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帰還

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(……ここではいろいろあったな…)



ひさしぶりに訪れたスィーク・レノの丘から村を見降ろすベルナールの胸に様々な出来事が去来する…



(早く、奴らの元気な顔を拝みたいもんだな…)

記憶を取り戻すために各地を旅してみたいというベルナールに、ボワイエは、過分な程の金を持たせてくれた。
ベルナールは、最初の行き先にスィーク・レノを選んだ。
ケイトとエルスールが死んでしまった以上、もうスィーク・レノにはいないかもしれないが、ケイトやオルジェの墓は今もあの場所にあるはずだ。
そうなれば、きっとランディ達はそこに訪れるだろうと考えたのだ。

村の風景は、以前とそれほど変わった所は見受けられなかった。
農場も以前と少しも変わらず、その場所にあった。




「すみません。
少し、お尋ねしたのですが…」

ベルナールは、農場の母家を訪ねた。



「はい、なんでしょう?」

中から出て来たのは、まだ若い女だった。
ベルナールには、見覚えのない顔だ。



「以前、こちらにいらっしゃったケイトさんのことでお尋ねしたいのですが…」

「ケイトさん…ですか?
私達は、五年程前にここに来たので、詳しいことはわからないんですが…」

「こちらのおかみさんは?」

「さぁ…とにかく私達は、よそから来たものですから…
あ、あなた…」

ちょうどそこへ帰って来た若い男に話を聞いてみた所、この農場は以前の持ち主が亡くなり、売りに出されていたものを買ったということだった。



「そうだ、リンダさんは以前からここにいたそうですから、何か知ってるかもしれません。」

(リンダ…良かった…
あの女はまだここで働いていたのか…)

しかし、男が連れて来た女は、ベルナールが以前ここにいた時にいた使用人のリンダとは別人のようだった。




「リンダさん、この方がケイトさんという方のことを探してらっしゃるようですが、あなた、何かご存知ですか?」

「ケイト!…あんた、ケイトの知り合いなのかい?」

「いえ…実は、私の両親がケイトさんやオルジェさんと同じ町の出身で親しかったそうなんです。
私が旅行をすると言いましたら、ぜひ、二人によろしく言って来てくれと申しまして…」

リンダは、ベルナールの作り話を少しも疑ってはいないようだった。




「あんたのご両親が…
そういえば、そうだね。
あんたはルシファーと同じくらいの年だものね…
残念ながら、ケイトもオルジェももうとっくの昔に亡くなったよ…」

(とっくに…?)
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