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バックスタバー(:結 力任せ)
36 幼気な少女
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◆
新幹線を乗り換え新幹線。そして、ターミナル駅から鈍行電車で双子駅に到着する。
律と優花里は屈伸運動をしていた。
「座りすぎて軽くむくんでるの」
律は優花里の足元を見る。強靭は筋肉を隠したその脚はむくみなど関係なく太い。
「そ、そうか・・・?」
改札を出ると、見慣れた姿の男が2人。琥太郎と清である。
「よぉ、お前らは無事に来れたか」
「新幹線の乗り換えぐらい簡単だの」その言葉に顔を見合わせて笑う琥太郎と清。
◆
ヤニの匂いが充満するジープの後部座席に乗る律と優花里。時間貸しの駐車場に停車したその車内で作戦会議は開かれる。
「剣岳双刃が透明教と繋がっているとしても、彼らは全面的には協力しないはずだ」
清は断言する。ただでさえ風当たりの強い新興宗教が大事を好む事などないと踏んでいた。
「という事はどういう事だの?」
「相手は例えば爆弾だとか、大人数の警備配置は行っていないと思うんだ」
第3聖域、双子市。そしてその中の透明教の施設、流水邸。
まずはそこにあたりをつけ、捜索をする。
清は適当に考えた作戦の説明を行う。
「流水邸は3段階での侵入を行う」
「3段階?」
「囮役が1本目。その回収役が2本目。そして琥太郎さんが3本目。寝ながら考えた作戦だ」
「俺は最後なのかよ」
タバコに火をつけて退屈そうに話を聞く琥太郎。
「琥太郎さんは暴れるから」とだけ清は説明する。
「最初の囮ってのは誰がやるんだの?」
「優花里クン。君にやってほしい」
「私?というか囮役って何をするんだの?」優花里は突然の使命に少し緊張する。
「流水邸は特別な事情を抱えた人を一時的に保護する場所。優花里クンは・・・その・・・家出少女的なものを演じて欲しい」
そもそも今回のメンバーに優花里が選ばれた理由、それは双刃が彼女の存在を大きく知らないから、それだけである。
律でも良かったはずだが、男を保護するよりは女を保護する確率の方が高いと清は考えた。
「で、1日後。僕と律クンが優花里クンの父と兄貴役で堂々と流水邸へ侵入する」
「な、なるほど・・・」うまく行くのか?と疑問を持つ律。
「うまくいかなければ3本目。琥太郎さんが登場」
「最初から俺が行ってぶっ壊せばいいだろうがよ、清?」吸い殻を缶の中にトントンとして入れる琥太郎。
「僕らだって事を荒立てたく無いだろ。ここは都市全体が敵地だって事を忘れちゃならない」
「作戦はいつ決行するんだの?」優花里が尋ねる。
「今日の深夜。優花里クンが不良少女を演じて流水邸に流れ込む」
「わかったの」
「翌日、17時頃。僕たちは君を迎えに行く」
◇【鹿美華定例会まで5日】
宗教都市といえども、全てが宗教関連の施設というわけでは無い。全国で見かけるチェーン店や一般企業なども多数この街には存在する。そういうわけで深夜でもある程度この街には活気があった。
優花里はなんとなく幼気な少女を演じながら、マップ検索でたどり着いたその場所の前に立っていた。
流水邸。そこは名前のイメージとは異なる現代的なコンクリートの建物で、周りはガラス張りになっている。
優花里はあえて、その周辺を彷徨く。それを10分ほど続けた頃、紫の装束を着た優しい顔の男が現れた。
「君、さっきからここら辺を歩いてるね。どうしたの?」
男は40代半ばといった感じで、清潔感はあるものの、視点によっては若い子を狙う不審者のようにも見えた。
「もう嫌なの・・・お家が」
優花里はませた小学生女子を意識して喋る。
「どうしたのですか?」
「お兄ちゃんはエリートでいつも私を馬鹿にして、お父さんは私を見下して暴力を振るうの」
優花里はそこから嘘をでっちあげた。複雑で厳格な家庭環境、その落ちこぼれの娘…帰る場所がないの。そう説明する。
「・・・君の家族はこの街の住人かい?」
「違うの・・・」
「じゃあ、透明教には入っていないんだ?」
「そうなの・・・」
その言葉だけを拾ったかのような反応。男はにやけた。この男からすれば、自分の地位の向上には信者を増やす事が必要で、その機会が今訪れたのだ。
「少しお茶でも飲んで行きませんか?」
「えっ・・・」
「大丈夫。君みたいな子達もここには沢山いるんだ・・・この建物はそういう場所」
「わ・・・わかったの」
こうして意図も容易く、流水邸への侵入を成功させる優花里。男はこの女を保護し、信者を増やす方法を考え始めた。
◆
「酒も飲めねえのか」
双子市から移動し、近辺の大都市に宿を取った3人。ホテルのレストランで夕食を取る。
琥太郎は水の様にワインを飲み干す。清は照準がブレるなどと適当な嘘をつき酒を飲んでいない。律にも酒を飲まない理由がある。
「いや、未成年なんで」
「真面目だなお前は」
「いやいや!それに仕事中な訳ですし!」
琥太郎は何故か笑ってしまった。きっと女の子じゃなくて、男の子が産まれていたら、こんな会話をしていたのだろうな、そんな気がしたからである。
その時、律のスマホが鳴動した。
「優花里からメールだ」
ー〝無事潜入。ロックのかかっている部屋が多数。可能性有〟ー
その画面を見せる律。
「やはりきな臭いな、流水邸は」清は冷静だ。
「しかし、ここがスカだったらいよいよやべーな」
「その時は、その時で考えよう」いつになく弱気な琥太郎を励ます清。
「あっあの・・・もしもの時は・・・」律は恐る恐る、2人に意見をした。律には作戦があった。
「…余計なマネしやがって」
琥太郎はワインを飲み干す。
◇
流水邸内部の応接間で、優花里は男の対応に追われた。律達へ連絡を取れるまでの間、彼女は精神的に滅入る様な宗教の宣伝を受けた。
男は優花里が作り出した嘘のエピソードに対し、透明教の信者になる事でそこから救われるという話で対応した。その対話は2時間ほど続いた。
そして優花里はせんべい布団が雑に置かれた部屋に案内された。
「今日は遅い。ここで寝て、明日、親のところに帰りなさい」
そう言って男は去っていく。それを確認し、優花里はトイレを探すフリをして部屋を出て、建物内を確認する。
流水邸。
外部は近代的やガラスとコンクリートに囲まれているが、敷地内は日本庭園をイメージ出来るものである。中央に枯山水があり、それを囲う様に通路があり、そして部屋が沢山ある。
優花里は扉を確認していく。
開きそうな扉は間違えたフリをして開けるが、そこに小姫や亜弥はいなかった。
扉の開かない部屋が、2部屋あった。
こうして優花里は律に連絡をする。
ー〝無事潜入。ロックのかかっている部屋が多数。可能性有〟ー
「開かない扉の前でスマホをいじり、例えば誰かに連絡している様な手の動き。怪しいといえば怪しい。お前は誰だ?」
優花里は彼の顔を見て、それが剱岳双刃である事に気付いた。それを悟られぬ様に彼女は顔色を変えない様に答える。
「私、今日、一晩だけ止めてもらう事になったの」
「お前の予定は聞いてない。お前は誰だ?という質問をしている」
「見ての通りだの」
既に優花里は脳内で双刃との格闘を想定していた。この男は間違いなく自分に疑いをかけている。そして、それを晴らすのは難しい。
「そうか。見ての通りの怪しい女。ここに来る人間は皆弱っている。なのに、お前の脚は鍛えられた様に太い。例えば、格闘家のような、例えば、ボディガードのような…」
その言葉の瞬間、優花里は踵を返し、逃げる様に廊下を走り出した。
事前の情報によれば剱岳双刃は天糸を使う。
距離を近づけて、その罠に掛かってしまっては命取り。まずは敵の力を確認しなければならない。
「鹿美華の人間か」
双刃も追いかける。
優花里は枯山水のある中央庭園へ飛び出した。枯山水の中心には透明な板がある。
その板越しに、ふたりは対峙した。
新幹線を乗り換え新幹線。そして、ターミナル駅から鈍行電車で双子駅に到着する。
律と優花里は屈伸運動をしていた。
「座りすぎて軽くむくんでるの」
律は優花里の足元を見る。強靭は筋肉を隠したその脚はむくみなど関係なく太い。
「そ、そうか・・・?」
改札を出ると、見慣れた姿の男が2人。琥太郎と清である。
「よぉ、お前らは無事に来れたか」
「新幹線の乗り換えぐらい簡単だの」その言葉に顔を見合わせて笑う琥太郎と清。
◆
ヤニの匂いが充満するジープの後部座席に乗る律と優花里。時間貸しの駐車場に停車したその車内で作戦会議は開かれる。
「剣岳双刃が透明教と繋がっているとしても、彼らは全面的には協力しないはずだ」
清は断言する。ただでさえ風当たりの強い新興宗教が大事を好む事などないと踏んでいた。
「という事はどういう事だの?」
「相手は例えば爆弾だとか、大人数の警備配置は行っていないと思うんだ」
第3聖域、双子市。そしてその中の透明教の施設、流水邸。
まずはそこにあたりをつけ、捜索をする。
清は適当に考えた作戦の説明を行う。
「流水邸は3段階での侵入を行う」
「3段階?」
「囮役が1本目。その回収役が2本目。そして琥太郎さんが3本目。寝ながら考えた作戦だ」
「俺は最後なのかよ」
タバコに火をつけて退屈そうに話を聞く琥太郎。
「琥太郎さんは暴れるから」とだけ清は説明する。
「最初の囮ってのは誰がやるんだの?」
「優花里クン。君にやってほしい」
「私?というか囮役って何をするんだの?」優花里は突然の使命に少し緊張する。
「流水邸は特別な事情を抱えた人を一時的に保護する場所。優花里クンは・・・その・・・家出少女的なものを演じて欲しい」
そもそも今回のメンバーに優花里が選ばれた理由、それは双刃が彼女の存在を大きく知らないから、それだけである。
律でも良かったはずだが、男を保護するよりは女を保護する確率の方が高いと清は考えた。
「で、1日後。僕と律クンが優花里クンの父と兄貴役で堂々と流水邸へ侵入する」
「な、なるほど・・・」うまく行くのか?と疑問を持つ律。
「うまくいかなければ3本目。琥太郎さんが登場」
「最初から俺が行ってぶっ壊せばいいだろうがよ、清?」吸い殻を缶の中にトントンとして入れる琥太郎。
「僕らだって事を荒立てたく無いだろ。ここは都市全体が敵地だって事を忘れちゃならない」
「作戦はいつ決行するんだの?」優花里が尋ねる。
「今日の深夜。優花里クンが不良少女を演じて流水邸に流れ込む」
「わかったの」
「翌日、17時頃。僕たちは君を迎えに行く」
◇【鹿美華定例会まで5日】
宗教都市といえども、全てが宗教関連の施設というわけでは無い。全国で見かけるチェーン店や一般企業なども多数この街には存在する。そういうわけで深夜でもある程度この街には活気があった。
優花里はなんとなく幼気な少女を演じながら、マップ検索でたどり着いたその場所の前に立っていた。
流水邸。そこは名前のイメージとは異なる現代的なコンクリートの建物で、周りはガラス張りになっている。
優花里はあえて、その周辺を彷徨く。それを10分ほど続けた頃、紫の装束を着た優しい顔の男が現れた。
「君、さっきからここら辺を歩いてるね。どうしたの?」
男は40代半ばといった感じで、清潔感はあるものの、視点によっては若い子を狙う不審者のようにも見えた。
「もう嫌なの・・・お家が」
優花里はませた小学生女子を意識して喋る。
「どうしたのですか?」
「お兄ちゃんはエリートでいつも私を馬鹿にして、お父さんは私を見下して暴力を振るうの」
優花里はそこから嘘をでっちあげた。複雑で厳格な家庭環境、その落ちこぼれの娘…帰る場所がないの。そう説明する。
「・・・君の家族はこの街の住人かい?」
「違うの・・・」
「じゃあ、透明教には入っていないんだ?」
「そうなの・・・」
その言葉だけを拾ったかのような反応。男はにやけた。この男からすれば、自分の地位の向上には信者を増やす事が必要で、その機会が今訪れたのだ。
「少しお茶でも飲んで行きませんか?」
「えっ・・・」
「大丈夫。君みたいな子達もここには沢山いるんだ・・・この建物はそういう場所」
「わ・・・わかったの」
こうして意図も容易く、流水邸への侵入を成功させる優花里。男はこの女を保護し、信者を増やす方法を考え始めた。
◆
「酒も飲めねえのか」
双子市から移動し、近辺の大都市に宿を取った3人。ホテルのレストランで夕食を取る。
琥太郎は水の様にワインを飲み干す。清は照準がブレるなどと適当な嘘をつき酒を飲んでいない。律にも酒を飲まない理由がある。
「いや、未成年なんで」
「真面目だなお前は」
「いやいや!それに仕事中な訳ですし!」
琥太郎は何故か笑ってしまった。きっと女の子じゃなくて、男の子が産まれていたら、こんな会話をしていたのだろうな、そんな気がしたからである。
その時、律のスマホが鳴動した。
「優花里からメールだ」
ー〝無事潜入。ロックのかかっている部屋が多数。可能性有〟ー
その画面を見せる律。
「やはりきな臭いな、流水邸は」清は冷静だ。
「しかし、ここがスカだったらいよいよやべーな」
「その時は、その時で考えよう」いつになく弱気な琥太郎を励ます清。
「あっあの・・・もしもの時は・・・」律は恐る恐る、2人に意見をした。律には作戦があった。
「…余計なマネしやがって」
琥太郎はワインを飲み干す。
◇
流水邸内部の応接間で、優花里は男の対応に追われた。律達へ連絡を取れるまでの間、彼女は精神的に滅入る様な宗教の宣伝を受けた。
男は優花里が作り出した嘘のエピソードに対し、透明教の信者になる事でそこから救われるという話で対応した。その対話は2時間ほど続いた。
そして優花里はせんべい布団が雑に置かれた部屋に案内された。
「今日は遅い。ここで寝て、明日、親のところに帰りなさい」
そう言って男は去っていく。それを確認し、優花里はトイレを探すフリをして部屋を出て、建物内を確認する。
流水邸。
外部は近代的やガラスとコンクリートに囲まれているが、敷地内は日本庭園をイメージ出来るものである。中央に枯山水があり、それを囲う様に通路があり、そして部屋が沢山ある。
優花里は扉を確認していく。
開きそうな扉は間違えたフリをして開けるが、そこに小姫や亜弥はいなかった。
扉の開かない部屋が、2部屋あった。
こうして優花里は律に連絡をする。
ー〝無事潜入。ロックのかかっている部屋が多数。可能性有〟ー
「開かない扉の前でスマホをいじり、例えば誰かに連絡している様な手の動き。怪しいといえば怪しい。お前は誰だ?」
優花里は彼の顔を見て、それが剱岳双刃である事に気付いた。それを悟られぬ様に彼女は顔色を変えない様に答える。
「私、今日、一晩だけ止めてもらう事になったの」
「お前の予定は聞いてない。お前は誰だ?という質問をしている」
「見ての通りだの」
既に優花里は脳内で双刃との格闘を想定していた。この男は間違いなく自分に疑いをかけている。そして、それを晴らすのは難しい。
「そうか。見ての通りの怪しい女。ここに来る人間は皆弱っている。なのに、お前の脚は鍛えられた様に太い。例えば、格闘家のような、例えば、ボディガードのような…」
その言葉の瞬間、優花里は踵を返し、逃げる様に廊下を走り出した。
事前の情報によれば剱岳双刃は天糸を使う。
距離を近づけて、その罠に掛かってしまっては命取り。まずは敵の力を確認しなければならない。
「鹿美華の人間か」
双刃も追いかける。
優花里は枯山水のある中央庭園へ飛び出した。枯山水の中心には透明な板がある。
その板越しに、ふたりは対峙した。
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