178 / 289
旅立ちの日
3
しおりを挟む
想像とは比べものにならない程、現実は酷いものだった。
俺が飛ばされた場所は国境から離れた優勢な戦地だったが、敵の陣地の惨状は目を覆いたくなるようなものだった。
これが本物の戦なのかと、俺は心に大きな傷を受けた。
俺が入隊してしばらくしてから、我が国もついに戦に巻き込まれたとの噂を耳にしたが、ナロは首都からは遠く離れた田舎の村だ。
まず、心配はないと思えた。
だが、首都での戦いは熾烈を極め、警備隊の仲間にはすでに命を落とした者も少なくないという話には本当に胸が痛んだ。
村を出る時の俺は戦争はすぐにでもけりが付き、しばらく働けば戻れるだろうと甘く考えていたのだが、破滅の邪神との異名を持つクラッケル将軍の登場により、戦禍は一気に広がりを見せた。
クラッケル将軍の率いる軍は、黒魔導師の悪しき魔術を使い、完膚無きまでの破壊を続ける。
そこにある命は、どれほど小さな虫や草であっても見逃すことはなく、そしてすべてを焼き尽す。
クラッケル将軍は人間ではなく悪魔なのだと噂が流れた。
その非情な性格は自軍の者に対しても変わることはなく、気に食わない者やミスを犯した者は容赦なく消された。
そんなことから、最終的にクラッケル将軍は同国の兵士に暗殺され、それと同時に敵国は勢力と統制を失い呆気なく降伏した。
結果的に、俺は五年もの間、傭兵として働く事となり、そのお陰で俺の手元には予想していたよりもずっと多くの金が残った。
これだけあれば前よりも立派な教会が建てられる。
俺は、逸る気持ちを押さえ、故郷への道を急いだ。
だが、ナロの村が近付くに連れ、不穏な噂が耳に届いた。
ナロの近くの町がクラッケル将軍の軍に襲われたという噂だった。
いやな胸騒ぎを感じながら、俺は帰郷を急いだ。
噂は本当だった。
そこに町があったことが信じられないような悲惨な光景に俺は言葉を失った。
ニつの町が完全に息絶えていた。
だが、ナロの村は山を越えた谷合いの場所にある。
ただ、敵国だというだけで、わざわざそんな所に進軍して、戦う力さえ持たない純朴な田舎者達を殺す必要はない筈だ。
ずっとそう思っていた。
そうであってほしいと願っていた。
現実を目の当たりにしても、それを受け入れたくはなかった。
なのに、まだあたりにたちこめる焦げ臭いにおいや、地面の温かさやしんと静まり返ったこの不気味な静けさが、俺の五感に「これは現実だ」ということを無理矢理に押し付けて来る。
俺が飛ばされた場所は国境から離れた優勢な戦地だったが、敵の陣地の惨状は目を覆いたくなるようなものだった。
これが本物の戦なのかと、俺は心に大きな傷を受けた。
俺が入隊してしばらくしてから、我が国もついに戦に巻き込まれたとの噂を耳にしたが、ナロは首都からは遠く離れた田舎の村だ。
まず、心配はないと思えた。
だが、首都での戦いは熾烈を極め、警備隊の仲間にはすでに命を落とした者も少なくないという話には本当に胸が痛んだ。
村を出る時の俺は戦争はすぐにでもけりが付き、しばらく働けば戻れるだろうと甘く考えていたのだが、破滅の邪神との異名を持つクラッケル将軍の登場により、戦禍は一気に広がりを見せた。
クラッケル将軍の率いる軍は、黒魔導師の悪しき魔術を使い、完膚無きまでの破壊を続ける。
そこにある命は、どれほど小さな虫や草であっても見逃すことはなく、そしてすべてを焼き尽す。
クラッケル将軍は人間ではなく悪魔なのだと噂が流れた。
その非情な性格は自軍の者に対しても変わることはなく、気に食わない者やミスを犯した者は容赦なく消された。
そんなことから、最終的にクラッケル将軍は同国の兵士に暗殺され、それと同時に敵国は勢力と統制を失い呆気なく降伏した。
結果的に、俺は五年もの間、傭兵として働く事となり、そのお陰で俺の手元には予想していたよりもずっと多くの金が残った。
これだけあれば前よりも立派な教会が建てられる。
俺は、逸る気持ちを押さえ、故郷への道を急いだ。
だが、ナロの村が近付くに連れ、不穏な噂が耳に届いた。
ナロの近くの町がクラッケル将軍の軍に襲われたという噂だった。
いやな胸騒ぎを感じながら、俺は帰郷を急いだ。
噂は本当だった。
そこに町があったことが信じられないような悲惨な光景に俺は言葉を失った。
ニつの町が完全に息絶えていた。
だが、ナロの村は山を越えた谷合いの場所にある。
ただ、敵国だというだけで、わざわざそんな所に進軍して、戦う力さえ持たない純朴な田舎者達を殺す必要はない筈だ。
ずっとそう思っていた。
そうであってほしいと願っていた。
現実を目の当たりにしても、それを受け入れたくはなかった。
なのに、まだあたりにたちこめる焦げ臭いにおいや、地面の温かさやしんと静まり返ったこの不気味な静けさが、俺の五感に「これは現実だ」ということを無理矢理に押し付けて来る。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる