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月を見て
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「今日は満月だな。」
空を見上げ、目を細める夫の視線の先には丸い月が浮かんでた。
(あ……!)
同じようにして、空を見上げた私の頭にひらめくものがあった。
「もしかして…私の誕生日を思い出したのはあの月のせい?」
「バレたか…」
夫は俯いてくすりと笑う。
(覚えててくれたんだ…)
結婚前にはよく話したけど、最近は話すこともなくなったあのことを夫が覚えていてくれたと思うと、じんと来た。
「なになに?
ママのお誕生日とお月様がなにか関係あるの?」
「あれ?おまえ達は知らないのか?
ママが満月の晩に産まれたってこと…」
「知らないよ!」
「知らない!」
二人の声が、微妙に重なった。
「そうか、知らなかったのか。
ママのママ…つまりはおばあちゃんだけど、そのおばあちゃんは、せっかくこんな綺麗な満月の日に産まれたんだから、ママには月にちなんだ名前をつけようと思ったんだってさ。」
「え…でも、ママの名前は夏美だよ。」
「そうね。
おばあちゃんがそんなことを考えてることを知らずに、おじいちゃんが、次の日、勝手に役所に行って『夏美』って出しちゃったんだって。」
「あ~あ…おじいちゃんらしいね。
おばあちゃんはきっと怒っただろうね。」
またそんな生意気なことを言う息子に、私は思わず苦笑した。
私の父は、あわて者というのか落ちつきがないというのか…そういうところが多分にある。
まだ子供の息子にもそのことがわかっているんだと思うと、妙におかしかった。
「じゃあ、もしかしたらママは月美って名前だったかもしれないんだね。」
「へーんなの。
まるで月見だんごみたい。」
「月美じゃなくても…う~ん…そうだな、たとえば、観月とか…」
「えーーーっ!
そんなおしとやかな名前、ママには似合わないよ~!」
「それ、どういうことよ!」
「そういうのが似合わないって言うんだよ!」
ファミレスに着くまでの短い時間、月を見ながら私達は笑った。
ファミレスに着いてからも、そして家に帰るまでの間も、私達は他愛ない話をしては何度も大きな笑い声を上げた。
(今まで毎日苛々して子供達を叱ってばかりいたくせに…)
ちょっとしたことで、こんなにも気分は変わってしまう。
そんな自分自身に呆れて、私の顔にはまた笑みが浮かんだ。
「今日は満月だな。」
空を見上げ、目を細める夫の視線の先には丸い月が浮かんでた。
(あ……!)
同じようにして、空を見上げた私の頭にひらめくものがあった。
「もしかして…私の誕生日を思い出したのはあの月のせい?」
「バレたか…」
夫は俯いてくすりと笑う。
(覚えててくれたんだ…)
結婚前にはよく話したけど、最近は話すこともなくなったあのことを夫が覚えていてくれたと思うと、じんと来た。
「なになに?
ママのお誕生日とお月様がなにか関係あるの?」
「あれ?おまえ達は知らないのか?
ママが満月の晩に産まれたってこと…」
「知らないよ!」
「知らない!」
二人の声が、微妙に重なった。
「そうか、知らなかったのか。
ママのママ…つまりはおばあちゃんだけど、そのおばあちゃんは、せっかくこんな綺麗な満月の日に産まれたんだから、ママには月にちなんだ名前をつけようと思ったんだってさ。」
「え…でも、ママの名前は夏美だよ。」
「そうね。
おばあちゃんがそんなことを考えてることを知らずに、おじいちゃんが、次の日、勝手に役所に行って『夏美』って出しちゃったんだって。」
「あ~あ…おじいちゃんらしいね。
おばあちゃんはきっと怒っただろうね。」
またそんな生意気なことを言う息子に、私は思わず苦笑した。
私の父は、あわて者というのか落ちつきがないというのか…そういうところが多分にある。
まだ子供の息子にもそのことがわかっているんだと思うと、妙におかしかった。
「じゃあ、もしかしたらママは月美って名前だったかもしれないんだね。」
「へーんなの。
まるで月見だんごみたい。」
「月美じゃなくても…う~ん…そうだな、たとえば、観月とか…」
「えーーーっ!
そんなおしとやかな名前、ママには似合わないよ~!」
「それ、どういうことよ!」
「そういうのが似合わないって言うんだよ!」
ファミレスに着くまでの短い時間、月を見ながら私達は笑った。
ファミレスに着いてからも、そして家に帰るまでの間も、私達は他愛ない話をしては何度も大きな笑い声を上げた。
(今まで毎日苛々して子供達を叱ってばかりいたくせに…)
ちょっとしたことで、こんなにも気分は変わってしまう。
そんな自分自身に呆れて、私の顔にはまた笑みが浮かんだ。
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