」
 緑の看板が5km先にあるSAを示している。
「早く済ませて寝たいって事か?」
「そうだね。後は久しぶりだから、ちょっと練習をしておきたくて」
「しょうがねえな」






 トイレと自販機、閉鎖された小さな売り場、数台の車が停車している寂しい敷地のサービスエリア。
 そこに琥太郎のジープが停車する。清は後部座席から工具箱を取り出し、短い方の銃を取り出す。
 清の武器はふたつ。短い銃と長い銃。長い方は余程の事がなければ使うことはない。

「さて、銃の腕前を試してくるよ」ポケットにその銃を隠す様に入れる。
「鹿美華のボディガードは武器を持たないんじゃねえのかよ」
「鹿美華のボディガードは〝基本的に〟武器を持たないだけだ」
「ふん」

 時間差で現れたワンボックスカーが車線を変更し、同じくサービスエリアに侵入したタイミングで清は座席から降り、排気ガス混じりの外の空気を吸いながら、迫ってくるワンボックスカーを睨みつける。

 その車は減速する事なく走り続けた。自分、もしくは琥太郎の乗るジープをそのまま跳ね飛ばそうとしている様に思える。
 判断が鈍る前に清はその車のタイヤを撃ち抜いた。
「バキュン!」
 それは西部劇さながら、ポケットから銃を取り出し、目にも止まらぬ速度での発射である。放たれたそれは綺麗に左前輪を撃ち抜く。タイヤはパンクし、車は揺らしながらガードレールに衝突した。

 同時に清が目視出来ない側の後部座席がスライドする。清はその音だけを確認する。

 車と地面の隙間から、清に向けて回転体が転がってきた。
 もう何度も見た筒型のものである。爆弾だ。清はそれが飛び出してきた瞬間に引き金を引く。見事な腕前で、その標的に銃弾が貫通する。
 しかし、それは作動しない。揺動の為のフェイクだった。その一瞬の間に後部座席の窓が少しだけ空き、スナイパーライフルが彼に狙いを定め発砲する。
 清はそれを少し鈍った目で捉え、冷静に避ける。避けながら、もう1発を後部座席の窓に撃ち込むが窓ガラスにはヒビが入る程度であった。

 琥太郎はその姿を笑いながら眺めている。

 若草は清がこの場にいる事を知っているのだろう。相手は接近戦を望んでいない、車を盾にし射撃を避け、車から攻撃をする。若草は清の戦い方を理解していた。
 やるなアイツ、と思いながらタバコを吸い始めた。

「・・・運転席にひとり、後部座席にふたりの計3人ってところかな?」
 ガンマン清は誰に聞こえるでも無い声量で敵の数を確認した。
 車のタイヤに1発、ダミーの爆弾に1発、窓ガラスに1発。既に3発撃っている。短い銃に残る弾丸は3発。

「さてさて・・・」

 一度動きが止まる。後部座席からの銃口は清に向けられたままであった。それがいつ発砲されるか分からない。しかし、清はそれを避ける自信があった。

(そっちが来ないなら、こっちから行くよ)

 そう言うわけで、彼は車へ向かって走り出す。走りながら、清は銃を持ち帰る。銃口を持ち、ハンマーのようにグリップ部分でヒビの入った窓ガラスを叩いた。その力で、一度銃弾を撃ち込まれ耐久度の下がっていたガラスが一気に粉々に砕けた。

「ビンゴ」

 割れたガラスの視界の先には、予想通り3人の敵がいた。そして次の場面に切り替わると、車内は血塗れになっている。引き金を起点に人差し指で銃を回転させ持ち直し、即座に連射していた。

「うん、腕は鈍っていない」

 清は琥太郎の元へ戻る。

「さぁ、行くか」
「じゃ、寝るよ」

 ジープは再び双子市を目指す。
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