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策略
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「旦那様、大丈夫でしょうか?
あれ以来、お二人がお部屋から出てこられないのですが…」
「運んだ食事はたいらげてらっしゃるのだろう?
ならば、心配はないだろう。
生きてらっしゃるということだからな。」
「生きてらっしゃることは間違いありません。
なんせ…あの…声が…」
「これ!下品なことを申すでない。
お二人は、別れを惜しんで今までの思い出話でもしてらっしゃるのだ。」
「は、はい、旦那様。」
結局、ジェロームが部屋を出て来たのは、それから五日後のことだった。
*
「クシュネル…世話になったな。
どうか、ベルナールのことをよろしく頼む。
奴に何か必要なものがある時は、使いをよこしてくれ。
奴は、これまで何不自由なく暮らして来た。
多少、無理を言うかもしれんが、出来るだけ応えてやってくれ。」
「かしこまりました、ジェローム様。
……それで、ベルナール様は?」
「まだ休んでいる。
目が覚めると、また別れ辛くなるからな。
私は、ここで失礼する。
では、頼んだぞ、クシュネル。」
「は、はい!ジェローム様!
ベルナール様のことは、命に代えて大切にお預かり致します。」
ジェロームはクシュネルに片手を差し出し、二人は力強い握手を交わしジェロームは屋敷を後にした。
ベルナールが、部屋から出て来たのはもうあたりが暗くなった頃だった。
「クシュネルさん、伯爵を見かけませんでしたか?」
少しやつれた様子のベルナールが、クシュネルに問いかけた。
「伯爵はお昼頃お帰りになりました。」
「帰った…?
……そうですか…」
「そうがっかりなさることはないでしょう。
お会いになりたければ、いつでもジェローム様のお屋敷をお訪ねになればよろしいではありませんか。
それと、ベルナール様、もうあなたは我が家の養子となられたのです。
私のことは…」
そう言って、クシュネルの言葉が途切れた。
「……どう呼ぶことに致しましょう?」
「……そうですね。
では、『父上』とでも…」
「おぉ…光栄です。
しかし、あくまでもそれは他人の目の前だけのこと。
それ以外では、どのようにでも…」
「いえ…あなたは、私の父上となった方です。
他人がいない時もそう呼ばせていただきますよ。
それと、私のことはベルナールと呼び捨てにして下さってけっこうですから。」
あれ以来、お二人がお部屋から出てこられないのですが…」
「運んだ食事はたいらげてらっしゃるのだろう?
ならば、心配はないだろう。
生きてらっしゃるということだからな。」
「生きてらっしゃることは間違いありません。
なんせ…あの…声が…」
「これ!下品なことを申すでない。
お二人は、別れを惜しんで今までの思い出話でもしてらっしゃるのだ。」
「は、はい、旦那様。」
結局、ジェロームが部屋を出て来たのは、それから五日後のことだった。
*
「クシュネル…世話になったな。
どうか、ベルナールのことをよろしく頼む。
奴に何か必要なものがある時は、使いをよこしてくれ。
奴は、これまで何不自由なく暮らして来た。
多少、無理を言うかもしれんが、出来るだけ応えてやってくれ。」
「かしこまりました、ジェローム様。
……それで、ベルナール様は?」
「まだ休んでいる。
目が覚めると、また別れ辛くなるからな。
私は、ここで失礼する。
では、頼んだぞ、クシュネル。」
「は、はい!ジェローム様!
ベルナール様のことは、命に代えて大切にお預かり致します。」
ジェロームはクシュネルに片手を差し出し、二人は力強い握手を交わしジェロームは屋敷を後にした。
ベルナールが、部屋から出て来たのはもうあたりが暗くなった頃だった。
「クシュネルさん、伯爵を見かけませんでしたか?」
少しやつれた様子のベルナールが、クシュネルに問いかけた。
「伯爵はお昼頃お帰りになりました。」
「帰った…?
……そうですか…」
「そうがっかりなさることはないでしょう。
お会いになりたければ、いつでもジェローム様のお屋敷をお訪ねになればよろしいではありませんか。
それと、ベルナール様、もうあなたは我が家の養子となられたのです。
私のことは…」
そう言って、クシュネルの言葉が途切れた。
「……どう呼ぶことに致しましょう?」
「……そうですね。
では、『父上』とでも…」
「おぉ…光栄です。
しかし、あくまでもそれは他人の目の前だけのこと。
それ以外では、どのようにでも…」
「いえ…あなたは、私の父上となった方です。
他人がいない時もそう呼ばせていただきますよ。
それと、私のことはベルナールと呼び捨てにして下さってけっこうですから。」
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