お礼(無謀)企画

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
124 / 289
番人の館

しおりを挟む
静かに開いた扉の向こうにいたのは背の高い初老の男性で、なにも言わず僕の顔を見ていた。



「あ、あの…
突然訪ねて来て申し訳ありません。
実は僕…」

「迷われたのですね。
どうぞ、お入り下さい。」

「あ……ありがとうございます。」

男性は、僕が話すのを待たずに、僕を屋敷の中へ招き入れた。
男は振り向きもせず、僕の前をさっさと歩いて行く。
屋敷の中は、清潔に保たれ調度品が品良く並べられていたが、どこか古臭い感じがした。
そう…軽く百年は昔の雰囲気だ。
電化製品らしきものが何一つない。
明かりにまで、ランプや蝋燭が使われている始末だ。
いくら田舎だとしても、こんなに不便な生活をしているのはおかしい。
今時、電気が通ってない所などほとんどないはずだが…
そんなことを漠然と考えている間に男は階段を上がり、ある部屋の前で停まった。



「この部屋をお使い下さい。」

男は、ドアノブを廻し、扉を押し開けた。



「あ……あの、僕は、その……電話を貸していただければ、家の者に迎えに来てもらいますから、ここの番地を教えていただけますか?」

「あいにくですが、ここには電話はございません。
番地もないのです。」

「またそんな……番地がない所など……」

「本当にないのです。」

男は首を振ってそう言うと、口を真一文字に結んだ。



「……では、僕はどうす…」

「そうそう…大切なことを言っておかねばなりません。
外は霧が濃く、非常に危険です。
ですから、霧が晴れるまで決してこの屋敷の傍をお離れにならないように…」

「で…ですが、僕は…」

「ご心配はありません。
しばらく、ここで過ごされていたらきっとすぐに進めるようになりますから。
……あ、お腹は減ってませんか?
それともなにかお飲み物を…?」

「あの…えっと…
では、とりあえず、コーヒーをお願いします。」

「承知しました。
すぐにお待ちします。」



僕は、割り当てられた部屋の長椅子にどさりと身体を預けた。
どこか、おかしい。
あの男は親切ではあるけれど、どこか様子がおかしい。
この家の様子では、電話がないのは本当のことかもしれないが、番地がないなんて一体どういうことだろう?




(いや、その前にどうして僕はこんな所にいるのか、だ。)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...