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旅立ちの日
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俺は、半ば放心したまま、ただじっと目の前の光景をみつめ続けていた。
気がつけば、あたりはいつの間にか薄暗くなっていて、まだ燃え残る炎の赤が昼間見たよりもなおさら鮮やかに見える。
これは夢ではないのか…?
俺は何度も何度も自分にそう問い掛けた。
そうだ……これが現実な筈がない。
十数年にも渡る長い戦がようやく終わり、傭兵だった俺は何週間もかけてようやく故郷へ戻って来た。
だから、俺の帰りを待っていたマギーやアイラが…父さんや母さんや町のみんなが俺を迎えてくれる筈なんだ。
毎年、皆で修繕を繰り返して来たが、どうにもこうにも古くなって来た町の教会…
いよいよ建て替えかという時に、俺は傭兵として戦に加わることを思い付いた。
俺は若い頃、城の警備隊に入っていたことがあった。
その頃、アイラとも知り合い、結婚を機に俺は故郷に戻る事を決め、警備隊を辞めた。
当時はまだ隣国の戦も始まったばかりで、しかも、それほど大規模なものではなかった。
だが、城の傍にいれば、いつかアイラが危険な目に遭うのではないかとの心配から、俺は帰郷を
決心した。
それからは、とても穏やかな日々が続いた。
若い頃はあれほど憧れていた都会での暮らしも、城の警護と訓練に追われ、たまの休暇にしか町に遊びに行くことは出来なかった。
アイラはうまいと評判のレストランで働く看板娘だった。
働き者で、明るく愛想の良い彼女に、俺は一目惚れした。
誰からも好かれる彼女に想いを寄せる者は多く、俺は自分に自信があったわけではなかったし、しかもとても忙しい身だ。
そんな俺の気持ちに彼女が応えてくれた時は、俺は夢かと思い、頬をつねった程だった。
アイラは持ち前の明るい性格で田舎の暮らしにもすぐに慣れてくれた。
刺激はないが、日だまりのように温かく満ち足りた日々だった。
ニ年後には、待望の娘・マギーが生まれた。
その頃、戦禍は徐々に広がりを見せ、我が国が巻き込まれるのも時間の問題だとの噂が広まっていたが、ナロの村ではそんな噂が信じられない程、いつもと少しも変わりないごく平和な日々が続いていた。
だからこそ、教会の建て替えなんて呑気なことが話し合われていたのだが、問題は金だった。
これといった産業のないこの村の財源は乏しい。
そんな時に、俺は隣国が傭兵を募集していることを知った。
命を賭ける仕事なだけに、報酬は破格だった。
家族はもちろん反対したが、俺はすぐにその話に飛びついた。
俺には警備隊を辞めた負い目があった。
自分だけがこれほど幸せに暮らしていることに、常に罪悪感のようなものを感じていた。
それに、実戦経験もなければ無知な田舎者だった俺は、本当の戦の怖さや悲惨さを知らなかった。
そうでなければいくら金のためとはいえ、傭兵になろうなどとは考えつかなかっただろうと思う。
俺は、半ば放心したまま、ただじっと目の前の光景をみつめ続けていた。
気がつけば、あたりはいつの間にか薄暗くなっていて、まだ燃え残る炎の赤が昼間見たよりもなおさら鮮やかに見える。
これは夢ではないのか…?
俺は何度も何度も自分にそう問い掛けた。
そうだ……これが現実な筈がない。
十数年にも渡る長い戦がようやく終わり、傭兵だった俺は何週間もかけてようやく故郷へ戻って来た。
だから、俺の帰りを待っていたマギーやアイラが…父さんや母さんや町のみんなが俺を迎えてくれる筈なんだ。
毎年、皆で修繕を繰り返して来たが、どうにもこうにも古くなって来た町の教会…
いよいよ建て替えかという時に、俺は傭兵として戦に加わることを思い付いた。
俺は若い頃、城の警備隊に入っていたことがあった。
その頃、アイラとも知り合い、結婚を機に俺は故郷に戻る事を決め、警備隊を辞めた。
当時はまだ隣国の戦も始まったばかりで、しかも、それほど大規模なものではなかった。
だが、城の傍にいれば、いつかアイラが危険な目に遭うのではないかとの心配から、俺は帰郷を
決心した。
それからは、とても穏やかな日々が続いた。
若い頃はあれほど憧れていた都会での暮らしも、城の警護と訓練に追われ、たまの休暇にしか町に遊びに行くことは出来なかった。
アイラはうまいと評判のレストランで働く看板娘だった。
働き者で、明るく愛想の良い彼女に、俺は一目惚れした。
誰からも好かれる彼女に想いを寄せる者は多く、俺は自分に自信があったわけではなかったし、しかもとても忙しい身だ。
そんな俺の気持ちに彼女が応えてくれた時は、俺は夢かと思い、頬をつねった程だった。
アイラは持ち前の明るい性格で田舎の暮らしにもすぐに慣れてくれた。
刺激はないが、日だまりのように温かく満ち足りた日々だった。
ニ年後には、待望の娘・マギーが生まれた。
その頃、戦禍は徐々に広がりを見せ、我が国が巻き込まれるのも時間の問題だとの噂が広まっていたが、ナロの村ではそんな噂が信じられない程、いつもと少しも変わりないごく平和な日々が続いていた。
だからこそ、教会の建て替えなんて呑気なことが話し合われていたのだが、問題は金だった。
これといった産業のないこの村の財源は乏しい。
そんな時に、俺は隣国が傭兵を募集していることを知った。
命を賭ける仕事なだけに、報酬は破格だった。
家族はもちろん反対したが、俺はすぐにその話に飛びついた。
俺には警備隊を辞めた負い目があった。
自分だけがこれほど幸せに暮らしていることに、常に罪悪感のようなものを感じていた。
それに、実戦経験もなければ無知な田舎者だった俺は、本当の戦の怖さや悲惨さを知らなかった。
そうでなければいくら金のためとはいえ、傭兵になろうなどとは考えつかなかっただろうと思う。
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