お礼(無謀)企画

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
139 / 289
語られなかった物語

しおりを挟む
パンの香りに近付くに連れ、それと比例するように白い霧がだんだん薄くなっていく…
やがて、おぼろげだったあたりの風景がはっきりと見えるようになった時、俺の目の前に広がっていたのは森だった。



(牢獄に森なんてものはない。
俺は、気付かないうちにどこかに連れ去られたのか!?)



危険を感じながらも、俺は焼き立てのパンの香りの誘惑に抗うことは出来なかった。
もしかしたら、この森の中にパン屋があるのか?
美味いパンが食べられるのなら、怖い物等何もない!
俺は躊躇うことなく森の中に足を踏み入れた。



「な、なんだ、これは…!」



森の中をしばらく進んだ所で、俺は思わず心の叫びを声に出してしまっていた。



あたりに生える木々に実っているもの…
それは、パンだった。
ある木にはメロンパンが、そしてまた別のある木ににはグローブみたいなクリームパン、木によって実るパンが違うようだが、とにかく、どの枝にぶら下がっているのもすべてはパンだった。



(……ありえない。
木にパンが実るなんて…)



俺の思考は正常にそう判断した。
当然、そんな不自然なものに手を出すのは危険だ。
そんなことはわかっている…
だが、わかっていても、そのパンの香りはあまりにも甘美で…
俺の「パンを食べたい」という本能は、理性を簡単に打ち負かした。



(ここでこのパンを食べなかったら、俺はきっと一生後悔する!)



俺は手近にあったクロワッサンに手を伸ばした。
ほのかに温かいクロワッサンの感触をゆっくりと確かめる間もなく、俺はそれを口に運んだ。



(う………
うまいっっ!)



こんなにうまいパンがこんな所で食べられるなんて……これを奇跡と呼ばずして、何を奇跡と呼べば良いというのだろう。
感動に胸を震わせながら、俺はあたりに実ったパンを手当たり次第にもぎとっては頬張った。



(天国だ…
ここは天国だ…!)



至福の時に身悶えする俺の前に、不意に影が差した。
それと同時に羽ばたきの音が聞こえ、俺はその音に誘われるように上空を見上げた。 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...