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運命の出会い

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部屋に通された二人は、長椅子に並んで腰を降ろした。



「今日からここがおまえの家だ。
屋敷は見ての通りだが、ここはクシュネルという由緒正しき貴族の屋敷でな。
クシュネル家の者だといえば、ボーランジェも快く受け入れてくれよう。
先程の当主はここの血筋ではない。
実は、あいつはクシュネルの娘婿なのだが、病的なギャンブル狂でな…」

クシュネルの屋敷はジェロームの屋敷とは比べ物にはならないが、貴族としてはごく標準的な屋敷だった。



「なるほど…そこを突いたということか…
悪いお方だ…」

「何を言う…
それも全てはおまえのためではないか。」

「ジェローム、あなたには本当に世話になった…感謝している。」

「ベルナール、おまえと離れるのはとても寂しい…」

「私も同じ気持ちだ…しかし、私はこの時代にいるわけにはいかない。
どうしても帰らねばならんのだ。」

ベルナールは、ジェロームの胸にそっとしなだれかかった。



「わかっているさ…
残念だが、おまえとは長くは一緒にいられないことは最初から感じていた。
どれほどの時の隔たりがあろうとも、私はおまえを愛し続けるだろう…
おまえが私のことを忘れないように…離れる前に、死ぬほど可愛がってやるからな…」

「ジェローム…
それは嬉しいが…本当には殺さないでくれよ…」

ベルナールが、ジェロームの耳もとで囁いた。



「何を…
おまえは、私に可愛がられて死んでしまうようなやわな悪魔ではないくせに…」

「いや、さすがの私もあなたには本当に殺されてしまいそうだよ。
私にやるべきことさえなければ、あなたに愛されながら死にたいくらいなのだがな…」

「相変わらずうまいことを言う唇だ…」

 失笑しつつも幸せそうな顔をしたジェロームの唇が、ベルナールのやわらかな唇に重なった…
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