お礼(無謀)企画

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
140 / 289
語られなかった物語

しおりを挟む
どう考えてもその身体を持ち上げることが出来そうには思えない透明の華奢な羽をぱたぱたと忙しなく羽ばたかせながら、そいつは俺の前にふんわりと舞い降りた。



「お、おまえは、パン屋の親父!
なんだって、そんな姿に…」

しかし、そいつは哀しそうな瞳をして、ゆっくりと首を振った。



「私はパン屋の親父などではありません。
私はパンの妖精です。」



……これはやっぱりなんらかの術だ。
あいつは、いつも俺がパンを買いに行くパン屋の親父に間違いない。
なのに、羽があって、空を飛んで、本人までもが自分のことを妖精だなんてぬかしやがる。
まともじゃない。
どう考えてもまともじゃない!
だが、そんなことを今問いただした所で、なにがどうなるとも思えない。
今、大切なのはこいつがなぜここに現れたかということだ。



(聞いてやろうじゃないか。)



「それで……どうかしたのか?
俺が勝手にここのパンを食べたことを怒ってるのか?」

パンの妖精は、再び首を振った。



「そんなことはどうだって良いんです。
……初めてお会いして突然こんなことを言うのもどうかと思うのですが…
旅人さん、私の話を聞いて下さいますか?」

「あぁ、聞かせてもらおうか。」

なんだかおかしなことになって来たと思いながらも、俺はパン屋の親父…いや、パンの妖精の話を聞いた。
そいつが涙ながらに語った所によると、パンの妖精の家に少し前から魔物が住みつき、そいつのせいで、家は崩壊寸前になって困っているということだった。



「パンの家を作るのはそう簡単なことではないのです。
パンの家の材料となる大パンの木は、ここにあるパンの木のように、毎日、実をつけるわけではありませんし、採って来たパーツをさらに裁断したり焼いたり手間隙をかけて作るのです。
そんな苦心して作ったパンの家をあいつは……好き勝手にかじり放題…そのせいで家はぼろぼろです。
しかも、魔物は家の中をごみためのように散らかした上に、占拠してますから、私達家族は、今、ホームレス状態なのです。」

そう言って、パンの妖精は前掛けの裾で涙を拭った。



「そうか、そいつは大変だな。
まぁ、頑張れよな。」

俺は、パンの妖精の肩をぽんと叩き、その場を立ち去ろうとした。
これ以上、おかしなことに関わりたくなかったからだ。 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...