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叶わない想い

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「キャロル…
おまえはそれで本当に納得出来るのか?
一生、この魔物の森に閉じ込められているだけでも辛いだろうに、その上そんな…」

ギディオンの言葉に、キャロラインは静かに首を振る。



「ギディオン、私は閉じ込められているわけじゃないわ。
最初はそうだったかもしれない。
ここから逃げ出したくて皆の目を盗んでは毎日出口を探して歩いたわ。
……でも、今は私の意思でここにいるの。
そりゃあ、家族のことは気になるけど…あなたの傍にいることが幸せで仕方ないから、私はここを離れたくなんてないわ。
ずっとあなたの傍にいたい!」

「キャロル…」

二人の視線が絡み合い、キャロラインの柔らかな唇が、ギディオンの形の良い唇と熱く重なる。



「キャロル…私もおまえと同じ気持ちだ。
私は森の守護者という立場から、他の魔物達ともいつもどこか距離を置いていた。
彼らもそうだと思う。
本当の感情を打ち明けられる相手は今まで誰もいなかった。
おまえは私にとって宝物のような存在だ。
……だが、私には責任がある。
森を守る守護者としての責任が…
いずれは、おまえの言う通り、誰かと家庭を持ち、私の跡取りを作らねばならん。
そうでなくとも……おまえと私では寿命が違う。
人間の寿命はあまりにも短い。
おまえを失う日が来る事を考えると、私は気が狂いそうになってしまうよ…」

「ギディオン…ありがとう。
私、そんなことを言ってもらえるだけで、幸せよ…!
先のことなんて考えなくても良い。
いつまでなのかはわからないけど、私はこうしてあなたと一緒にいられる時間を大切にしたい。
愛してるわ、ギディオン…」







それからしばらくした頃から、ギディオンはキャロラインが訪ねても家にいないことが多くなった。
そのことをキャロラインが問いただすと、ギディオンは、ただ、忙しいというばかりで詳しい事情を話すことはなかった。 
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